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布を切る感覚の夢

掲載日:2026/05/07

家に来たのは、昨日のはずだった。



見たこともない一軒家。

なのに、そこは不思議と「自分の家」だった。



昨日の夜、リビングは散らかっていた。

おもちゃや書類がぐちゃぐちゃに散らばっていたが

片付ける気力はなく、そのまま寝てしまった。




——はずだった。



朝、目が覚めると、すべてが整っていた。


大きなテーブルの上も、床も、何もかもが静かに揃っている。


きっと夫がやってくれたんだろう。

そう思った。




時計を見ると、6時を少し過ぎたところだった。


本当なら、すぐに動き始めなければいけない時間。


お弁当の準備、出かける支度、やることはいくらでもある。


なのに


やらなきゃいけないと思った。


これも仕事の準備だと⋯。



---



大きな机の壁側半分を使って私は作業を始めた。


縦横三十cmほどの真四角の大きな布を持ってきては、何枚も重ねて。


それらは白やベージュ、少しだけ色のついた布があった。



---



私は引き出しから、パン切り包丁のような細長い刃物を取り出した。


刃が長くて、少しだけ重い。




手が自然に動く。



---



その包丁を布に当てる。


ゆっくり押し込むと、布は驚くほど素直に切れていく。


すっと、細い線が生まれる。


うどんのように1cm位の幅に切っていく。


それを、同じように、何本も。


まるで麺を作るみたいに。



---



無心だった。


切って、揃えて、また切る。


音もほとんどしない。


ただ、整っていく。


世界が、少しずつ静かになっていく。



---



一握り分、できあがる。


それで十分なはずだった。


それだけあればいい、とどこかで分かっている。



でも——


まだ、半分しか切れていない。



---



「あと少し」


誰に言うでもなく、つぶやく。


きりのいいところまで。


半分までは。


そこまでいけば、終われる。



---



時計を見る。


6時30分。


一瞬で現実が戻ってくる。


「やばい」


声が出る。



---



包丁を置く。


でも、手は少しだけ迷う。


まだ途中の布。


きれいに揃った細い束。


あと少しで、区切りがつく。



---



それでも、立ち上がる。


キッチンへ向かう。


お弁当の準備をしなければいけない。


時間は、もう戻らない。



---



振り返る。


テーブルの上には、途中まで切られた布が残っている。


整っているのに、どこか未完成。


それでも、どこかで思う。


——これでいいのかもしれない。



---



包丁は、静かに光っている。


まだ、続きを待つように。



---



私は視線を外して、前を向く。


やるべきことのほうへ。



---



それでもきっと、あの布の感触は、しばらく消えない。


きれいに整っていく、あの感覚だけは。











そんなことを考えながら


私は目を覚ました。

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