6/6
§6 川を渡る
大震災の翌年、ふとした事で大量に失血した。
1回目の手術で血管縫合に失敗したらしく、
麻酔から覚めても流血は止まっていなかった。
段々と視界がボヤけてくる。
しかし思いのほか、不快ではなかった。
恐怖も感じない。
むしろ、付き添ってくれた会社の上司が右往左往。
ごく普通の良民で善人だもの、当然のリアクション。
なんか申し訳ない気持ちだった。
「ご家族を呼んでください」
と上司に医師が告げる声がシッカリと聞こえた。
あぁ、終わってしまうのか。
イマイチな人生だったな。
よく言われる走馬灯という現象は起きないようだ。
淡々と時間は過ぎ、血液は体外へ去って行く。
少し経ってから娘が来てくれた。
大急ぎだったのだろう、事務服のままだ。
きっと泣き喚いているのだろう。
声が聞こえない。
しかし…
「ああ、間に合ってくれてよかった」
娘と目が合った直後、程なく私は意識を失った。




