一話の二。 リスクが/低いから/高いから
カズコとカンスケは保健室に向かっていた。
御守学園自体が大きい事もあり、結構遠いので地味に時間がかかる。
「カズコ。敵を強引に倒しに行ったのはなぜだ?」
カンスケは歩きながら聞いた。
「早期決着を狙った」
カズコも立ち止まらずに返答する。
「教室の中まで引き付ければ、死の危険がほぼゼロで戦えた。なのに外に飛び出して……死ぬ可能性をわざわざ作った事が疑問だ」
「他人に質問するなんて、珍しい。私と話したの今日が初めてなのに」
カズコはどことなく冷たい口調で返答した。
「隣で戦ってるやつが意味の解らない行動始めたら危ない。今後のために聞くべきだろ?」
「……どうやらこの面倒な質問攻めは、答えれば終わるか」
「答えを予想はできてるんだが、確認はしておく」
「じゃあ言う、私が窓の外に飛び出した理由はーー」
二人はこれまであまり話したことはなかったが、今日の戦いが話すきっかけとなっていた。
「敵が弱かったから」
とカンスケが
「敵が怖かったから」
とカズコが、
そんな風に二人は同時に呟いて、そして顔を見合わせる。
互いに相手の答えが予想外だったからだ。
お互いに相手の実力は同レベルくらいと感じていたからこそ、思考も似ていると思い込んでいた。
「"相手が弱かった"から、"早期決着を狙うリスクは低い”と考えんじゃないのか?」
相手が弱いならば多少無茶しても大した反撃はくらわない、だから先程の戦いでカズコは無茶をした……そういうものだとカンスケは考えていた。
「"相手が怖かった"から、私は”何もさせずに早期決着を狙うリターンが高い”と考えた」
一方カズコの考えは全く違った。
そしてカンスケにとって、カズコの思考は意味がわからないものであった。
「……怖いって何がだ?飛行落ち武者は確実に倒せるくらいデータが揃ってるのになぜ怖い。確かに以前より速かったが、個体差の範疇だろ」
「いや怖い方が当たり前。敵は明確にこちらを害そうとしてくるんだから怖い」
「お前、こっちに害意があったら何でも怖いのか?」
「逆に聞くが、怖くないのか?」
「相手が強いなら怖いが、今回は弱い敵だっただろ」
二人はいつの間にか立ち止まって話し込んでいた。
それ程の衝撃が互いにあった。
「……御守学園は数年前から突然敵の襲撃を受けるようになったけど、その頃と今の敵がどう違うかは知ってる?」
カズコはいきなりこの学園の過去を話し出した。
「昔より今の方が強い敵だっていうのは間違いない、俺たちの入学前は素手で倒せるような敵が来てたらしいからな」
「そう、だから怖いに決まってる、昨日までと変わらない見た目のものが明日は違うかもしれないんだ。怖いよ、未熟だった敵が成長してるんだから」
「……でも、こっちの戦力も昔より整ってる。敵の成長よりこっちの強化のほうがでかい」
「私はその状況も怖い。なんで謎の敵と戦うのが私達?敵が来るっていうなら学生より狩猟免許の持ち主とか警察とかに任せた方がいいんじゃない?」
「……そこが気になるなら、なんでカズコはこの高校に入学したんだ?嫌なら普通の学校に行けばいい」
「……別に理由ならいくらでもある、就職とか強いし」
「カズコはここに入学しなくても就職余裕そうに見えるが、成績はそこまで悪くなさそうだが」
「家庭の事情だから踏み込むのはもうやめといて」
「そうか」
カンスケはそれ以上カズコの事情を聞かなかった。
そもそも、人と雑談する事自体が珍しいというくらい他者に興味が無いのだ。
今回結構話をしたことが、そもそも例外。
だからカズコが聞くなと言った事情をわざわざ問いただそうというつもりがまったく起きなかった。
そして二人は歩き、保健室の前にやって来た。
「それじゃあ速く治療してもらうか」
カンスケがドアに手をかけようとした瞬間、勝手にガーッ!!と開いて誰かが飛び出して来た。
カンスケは反射神経が良かったので、その人とぶつからないよう素早く飛びのく。
出てきたのはあちこち怪我した保険の先生だ。
カンスケとカズコは腰のホルダーからナイフを引き抜く。
何が起きているのかわからないが、異常事態な事はすぐにわかった。
「ッ」
右手を痛めているカズコは、すぐさまナイフを左手に持ち替えた。
利き手じゃない方だが、それでも人並み以上の腕前は出せる。
「あなた達怪我人?!撤退しなさい!!援軍を頼む!」
保健の先生がカンスケ達に叫ぶ。
カズコとカンスケは開いたドアの向こうを見た、そこには予想通り敵がいた。
保健室の中には明らかに質のいい鎧を着けた落ち武者がいる、ただし先程のヤツとは違い羽が生えていない。
その落ち武者は、右手にアサルトライフルを持っているアサルトライフル落ち武者だった。
そしてカンスケ達に落ち武者は銃口を向け……
カンスケもカズコも、その瞬間回避行動に移った。
花火を連発しているような音が、長い廊下に響く。