表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

エピローグ

 柏木さんとあの日廃校から帰る途中、私はダメ元で鏡屋で働かせてくれないかと頼んでみた。勿論柏木さんのようなことは出来ないので、事務員や雑用係としてだ。


 長く休みすぎてしまったことも会社に戻りたくない原因の一つだけど、一番の問題は病院併設の介護施設で働いているということだ。

 特別養護老人ホーム、通称と供養と呼ばれるそれは、普通の老人ホームなどとは違い手厚い介護が必要な高齢者が最後にやって来る、誤解を恐れずに言えば終の棲家だ。つまりは人の亡くなる瞬間に立ち会うことが、他の仕事よりも圧倒的に多いのだ。田舎町と言うこともあり、たった一つの総合病院であるそちらでも残念なことに、日々人の生き死にが待っている。

 事務職とはいえ、昨日まで見ていたはずの顔が見えなくなる。そんな現実が、入社直後の真琴の精神を随分とすり減らしたのも、少しだけ懐かしい記憶と感じる程度には成長できたと思いながらも、ただ感受性を鈍麻させてしまったとも思えてしまう。今ではある程度割り切ることも出来るようになってはいるが、妙に人懐こいご老人や、小児の場合はどうしてもやるせなさが残ってしまう。

 そんな気持ちのまま、あの職場にいても私は大丈夫なのだろうか。また、悪縁とやらを結ばれてしまうのではないのだろうか。そんな思いが胸によぎるのは必然だった。 


 あの後もう少し柏木さんと車の中で話をしていたところ、恐らく私はこれからも度々心霊や神霊を見かけるようになるだろうという内容のことを、あの良い笑顔で聞かされた。まるで私の心を読んだかのように。

 どうやら、私はそちらの方面についてそれなりに勘が働くらしい。おばあちゃんとその妹もそうなのだから、あながち間違ってもいないのだろう。だが、そんなことを聞かされてしまっては、あの事務所の中で落ち着いて仕事はもう出来ない。ただでさえ亡くなられた患者さんが廊下を歩いてるだの、その手の話題にはいつも事欠かないのだ。


 それであれば、この手の問題を解決してくれている柏木さんがいる職場で働いていた方が、勿論安心出来るだろうという安易な発想だった。勿論それはその内後悔することになるのだけれど。

 柏木さんは少し虚空を見つめた後いつもの笑顔で、「三ヶ月間試用期間があります。時給は確か2,000円で……」とあれこれと説明をしてくれた。どうやら本格的に人材不足のようだった。ハローワークには求人を出しているが、仕事内容をあまり詳しくは伝えられないため、誰の目にも留まらず何時も困っていたとの事。その点心霊を実際に見た私はそこらへんの説明をする必要も無い訳だし。実にあっさりと次の就職先が決まった。正しく瓢箪から駒である。


 ともかく私はあの後自宅に帰り辞表を書くと、次の日に上司に手渡した。するとなぜか上司は少し緊張した顔でそれを受け取ると、何も言わず残りの有給や溜まっていたフレックスの消化を促してくれた。

 もともと話の分かる人ではあったけれども、あまりにもこちらに都合が良すぎた。後で分かった事だが、これについては柏木さんが後ろで手を回してくれていたらしい。謎の拝み屋公務員から掛けられる圧力に屈したという所だろうか。あの優し気な笑顔の裏にに隠された闇を見たような気がした。


 その後、思ってもいなかった更なる連休に戸惑っていたが、有り余る時間を利用して思い切って綾香と孝弘に連絡を取り久しぶりに三人で食事をした。そこで今までのことを色々とぼかしながら説明をした。二人は半信半疑というところではあったが、私がもう立ち直ったと伝えると本気で喜んでくれていた。

 ……まぁ後から聞いたところ精神疾患に掛かって病院に行き、無事回復したんだと思っていたらしいのだが仕方が無いだろう。私だってあの二人から聞かされても病院を紹介するところだ。




 そうそう。もう一つ伝えたいことがある。気になってはいたのだが柏木さんになかなか聞けずにいたことだ。私が初めて鏡屋に来てあの影女を間近で見て動けずにいた時何かを落としたような音が聞こえたことを憶えているだろうか?

 あれは柏木さんが助けてくれたものとばっかり思っていたのだが、どうやら違うらしい。あのビルには神様が居るらしく、私はその神様に助けてもらったらしい。柏木さんはそれを知っていたので様子を見ていたらしいが、分かってるならさっさと助けに来い。案外酷いことをさらっとやらかす色白眼鏡には、十分に気を付けなくてはならないと気を引き締めたところだった。実は、それは既に少し遅かったのだけれども。


 翌月からは鏡屋で事務見習いとしてせっせと働き出した所、何処でどうこの鏡屋を知ったのかは知らないが、大体一週間に一人のペースで依頼者がやってきた。大抵は柏木さんが私にも渡したあの三点セットを渡した所で、怪異や心霊現象は収まっているようだった。

 あの日のように名刺を渡したり、連絡先を交換したり、現地調査に行く様子は一度も見られなかった。それを見て、どうやら私の影女は意外と厄介なやつだったんだなと、改めて教えられる結果となった。あれがおばあちゃんの妹、つまり親戚だとは今はまだ思えないでいるが、仕方がないことだろう。因みに、あのセットはいまもかばんの中に入っている。


 それからしばらく時間が経ち試用期間も終わりかけたとき、一件のSNSへの書き込みを柏木さんに見せられた。……うん、ホームページの運営やSNSもやってんだよね、鏡屋で。見せられた時は思いっきり脱力したけど。


 その書き込みは短く、必要なことしか書いていなかった。




『助けて下さい』




 どうやら柏木さんも書き込みの内容を、どう捉えたものか少し困っているようだった。

 取りあえず返信をしながら様子を見てみようとなり、ご挨拶を含めて返信を行ったところ、数日後にDMが届いていた。

 

 それは北海道のギリギリ道央圏にある町の住所だった。ここから二、三時間車で走った先にある。私も何度か行ったことはあるので町名は分かっているのだが、その先の細かい住所はさっぱり分からなかった。

 だが柏木さんはその場所を知っているのかどうなのか、ソワソワしながらどこかへ電話を掛けていた。奥の部屋に行ってしまったので内容は分からなかったが。


 その更に数日後、柏木さんはどうやら書き込みのあった住所へと出かけるようだった。小さめのキャリーケースを持って社用車に乗り込むと、私に試用期間を切り上げて正式採用をすることを伝え、何かがあったら書棚の中にある連絡先に連絡を取るよう指示を出した。




「じゃあ行ってきます。留守の間宜しくお願いします」

「お土産期待してますね」

「ははは。何もないところの様ですが、見繕ってきましょう」




 そう言って、やはりいつもの笑顔で出発した柏木さんを見送りながら、私は何故か胸騒ぎを覚えていた。そしてその勘はやはり当たるのだった。

「影」のお話はこれで終了です。

お付き合い頂き、有難う御座いました。

明らかに続くような感じで終わっておりますが、その後のお話の公開は反応を見て考えます。

と、言うより「第二章ー贄ー」の途中で筆を折っておりますので……。


もし評判が良いみたいでしたら、続きを書いてみようと思います。メモは見つけた!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ