一話の三。 守るより守ってもらうより守らせたい奴
区切りがついたので、一話はこの話で終わりです。
次の回から二話です。
アサルトライフル落ち武者は、おそらく先程敵が現れた時侵入してきたのだろう。
空の羽落ち武者達が注目を集める中、アサルトライフル落ち武者は地上を一匹で悠々と歩き保健室に侵入した。
そして先生に怪我を負わせた。
そういう流れだとカンスケが想像するのは簡単だった。
「クッソ!」
カンスケとカズコは、立ち止っていれば殺されるとアサルトライフル落ち武者に銃を突き付けられた時点でわかった。
だからすぐさま保健室の先生を連れて、保健室隣にある使われていない教室に飛び込んだ。
そしてドアを閉め鍵もかける。
ドアはアサルトライフル落ち武者の銃撃を防いでくれたらしく、激しい音と振動を連発していた。
少しして音が変わった、間隔が長くて重たい、アサルトライフル落ち武者はドアを蹴破ろうとでもしているのだろうか。
この学園内では銃撃戦を想定しドアが頑丈なのでそう簡単には壊せない、しかし限度はあるので安心とまでいえない。
とりあえずカンスケは、カズコと保険室の先生を観察する。
カズコは元気そう。
「ぜぇっ!ぜえっ!」
先生は銃弾を食らっていたらしく、まともに動けず呼吸が荒い。
とりあえず、戦力にはならないだろう。
「……」
カンスケは考え始めた。
このままだとドアが壊され敵が入って来る、そしたら自分が死ぬ可能性はどのくらいだろうか?
実はこの学校で人が死ぬのは珍しい事だ、訓練はしっかりしてるし装備も充実してるから。
もちろん死人が出ないわけじゃないが、普通の学校だってどうしても部活動とかで事故死する生徒は出るわけで……御守学園の死者数は普通の学校よりちょっと多い程度に収まってる。
だがしかし、死者というカテゴリーにこのままだと入ってしまいかねない。
ならばどうするべきだろう。
アサルトライフル落ち武者はデータに無い敵だが、強いのは間違いないだろう。
敵は銃持ってるしガッツリとした鎧を来ている。
今戦える自分とカズコは共にナイフ使い、そういう手合いに対しては不利だ。
鎧をナイフで切り付けても、大して効果が無い。
というか、そもそも敵との戦いをナイフ使いが始めるのはセオリーと違う。
本来は銃撃から戦いを始めるのである。
ナイフ使いが活躍するのは、倒しきれなかった敵が接近してきた時や、特性上銃撃で倒すのが必要な敵が現れた場合。
しかもそういう場合でも、作戦を立て細心の注意を払って近接戦闘を行う。
元気一杯の敵といきなりナイフで正面戦闘なんて、愚の骨頂。
やはり、援軍が必要だろうとカンスケは判断した。
今援軍を呼び出す手段は無いが、アサルトライフル落ち武者の銃声を聞いた人間が、誰かしらは向かってきているはずだ。
しかし保健室は微妙な位置にあってどの教室からも遠い。
ドアが壊されるまでに援軍が来るかちょっと微妙なラインなため、アサルトライフル落ち武者とこの教室でやり合う可能性もある。
というわけでカズコとカンスケは自然に、戦う準備をしていた。
カズコはドアの近くで状況をうかがう。
一方でカンスケは保健室の先生を教室に運んだ、さらにそこら辺にの机で先生の周りを囲み守る。
戦いになったとき先生が巻き沿えを食らわないよう。
ついでに怪我の具合も見ておいたが、とりあえず放っておいても死ぬことは無さそうだ。
「私は――」
「ん?なんだ?」
カズコが何か言っていたが、カンスケには聞き取る事が出きなかった。
だから聞き返した。
「私の怪我は、戦闘に影響があるくらいの痛みだ」
「ああ、わかってる。作戦を立てる時は考慮する」
どうやら、作戦会議っぽいのでカンスケはカズコの言葉に耳を傾ける。
「あと、意外に私は怖がりだ」
「……そうなのか?まぁそれも重要な情報だがな」
意外とそういう性格の情報も、連携の上で大事だ。
「さらに、私は女だ。そして男は女を守るべきだとは思わないか?」
「いきなりどうした?男女がどうこうの話って今すべき話か?」
「あぁ、そうだ。今すべき話だ」
カンスケはカズコの言葉に違和感を覚えてきた。
カズコの言葉は戦いに勝つためのものであるはずだが、どういう意図があるかまったくわからなかった。
「私を守ってくれ」
「……カズコを守る事で勝利に近付くのか?守られている間に何をする木田?」
「私は結構お前のこと好きだぞ」
「カズコ……お前まさか、待てよ?」
カンスケは"ある事"に気づいた。たぶんカズコが考えているのは勝つ事じゃない。
「一月生まれの私の方がおそらく年上だ、高齢者を矢面に出して戦う若者って変じゃないか?」
「俺は一月一日生まれだが、カズコって年上か?」
「じゃ、じゃあ少子高齢化社会では、年下をないがしろにするのはよくないんじゃないか?」
「お前……あの敵と戦うの怖いんだな?コレは俺を矢面に立たせようとしてる言動だな?」
「へへへへへっ、へへへっ、いやそんなへへへへ」
カズコは誤魔化す笑みを浮かべるが、随分と卑屈なものだった。
カンスケは自分の気づきが正しいと確信する。
カズコは恐怖から逃げる事を考えているのだ。
しかも、恐怖から逃げるためなら人を犠牲にしてもいいというタイプの精神状態。
さっきから言葉の全てが、カンスケに敵と戦ってもらおうという目的から来るものである。
「わりと酷いヤツだな」
「で、でも緊急避難だからこれ。身を守るためなら多少の問題行動は仕方ない」
「戦いが怖いならなんでこの学校来たんだよ?入学前にこの学園は敵と戦うってわかってただろ!」
ついカンスケは声を荒げる、こんな状態で仲間が信用できなくなるのは困る。
「怖いからここに来たんだ。怖いんだ、仕方なくこの学校に来た。戦いたいわけない!」
「……なんだその答えは」
「メインの武器にナイフを選んだのも、基本戦闘は遠距離攻撃で終わるからわりと戦わないでいいし、戦う事になっても射撃で弱った相手ばっかりだし」
「そんなに戦う事に拒否感があるなら、本当なんで来たんだよ……」
「お前だって、なぜここに来た。戦いに興味もなさそうなのに」
敵の攻撃を受け続けていたドアが、これまでと違う音を突如立てた。
ビキッという破裂音が混じっている。
「……ッ、ドアが壊されるまであと何秒だ?」
「3秒。援軍はまだ」
カンスケがカズコに尋ねると、しっかりと答えは返って来た。
一応状況が把握できている程度の精神状態ではあるようだった。
「じゃあ俺が矢面に立つから、サポートはしてくれよ。俺が死んだら次はお前が殺されるとわかってるだろ?」
「へへへ」
すぐさまカンスケは自分の全てを戦いに切り替える。
仲間が信用できないなら、それはそれだ。
そしてカズコの言った通り、三秒立ってからドアが蹴破られてアサルトライフル落ち武者が入って来た。
その出会い頭にカンスケは大きく踏みこんで、落ち武者の顔面にナイフを突き立てようとした。
しかし「うお?!」まるでボクシングでもやっているかのように、アサルトライフル落ち武者はナイフを手で払いのける。
カンスケは攻撃を諦めて、逸らされた攻撃の勢いをアサルトライフル落ち武者とドアの隙間を潜り抜けることに変えた。
そのまま廊下に飛び出す。
アサルトライフル落ち武者はカンスケを追って、廊下に飛び出して来た。
「こっちを狙ったか!」
アサルトライフル落ち武者はいきなりカンスケに前蹴りをぶちかましてきたが、カンスケは握りしめた手の甲を裏拳のように繰り出して攻撃を逸らす。
カンスケは戦いに関する全ての技術が卓越していたゆえ、格闘戦も出来た。
「やっぱりな、そういう事してくるか」
カンスケは確信する、こいつは厄介だ。
アサルトライフル落ち武者は銃一辺倒だけでなく、至近距離では格闘戦も混ぜて来るタイプだ。
銃ばっかり警戒してても危ないだろう、例えば先程の前蹴りを食らったら少なくとも骨折はする。
しかし銃をガンガン撃ってくる相手には勝ち目が薄すぎるので、カンスケはあえてアサルトライフル落ち武者との距離を詰めて格闘戦を誘発する。
狙い通りいった、アサルトライフル落ち武者はカンスケに殴打や蹴りを食らわせようとしてくる。
鎧をつけているのに、格闘家みたいな拳速で襲い掛かって来る敵なのでカンスケはひたすら防御に専念するしかなかった。
どうにか反撃の隙を見つけれても、どうせ装備がナイフのみなので鎧をつけた相手への有効打にはなりにくい。
いくらカンスケが一般人に絶対負けないくらいの格闘技能があるとはいえ、援軍は必要だ。
そしてちょうどいい事に、廊下の向こうから、十人ほどの生徒が走ってきているようだった。
五人が盾を持って走り、五人が銃を持っている。
銃を持って攻撃する人間を、盾を構えた人間が守る……そういう構成の連中だ。
どうやら援軍は間に合ったらしい、ちなみにカンスケのクラスメイト達だった。
「すぐ撃て!かまうな!」
カンスケは彼らに叫ぶ、だが、増援達は撃たなかった。
「ああっ!クソ!」
遠目でもわかるくらい、彼らは躊躇していた。
カンスケとアサルトライフル落ち武者は接近戦をしているので、銃を撃てばカンスケごと殺しかねないという状況なのだ。
「撃てっ!速く!」
カンスケは必死でアサルトライフル落ち武者との格闘戦をこなしながら叫ぶ。
しかし、彼らは撃ってくれない。
この学園の人間は普段から殺し合いをしているが、それは襲撃してくる化物たちとの殺し合いだ。
つまり人との戦いなんてやった事が無い者の方が多い、だからカズコが不審男性を殴り倒した事件が話題になったのだ。
御守学園の生徒は人を平然と殺せるような連中じゃない、だから人殺しになってしまうかもしれない事を普通に躊躇する。
「大丈夫だ!策がある!」
カンスケが叫ぶが、やはり躊躇されて撃ってもらえない。
「撃って!」
カズコの叫び声がした。
カンスケにとってその叫びは全くの予想外だったが、今はありがたいものであった。
「撃て!!」
もういちどカズコが叫ぶ。
それを受け援軍たちは少し戸惑った後、アサルトライフル落ち武者に向けいっせいに射撃する。
そこには信頼関係があった、カズコの発言ならば信用していいとクラスメイト達が感じていたからだ。
カンスケの言葉は、信じていいのか疑われていたから撃ってもらえなかった。
「ッ!」
さて、カンスケはカズコが撃てと叫んだ時点でステップを二回踏んでいた、一回目は右斜め前に踏み出しアサルトライフル落ち武者のすぐ横に、止まらず二回目のステップで左斜め前に踏み込み、アサルトライフル落ち武者の背中側に着地する。
そのステップは、通常と少々違った。
回避のためのステップは、通常は隙を作らないようにするものだが
今回カンスケが行ったものはダン!と音が響くし、着地時少しよろける隙まみれなものだ。
だが、代わりに速かった。
その二回のステップで位置関係が変わった。
銃を持ってる連中とカンスケとアサルトライフル落ち武者のごちゃっとした位置関係が、一直線で結べるハッキリとしたものになった。
カンスケと銃部隊で、アサルトライフル落ち武者を挟む形となったのだ。
要するにカンスケは、アサルトライフル落ち武者を盾にして銃撃を防ぐつもりなのだ。
無数の銃弾がアサルトライフル落ち武者を襲う。
いくつもの弾が鎧によって無力化されるが、弾の数はもっと多いから顔面や鎧の弱い部分にぶちあたる銃弾も出る。
効果的な攻撃も何十発とあった。
そして、銃弾が貫通してカンスケにまで行く事は無い、距離的にそうなるだろうとカンスケは予測済みである。
あっさりとアサルトライフル落ち武者は、仰向けに倒れた。
そしてカンスケの背にもたれる。
「……」
カンスケは何も言わなかった。
そしてアサルトライフル落ち武者の肉体は一瞬で消えた。
消滅に驚くものはこの場にいない、敵に一定以上ダメージを与えると大概の場合跡形もなく消えるのだ。
カシャ、と軽い音がしてカンスケは振り向く。ちょっと鎧の破片が残っていた。
このことに驚く事もない、消滅しきらず素材を残していく敵もたまにいる。
今日の出来事は、この学園だといつもの事なのである。
「言っておくが、お前が撃てと言っても仲間に指示が通らないから、私が代わりに言っただけだからな。」
さっきまでちょっと離れたところにいたカズコがカンスケに近付き、早口で言った。
「さっき”撃て”って言った事を言い訳してるのか?人が死ぬかもしれない作戦に乗った責任は自分に無いと、言い張っているのか?」
「いやそんなへへ、まぁ仮に何かあっても私のせいじゃなかったけど」
カズコの責任逃れをしようとする言動に、カンスケは少々驚く。
これまでまったく話したことが無かったが、そういう人間性だとは思って無かった。
もっと道徳の授業とかで、正しいとされるタイプだと勝手なイメージを抱いていた。
「なあ……俺は、大企業で出世するのが望みだ、だから進学にも就職にも有利になるこの学園へ来た」
「な、なに?何をなんのつもりで話してる?」
カンスケは自分の目的を話し出した、そうした理由に大したものはない。
カンスケは元々他人と話さないからこそ誰にも思想や目標を告げる機会が無かっただけで、別に隠していたわけではない。
なんとなくでも話した方がいいと思った場面なら、そういう事を普通に話すのだ。
「俺が出世したいのは自分の力を振るいたいから。だから俺の指示を通してくれたカズコに感謝してる。何も責めるつもりは無い。気にするな」
「あ、そう?感謝してる?じゃあいいか」
「……俺はこの学園程度なら、大した立場じゃなくても実力を発揮出来ると思ってたけど、違うみたいだな」
先程、カンスケの指示は聞いてもらえなかった。
カズコの指示は少し躊躇はあったが聞いてもらえた。
その差は力を発揮していくうえで、大きな差になる。
いい作戦があっても誰も乗ってくれないのなら意味がない。
しかし、自分はカズコのように日常生活で他人からの信頼関係を得られる人間ではないと、カンスケは思っていた。
自分の場合は、ある程度立場が必要だとカンスケは確信する。
「俺はこの学園で出世してみせる」
「じゃ、じゃあ権力持っても今日の事で後々文句とか言わないでね」
カンスケは始めて、他人に自分の目標を語った。
そしてカズコは、この学園に来て始めて、怖い事は他人に押し付けたい性格をあからさまに表に出した。
御守学園にとっていつも通りのこの日は、二人にとっていつも通りではない日だったのだ。
小説が面白いと感じた方や、続きも読みたいと思ってくださる方がいればありがとうございます。
ちなみにですが、もしあれば感想などいただけると作者は嬉しがります。