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§2 まだ戻れた瞬間
めずらしく先客が何人か並んでいた。
私大のキャンパスが近いせいか、客層は
若い世代が多い。
学生は気楽でイイな、そんな事を考えつつ
ページをめくる。
虫食いや破れは無さそうだ。
翻訳の仮名遣いから、おそらくは戦前の
判だろう。
奥付けを見ようとページを目繰り返すと、
なんと全体1/3からは白紙、何も印刷され
ていない。
「なんじゃ?こりゃ。」
しかし、コレはコレで面白い。
順番が周り、支払いの準備。
財布を出して身構えると、目の前の店員は
あからさまに狼狽している。
いつもは淡々と無表情なのに。
「あの…これは乱丁の不良品ですので」
「いや、構いませんよ。ノートに併用でき
ますし」
「しかし、その...」
「気に入ったんです、譲ってください」
ほぼ強引に1000円札を渡し、購入に至っ
た。
それほど惚れ込んだ訳ではなかったが、
メモ帳にしようと考えたのは本当だった。




