1.魔王のお仕事
時は西暦20XX年。日本は――いや、世界は深刻な少子化問題を抱えていた。
このまま放っておけば、いつか人類は滅亡してしまうだろう。
この深刻な少子化問題の元凶は、魔王にあった。
魔王はいわゆる「腐女子」であり、彼女は次元を問わずに、男性同士のカップル(特にイケメン同士)がいちゃいちゃする様子を見て萌えていた。
「世界中に男性同士のカップルがもっともっと増えればいいのに」と願う魔王は、この世のすべての男性が男性と恋愛するように仕向けていくのだった。
日本のどこかの人里離れた山奥に、魔王の棲む城があった。
その城は、築年数結構経ってはいるものの、地震にはそれなりに耐えられそうな造りをしていて、中の装飾もそれなりに豪華なものだった。
城の最上階には魔王の部屋があり、今まさに魔王はその部屋でくつろいでいた。
魔王の部屋は黒を基調としたデザインとなっており、ベッドはもちろんのこと、ソファやテーブルも黒かった。
テーブルの片隅には、魔王の趣味だろうか? それとも誰かからバリ島のお土産としてプレゼントされたのだろうか? ――詳細は不明だが、怪しげな猫とフクロウの置物が飾られていて、さらに壁には、怪しげな仮面がいくつか飾られていた。
それらはいかにも、真夜中になったら動き出しそうな雰囲気を醸し出していた。
さらに、ベッドの近くにはドリームキャッチャーが飾られており、それも独特の雰囲気を醸し出していた。
広いその部屋には大きな本棚がいくつか置かれており、それらにはびっしりと本が並べられていた。並べられている本は、ほとんどが魔王の趣味のもので、その他の実用書などは全体の1割程度しかなかった。
魔王の趣味の本――その多くは、男性同士の恋愛を描いた、ボーイズラブの漫画や小説だった。
魔王が最近読んだBL漫画や小説のタイトルには、『もし俺の上司がドS吸血鬼だったら』、『あいつの息子はいつも気まぐれ』、『ドS上司の扱い方』などがある。魔王は毎日事あるごとに、BL漫画や小説を読んでは、萌えていた。
そう、魔王は、男性同士の恋愛を扱った漫画や小説を好む、いわゆる「腐女子」なのである。
ベッドの上に寝転がりながらベストセラーのBL漫画を読んでいる見た目高校生くらいの女の子、彼女こそが魔王なのだ。
彼女は癖のある黒い髪を胸のあたりまで伸ばしている。服は部屋同様、黒を基調としており、左腕の部分だけに袖があるという、アシンメトリーが特徴的なミニワンピだ。また、彼女が穿いているニーソックスもアシンメトリーが美しい。
魔王がBL漫画の山場の部分を読んでいると、黒いローブを着た怪しげな老人がノックもなしに魔王の部屋に入ってきた。
「魔王様!――まったく、またそのようなくだらない本を読まれて……いい加減、魔王としての仕事をこなされてはいかがです?」
イライラした口調でそう言う彼女こそが、魔王のお目付け役的な存在であり、何かと魔王としての仕事をサボりがちな魔王のことを、日頃から監視しているのである。
「ロゼア! ノックもなしに入ってくるなんて! この本はくだらないものなんかじゃないわ! これはとても尊いラブストーリーを描いた本なのよ! ま、魔王の仕事なら、そのうち……するもん……」
「そのうちそのうちって、もう何回そう言って先延ばしにしたと思ってるんです?」
「うっ……」
ロゼアに鋭い指摘をされてしまった魔王は、言葉がでてこなかった。
「今日こそはしっかり仕事していただきますからね」
ロゼアは厳しい口調でそう言った。
「仕事って……やっぱり世界征服?」
「もちろん、そうですとも。世界を魔王様の意のままにするのです! どうです、魅力的でしょう?」
「うーん……」
魔王は正直、世界征服という仕事の良さがいまいちよくわかっていなかった。それに何より、面倒くさかった。
できることなら、世界征服する暇があったら積みゲープレイしたりBL小説読んだりして過ごしたいと魔王は思っていた。
「魔王様は“こんな世界になったらいいな”とかそんな野望はないのですか?」
ロゼアの問いかけに、魔王は少し考えると、こう答えた。
「んー……あっ! 世界中を男性同士のカップルだらけにすることは可能かしら?」
「そりゃもちろん、可能ですとも! なるほど、どうやって出生率を減少させて、やがて人類滅亡への流れへともっていくわけですな。流石魔王様、見直しました!」
「えっ? うん、まぁ……そんなとこかな」
(本当はそこまで深く考えてたわけじゃないけど、そういうことにしておこう……)と魔王は心の中で思った。
「では早速、実効あるのみ! ですな」
ロゼアはニヤリと不気味に笑った。




