3.侵攻
定期報告の翌日、私は慣れてきた制服へ着替えて準備する。
バックにはメンテナンス済みの特殊兵装をいれ、カモフラージュに教科書を上におく。
学校最寄り駅近くのこのアパートからは、10分も歩けば学校につく。一応、誰にも見られないように確認しながら、学校近くまで移動する。
近くなったら登校中の人に混じって普通に歩き始めるのがいつもの流れだ。
教室に入るとみんな挨拶してくれる。
「アリスさん、おはよう!」
「おはよぉー」
もうこの生活も半分切ったのか…
そう考えると寂しい気持ちになるが、顔には出さないようにしないと。
授業自体は特に問題なく聞いてられる。次の授業は体育だ。これが難しい。手加減のちょうどいい具合が大変なのだ。
今日はバレーをするらしい。3回まで触ってよくて、相手のコートに入れるそうだ。
バレーのルールを知らないことに驚かれた。
まぁ、そんな人もいるのか!?くらいで終わって良かったが、私の評価が変わった気がする…
席が近い子達と一緒に体操服を持って体育館横の更衣
室へ向かう。渡り廊下を通らないと体育館へ行けないのだ。
「端っこにいようかなぁ…」
「あのっ!」
どうやって溶け込むか悩む…
「アリスさんっ!?」
「えっ?、あ、私?」
振り返るとクラスメイトの阿部亮輔くんと鈴木俊也くんがいた。
「あ、あのー、アリスさんって昨日の放課後どこかに行きました?」
「え?…えっとー...…」
まずい、言い訳を考えるのを忘れていた。
どうしよう…
「鈴木くん、なにー?その質問!?アリスさん困ってるよ?」
「あ!?いや、これは!その!
変な""ドゴォォォォン!!""意味じゃなくてね!?」
突然、周囲に爆発音のようなものが響き渡った。
音のした方向を見ると、左のガラス越しにバグズクラフトがアスファルトを壊しながら、這い出てくるのが見えた。
ヘラクレスオオカブトのような上下の大きなハサミをガチガチとうち鳴らし、丸くて赤い目が無機質に光っている。この特徴的なハサミの太さは直径30cm、長さも約1mあるだろう。全身真っ黒い甲殻で個体差はあるがハサミを含め全長3〜4mにもなる。高さも1m、8本の甲殻に覆われた足で立ち上がると2mはあるように思う。8本のうち前方2本は鋭く尖った槍のような爪が3本ついている。
間違いなくバグズクラスト:タイプαだ。
ワゴン車に上下のハサミ、2本の矛、6本の足を付けたようなものと想像してもらえればいいだろう。
甲殻は鉄のように硬いが……
目視で2体校舎の方へ向かっている。
もう見られないは無理だろう…
私は太ももに付けていた棒状の特殊兵装を3本取り出し、接続する。
【組み立て式特殊兵装:高周波ブレード】
所謂、振動ナイフだ。
組み立て式は耐久性が悪くなるが持ち運びが便利なタイプになる。あいにく、今はこれしかない。
「みんな逃げて!」
窓から飛び出しつつ、叫んだ。
能力を使い奴らの足を止める。
ハサミと腕で攻撃してくるが、私からすればタイプαの動きは遅い。
左腕の爪を躱して、腕の根元からお尻の方に掛けてブレードを振り抜く。
近づいてきた2体目のハサミを躱し、右爪を節の部分から切断する。
首の節に沿うように一刀。
少し距離をとり、周囲を確認する。
ヤツらは切断しても、その後も少し動くため注意が必要なのだ。
ザザ…
「みんな"ドガァァァ"聞こえるか?」
ピアス式インカムから隊長の声が聞こえる。
「02、OKです」
隊長も戦闘中のようだ。インカム越しに聞こえた破壊音が、少し遅れてこちらでも聞こえる。
「03、OKで、戦闘中です」
アレンも戦闘になっているようだ、急いでみんなを避難させないと。
「こちら00!まさか高校に出るなんて!?」
「こちら01、桜花高校にバグズ襲来、即戦闘に以降となっている」
「了解、至急、東北支部部隊に応援要請します!」
ガガァァドゴォォォォン!!!
「っ!?」
隊長とリリさんの通信が終わる時、そこら中から破壊音が聞こえた。
高校だけでなく、周辺の住宅からも煙が上がる。
「高校周辺に多数のバグズ反応あり!!」
「くそっ!全員、殲滅戦闘に移行!
校舎方面を03、体育館方面を02、俺が周辺住宅だ」
「「了解」」
大規模侵攻がきたようだ。隊長の指示に答えるべく動き出す。
体育館脇プールサイドの柵を破壊するタイプαへ素早く接近しながら、お腹下から氷柱を生成してかちあげる。
「フンっ!」
力を入れて、すれ違いざま腹から真っ二つにする。何体いるか分からないから、ブレードが欠けないようにしないと。
そのまま体育館奥のタイプαも切り倒す。
「キャーー!!!」
っ!?
「02!体育館内にバグズ反応あり!」
「了!」
地面を踏みしめ、体育館へ跳躍する。
ドアを開ける時間も惜しい…切断して中に突っ込んだ。
体育館の中はステージ手前に食い破られた穴が空いており、地下から直接侵入したようだ。
既に倒れている生徒もおり、バグズから生徒追われているのが見える。私は全力で踏みこんでバグズを蹴り飛ばした。ヤツは10m近く吹き飛び体育館壁に激突したが、これで死ぬようなつくりはしていない。すぐに立ち上がろうとするため、氷柱を強めに出現させて貫く
「え!?」
「アリスちゃん!?」
クラスメイト達と目が合う。気まずいが今はそれどころではない。
「全員、校庭へ急げ!!」
死角にならなければ助けられる。
指示してもクラスメイトは立ちすくんでいる。無理もないが、今は時間が惜しい。
「死にたくなければ走れ!!」
「っ!うん!」
私は急いで残りのバグズを殲滅しにいく。
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side:鈴木俊哉
なんだ!?なんだ!?なんだ?なんだ?
なんだかよく分からない生物が校舎を壊していた。アリスさんはさっきその生物を倒していた。
僕達は体育館への渡り廊下からまだ動けないでいた。
「やばいなんだ?」
「はぁはぁ…なんなの」
体育館から数名走ってきた。全員戸惑った表情をしている気がする。
さっきの見たのだろうか。
すると突然空が暗くなった気がした!
横を見るとさっきの生物が窓ごしに見える。僕は咄嗟のことに足が竦んでしまい、息をのむ。謎の生物の大きい口が開かれるのを見た…
「トシッ!!」
亮輔が腕を引っ張ったことで、僕はこの硬直から解放される。
全力で校舎側へ走りだす。
すぐ後ろで破壊音がする。壁が壊れたのだろう…
破片が亮輔に当たったのだろうか!?亮輔がバランスを崩し、転んでしまった。
「亮輔ッ!!」
「逃げろ!」
言いながら亮輔は直ぐに立とうと手をつく。
ザシュッ…
何故だかよくその音が聞こえた…
亮輔が倒れる…
何か言っているがもう、恐怖でなにもよく分からない…
瞬間、銀髪のセーラー服が現れ、謎の生物を真っ二つになったことは分かった…
その横顔はとても悲しそうだった……
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「ごめんなさい…間に合わなくて……」
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大規模侵攻開始から5分、桜花高校周辺に現れたバグズクラスト【タイプα:22体、タイプβ:1体、タイプγ:2体、タイプδ:1体】の殲滅が完了。
異例の早さの殲滅時間であったが、人的被害【死者:2名、重軽傷者:22名】となった。
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