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リ=ヴァース・ファンタジア  作者: 白雨 蒼
二章『トラディメント・スコア』
22/34

Side7:Estreva Side8:Ruug

 随行し続けていた術式(プログラム)に次々と走る異常事態(エラー)の文字に、エスターヴァは忌々しげに眉を顰め、歯ぎしりした。


「……まったく、何処の誰ですか……私の邪魔をするのは」


 複数のタッチパネルに表示されたキィを叩き、画面に走る文字羅列を凝視しながら愚痴を零す。舌打ちの数が多くなっているのを自覚しているが、それを抑制する術は今のところ彼にはなかった。

 そもそも、これほど大掛かりな大規模術式を阻害する術式を、即興で作り上げる人間(プレイヤー)がいるなど思ってもいなかったのである。予想外の事態に困惑し、対処に手間取ってしまうと、当然のようにストレスがたまる。

 エスターヴァの用意した術式は、巨大な召喚――否、あえて言葉を当てはめるならば、送還術式だった。

 今此処にある存在を、別の場所へと送る――そういう術式。

 多くのAINの命を代償に発動することのできる、一種の生贄を使った儀式(サクリファイスリトゥアル)である。

 今から半年ほど前。何処からともなく現れた少女にこの術式を手渡されたエスターヴァは、その少女に『これを以て多くの《来訪者》たちを元の世界へ還すことができる』――と教えられ、熟考の果てにそれを実行することを決めたのだ。

 ただ、もしこれが多くの人間を救いたいという崇高な意志であったのならまだしも、彼の目的はそんな善意からの無償の行為ではなく、自分の虚栄心を満たすための自己中心的な発想からの――いわば蛮行である。

 エスターヴァ・カルナスこと、白峰(しらみね)(まもる)は聡明な少年だった。人より多くの知識を持って、それを使って周りより秀でた自分――という自己陶酔することを愉悦としていた。

 それは〈ファンタズマゴリア〉をプレイしている時も変わらず、他を圧倒する存在となることだけに没頭し、超越存在の会《十二音律》に名を連ねたほどである。

 自分の思い通りにことを進める――それがエスターヴァ=護の矜持であり、愉悦だったのだ。

 だから、彼が現状に不満を覚えないわけがない。

 彼の目指したこと。即ち――《来訪者》たちの〈ファンタズマゴリア〉からの解放である。

 そのための手段を探り、計画を組み立て、長い時間をかけて――用意した。そして今、それを実行に移したというのに、どういうわけか、邪魔が入り続けている。

 地上では《漆黒の十字架》が今も暴れ回っているはずだが、思った以上に抵抗が強いのか、予定が大幅に遅れていた。エスターヴァの開いている画面(モニタ)に表示される万単位の数字は、この都市に現在留まっている《来訪者》の数を示す数値だが、その数の減りはエスターヴァの想定していた数字に比べ、圧倒的に多く残っているのだ。

 

 抵抗が激しい。


 さらに言えば、術式を阻害する新たな術式によって《漆黒の十字架》への援護(サポート)が阻害され、高度な術式で召喚したはずの魔物(モンスター)たちが、その新たな術式によってAIへ侵入(ハッキング)されて機能を停止しているらしい。


「……ふっざけやがって!」


 キィを叩く手を止め、エスターヴァは誰にともなく怒号した。

(何処のどいつか知らないが、どうして私の邪魔をするんだよクソっ!)

 今もなお起動し続けている周囲の術式。しかし、最早その機能の三割は意味をなさなくなっている。

 これでは目的が達せられない。

 多くの人間を救済することが、そして――救済の英雄と称される機会が、皆が自分を崇める機会が、失われてしまう。

 それだけは避けねばならない。

 エスターヴァはウィンドウを操作し、新たな術式を展開する。そして、そこに表示された名前の一つをタッチ。

「――ディミオス。聞こえていますか、ディミオス!」

 ディミオス・アルア。件の傭兵集団《漆黒の十字架》の長の名を呼ぶが、応答がない。

「くそが。どいつもこいつも役に立たない!」

 その場で地団駄を踏み、エスターヴァは頭上を見上げる。明滅する巨大な魔術儀式陣の明滅が目に留まる。しかし、それはエスターヴァが望む光ではない。

「さっさとしろよこのクソプログラム! 早くしないと……早くしないと!」

 その様子は、まるで駄々をこねる子供その物だった。望んでいることは目の前になるのに、それが叶わぬ事実に苛立ち、まるで泣き言のように「早く……早く」と口にするエスターヴァに向け、


「随分と……愉快なことをしているな? エスターヴァ」


「誰だ!?」

 地下に響いた自分以外の声に、エスターヴァは普段の温厚さを取り繕うこともせずに言及する。対し、この場へ現れたその獣人は、まるで何かを楽しむかのような忍び笑いを漏らしながら、ゆっくりと姿を現した。

 深緑の狼――錬金術師、テオフラス・ホーエンハイム。

 その手に一本の短剣を手にしたまま、狼男が不遜に微笑む。

「誰も踏み入るはずのない地下墓地……なるほど。死んだはずの貴様がいるには、随分と相応しい場所だな?」

「テオフラス……!」突然の闖入者の姿に、エスターヴァは渋面を浮かべながら見下ろした。かつて美男子と謳われた容貌は最早そこにはなく、怒りと不満で彩られた表情はとても同一人物とは思えないだろう。しかし、その頭上に表示されるプレイヤーネームが、否応なしに彼がエスターヴァ・カルナスであることを証明する。

 そのプレイヤーネームを見上げたテオフラスが、眼鏡を押し上げながら嘆息した。

「《十二音律》一常識のある人間と呼ばれた人物も、一皮剥けば腹の中に一物も二物も隠していたみたいだな?」

 そう言って彼が新たに取り出したのは、回復薬(ポーション)の入った薬瓶だった。彼はそれを手にし、これ見よがしにエスターヴァに見せつけるように手の平の上で転がし、にぃぃ……と意地の悪い笑みを浮かべる。

「まさかこいつを流していたのが貴様だったとはな。恐れ入ったぞ? 随分と楽しそうなことをしていたみたいじゃないか――んん?」

 そうテオフラスが首を傾げると同時に、頭の中でぽーんという音が鳴った。メールの着信を知らせる音に、エスターヴァは僅かな逡巡ののち、メールボックスを開いて送られてきたメールを見て――絶句する。

 送り主は、今まさに眼下に立っている男からだった。

 だが、問題は送り主ではなく、その内容。そこに書かれていた文面は、これまでエスターヴァが秘密裏に行ってきたことのすべてがあった。

「さばいていたのは麻薬(くすり)だけではなかったみたいだな。盗みに殺し。闇市(ブラックマーケット)への横流しに誘拐。更には奴隷売買……か。えげつないな。現実だったらどれほどの刑罰になることやら――まあ、今はそんなことはどうでもいい」

 自身の手元に表示したウィンドウを覗き込みながら、不敵に言葉を並べていくテオフラスが、冷徹な視線でエスターヴァを見据えてる。


「――この落とし前をつける覚悟は、できてるんだろうな? 小僧」


 ガルル……とテオフラスの口元が唸りを上げる。同時にその双眸は獲物を喰らわんとする猛獣そのものであり、獣人型PCということを差し引いたとしても、そこにはエスターヴァに対しての明確な殺意が孕んでいた。

 あまりの威圧感に、思わず後退るエスターヴァ。だが、


「――後退ったところで、今更逃げる場所なんてないでしょう?」


 今度は後ろから声がした。

まさかテオフラスだけではなく、ほかにもこの場所を突き止めている者がいるのか!?

驚愕に目を見開き、エスターヴァは杖を手に振り返る。そこには黒い髪の少女を伴った剣士――《聖人》の二つ名を持つ《十二音律》の一人、リューグ・フランベルジュが立っていた。

その右手に金色の長剣を手にし、左手で幾つかのウィンドウを開いたまま片手間の様子で操作しているのが目に留まる。

「なるほど……こんな大規模な術式だったんですね。しかもそれぞれが独立した小さな術式を複数展開し、連結させて多重起動する――確かに、これなら大容量のプログラムは必要ないわけですね。勉強になります」

 そう言いながらにっこりと微笑むリューグ。彼はそのまま数度、手元のウィンドウを操作すると、何事もなかったように閉じた。

 刹那、彼の全身から爆風のような衝撃が発せられたかのような錯覚に陥り、エスターヴァは言葉を失ってその姿を呆然と見据える。

そんなエスターヴァに対し、リューグは「じゃあ……」と囁くと同時、金色の長剣を両手で握り――正眼に構えながら静かに告げる。


「そろそろ……終わりにしましょうか。エスターヴァ」


 そう宣告したリューグの隣では、ツインテールの黒髪を揺らした少女が無言で両手を持ち上げていた。

 まるで逃げ場のないこの状況下で、エスターヴァは思考錯誤する。

 前後を挟むように立ちはだかる三人の《来訪者》。あの少女の実力は定かではないが、残る二人は全〈ファンタズマゴリア〉プレイヤーの中でも指折りの猛者だ。たとえテオフラスが錬金術師であってもそれは変わらない。

 何より、テオフラスの手にする短剣は伝説級武具(レジェンダリーウェポン)真理を秘せし錬剣アゾット》である。〈ファンタズマゴリア〉に存在する様々な武具の中で、相手の防御行動を無視してダメージを叩き込む特殊スキル『浸透攻撃(イノセント・アタック)』を持つ魔剣だ。

 こちらの防御行動を無視(キャンセル)するような武器が相手では、エスターヴァの防具に施されている物理攻撃軽減のスキルは何の役にも立たないのである。

 更にもう一人は〈聖人〉の二つ名を持つ竜殺しの剣士、リューグ。

その手に取るは限定イベントでのみ得られる限定アイテムであり、希少性ならば伝説級(レジェンダリー)と同等の剣である《黄金獅子(レオンハルト)の剣》と、伝説球武具である《竜血に染まりし法剣(アスカロン)》の二刀流だ。

 そんな連中と相対するものなら、エスターヴァのHPなど一分もてば御の字である。

 戦うという選択肢など愚の骨頂。だからと言って、術式をこの場で維持するという目的がある以上、逃げ出すことも叶わない。

 ならば、どうするか……考えた末、エスターヴァは決断した。

「……誰が終わるものか。終わらせてなるものか」

 リューグの言葉に対し、エスターヴァはねめるような視線で灰髪の剣士を見据えながら言った。


「むしろ――今からが本当の始まりですよ! 私が《来訪者》の救世主になる、そのための儀式のね!」


 くはは……と不気味な笑い声を漏らしながら、彼は手元に新たなウィンドウを顕現(ひら)き、無数に並ぶ名称の一覧から、あるものを指で選択(ポップ)する。

 そうして物質具現(オブジェクト)化されたのは、彼の手のひらに収まるくらいの宝玉だった。鈍く、暗い、混濁とした不気味な光を帯びた宝玉を手にしたエスターヴァは、けたけたと笑い声を上げながらその宝玉を頭上に掲げた。

 その瞬間、宝玉から濁流の如き闇色の光が迸り、エスターヴァの頭上へと立ち上る。

 どろどろ ぞろぞろ

 びちゃびちゃ ぐちゃぐちゃ

 ぞろぞろ どろどろ

 ぐちゃぐちゃ びちゃびゃ

 そんな音が聞こえてきそうだった。

 宝玉から迸るそれは、まるで光でありながら、液体であるような。

 溢れ出る速度は、速いような、遅いような。

まるで相反する言葉の塊のように、宝玉から溢れ出る闇色の何かが、徐々に、ゆっくりと、エスターヴァの頭上に浮き上がり、形を成す。

 描かれるのは小さいようで大きいような、どちらともつかない規模の術陣。

 やがて溢れ出ていた闇色の何かが止まり、やがてすべてが術陣を描くと同時――その陣が同じ闇色の光を吐き出しながら明滅――否、脈動した。

 この世のものとは思えぬ何か――それを目の当たりにしたような錯覚に囚われているかのように、目を見開いて微動だにしない三人を見て気をよくしたのか、エスターヴァはより大きな笑い声を上げて頭上の陣を見上げ、叫ぶ。


「――さあ、姿を現せ! そして、私が齎す救済を阻む愚か者たちを討ち取ってみせろ!」


      ◆      ◆      ◆


 ぬらりと……あるいは、のそりと。


 それはゆっくりと姿を現した。


 エスターヴァの頭上に描かれた魔法術陣。

 まるで深淵と直接つながっている穴か何かともわせる陣から姿を見せたその存在を見て、最初に抱いた感想は――化け物というよりも、産子(うぶご)だった。


 おぎゃあ おぎゃあ


 そんな産声が幻聴のように耳の奥で鳴り響くのを感じながら、リューグは剣を握る両手が強張るのを感じた。

 あの時。古城シアルフィスで邂逅したニドヘグの時と似たような空気。しかし、それを上回るような何らかの気配。全身の産毛が逆立つような錯覚に、リューグは言い知れぬ恐怖を感じた。

 そう――恐怖だ。

 リューグは〈ファンタズマゴリア〉における最古参のプレイヤーである。それ故に幾度となく繰り返されたアップデートによる情報更新の内容のすべてを熟知し、攻略サイトにすら掲載されていない情報にまで精通するほど、〈ファンズマゴリア〉というゲームをやりこんでいた。

 当然ながら、〈ファンタズマゴリア〉というゲームに登場する数万を超えるモンスター情報のすべても知っている。

 でも、

(……こんなの……居たっけか?)

 現れた異形を見据えながら、リューグは乾いた笑みを零した。

 少なくともMMORPG〈ファンタズマゴリア〉には、あのようなモンスターは存在しない。


 だが――異世界としての〈ファンタズマゴリア〉であれば、いないこともないだろう。


 そうだ。まだ記憶に新しい、少し前にユングフィを襲った、あの謎の人型の化け物に近い。

 あるいは、その上位種か。

 どっちにしても、碌なことにならないのは明白だった。

 出現と同時に走らせた《索敵》スキルによるステータス情報はすべて解析不明(アンノウン)。一切の情報が表示されない。

 最大HP量も測定不能。防御特性も、攻撃手段も、属性効果のパラメータも種族分類すら分からない。

「……でたとこ勝負って嫌いなんだけどなぁ」

 ウィンドウを閉じながら愚痴を零しつつ、リューグは隣に並ぶノーナに目配せをすると――次の瞬間、凄まじい踏込みで中空へと飛び出した。

 二つの影が空中を疾駆し、謎の異形へと迫る。

 剣閃と拳撃の二つが交差するように軌跡を描いて異形の体躯を貫く。

「なっ!?」

「え!?」

 背後に着地しながら、二人が驚愕の声を漏らす。呆然とする二人が思わず顔を身わせた瞬間、「避けろ!」というテオフラスの声が響き渡り、二人が振り返り――その身体が大きく吹き飛ぶ。

 突然腹部を襲った衝撃。続く固いものに背中からぶつかったことによる激痛。

 二連の衝撃に灰の中の酸素が吐き出され、噎せ返りながらもなんとか体勢を立て直して地面に着地しながら顔を上げる。

 そうしてようやく、あの化け物に薙ぎ払われたのだと悟った。

 見ると自分のHPは約二割。ノーナのHPは約一割、減少している。

「……いやはや。痛みを伴わない教訓はないね。身に染みる」

「冗談を言っている場合ではないぞ?」

「分かってるよ!」

 テオフラスの苦言に叫び返しながら、リューグは《黄金獅子の剣》を左手に持ち替えて、腰に帯びた《竜血に染まる法剣》を抜き放つ。

 金色の剣身に朱の刃を携えた長剣が小気味良い音と共に姿を現した。

「ノーナ、やれる?」

「勿論」

 リューグの問いに、黒髪の少女は小動物が水切りをするような仕草を彷彿させるようにかぶりを振って拳を構えた。護拳に嵌められている紅玉石(ルビー)が呼応するように一度光を反射させる。

 その双眸を鋭くし、少女は息巻くように一言。

「――ぶん殴る」

「その意気だ」

 同意するように口角を吊り上げる。そうして周囲を注意深く見まわし――ふとそこにエスターヴァの姿が見えないことに気が付く。

 もしや逃げたのだろうか? そんな疑問が浮かび上がると同時、遠くでテオフラスが「奴は私が追う!」と叫び彼方へと走り出していくのが見えた。

「うっわ。こっちの意見を聞く間もなく行っちゃったよあの人。ずるいな」

 その迷いのない選択に恨めしげな視線を向けながら眉を顰めるリューグ。

 だが、錬金術師であるテオフラスがいたところで、このような大型モンスターを相手にするのは部が悪い。


「……援護役(サポーター)が消えた」


「また回復手段は回復薬(アイテム)頼り――だね」


 ノーナのぼやきに、リューグはあははと乾いた笑いを上げながら項垂れた。

「まあ……いつものことだ」

 それこそ、この手にする《黄金獅子の剣》を手に入れた時や、《竜血に染まりし法剣》を手に入れた時も似たよ|うなものだ。

 あの時の相棒(パートナー)はヒュンケルで、クラス〈トリックスター〉による臨機応変な援護(サポート)はあったが、やはり便りの回復手段は回復薬だった。

「ノーナ、自分のHPには十分に注意を。危険領域(イエロー)になったらすぐに後退して回復を」

「了解」

 リューグの言葉に応じると、ノーナは地を蹴って打矢の如く異形へと飛び掛かった。

 凄まじい拳撃や蹴足が次々と、まるで流星群のように繰り出されてゆくのを、思わず陶然とした眼差しで見てしまう。

 だが、すぐにそんな見惚れている場合ではないことを思い出し、かぶりを振って思考を切り替える。

 剣すらも自らの腕の延長とし、自分の身体と一体化させる感覚を感じながら、リューグもまた異形目掛けて疾駆した。

 空気を切り裂くような勢いのまま、リューグは脳裏のスキル欄からスキルを選択。構えを取って発動させる。

 剣先が蒼氷のライトエフィクトに包まれるのを視認しながら、リューグは間合いを詰めると同時に剣を振るった。

 二刀流中位アーツ・スキル、〈双穹刀閃(エアル・スパーダ)〉。

 左右の剣が交錯するような軌跡を描いて標的を捉え、一瞬の溜めを置いて、渾身の回転切り上げが異形の身体を打ち上げる。

 しかし、気持ちが悪いくらい手応えがない。これまで数々の戦いを潜り抜けてきたが、剣で切り付ければ当然のように肉を、石を、鋼を、それぞれ感触こと底となるが、切り付けたことによる手応えというものはある。

 スライムなどの不定形生物ですら、粘液を切ったような手応えがあったし、実態を持たない幽霊のようなモンスターでも、言葉にはし難いが、強いて例を挙げれば『粉』を叩いたのに似たような反応はあった。

 しかし、この異形は違う。

 アーツ・スキルが炸裂し、異形の身体が打ち上げれた以上攻撃は確かに『通っている』はずなのに、水か空気を相手にしているような錯覚を覚える。

(……こりゃ、骨が折れるな)

 手応えがないということは、自分の行動の成果が感じられない――ということだ。

 そんなことを長時間続けたら、精神は摩耗して先に精神(こころ)のほうが折れてしまいかねない。

 そういう不毛な戦いに関して経験がある自分はともかく、ノーナは果たしてどれだけその不毛な戦いを興じ続けることができるだろうか?

 勝負の分け目はそこにある。

 ノーナの心が折れるより先にこの戦いを終わらせる――即ち、短期決戦は必須ということだ。


(――まあ、どうやれば終わるのかすら分からないんだけどねー)


 胸中で項垂れながら、リューグはちらりとテオフラスが走り去っていった方向に視線を向けた。

 エスターヴァが持っていたあの宝玉。あれがこの謎のモンスターの発生源だ。もし、このモンスターが召喚獣の分類になるのならば、召喚師(サモナー)が倒れれば消える可能性もある。

(――できるだけ急いでくれよ?)

 そう心の中でぼやきつつ、リューグは頭上から落下してくる異形に反撃の隙を与えぬように、新たなアーツ・スキルを選択。

その両腕を真紅のライトエフィクトに包んだノーナと共に飛び上がり、リューグもまた稲妻のような眩いエフィクトに包まれた二刀を振り上げた。





 どうも、白雨です。

 まことにお久しゅうございます。

 そして長らくお待たせしてしまってもうしわけありません。

 長らく卒論やら卒製やらを書くに書いて、卒論と卒製3つ書いて死にそうになってました。

 とりあえず、これをもって『リ=ヴァース・ファンタジア』を再開といたします。

 次はまた少し時間をあけて3月の上旬から中旬になります。

 それでも構わんと言う方は、申し訳ありませんがお待ちくださいませノノ 

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