イワトビーの長老 -4-
「痔がお辛いということは、よくわかりました。しかしこのへんで、いったん今の状況を整理しませんか。長老は、ミリア殿と入れ替わっておられましたが、ミリア殿がいなければ、ブラックペギーを倒すことができず、我々イワトビーに勝ち目はありません。長老ならご存知のはずです。ミリア殿はどこにいるのですか」
長老は、痔の話をスルーされ、わずかばかりのやるせなさを払うかのように、小さくかぶりを振ってから、嘴を開いた。
「それが、あの女魔導師は、メガネを割って視力を失った際、手招きしていたブラックペギーの手下をトビーだと勘違いしてしまい、そのまま連れ去られてしまったのだ。トイレから出てきたばかりのわしは、一部始終をしっかりこの目に見ていたから間違いない。おそらく、今頃はもう……。だからわしは、女魔導師を失ったおまえたちが、自暴自棄になってしまわぬよう、女魔導師の振りをして、お前たちと行動を共にしていたのだ。さすがに、炎魔法は操れなかったがな」
「ということは、我々が救われる術は、もう、ないということですか! なんということだ……希望は完全に断たれてしまった」
イワオの心の中は真っ白になり、その絶望から膝を折ると、両手を雪地について、頭を垂れた。
「いいや、希望ならまだある」
長老は、イワオの前にそっと腰をかがめた。
イワオは、この期に及んでまた痔の話を蒸し返すんじゃないかと、警戒しながら長老を見上げた。
「ブラックペギーの乱心を止める方法がひとつだけある」
「その方法とは、なんですか?」
痔にさせてやればいいのだ、とか言わないだろうな、このボケ老人。
イワオは心の中で悪態をつきながら、もはや痔のことが頭から離れなくなっている。
「イワオがブラックペギーに謝るのだ。誠心誠意、思いを込めてな」
痔とは関係なかったので、一瞬あっけに取られた。
謝る? おれが? ……どうして?
長老の頭の向こう、今も霧雪に巨大な黒いコブが浮かんでいる。
「なぜ、わたしが?」
長老の、笑っているのか泣いているのか、どちらともとれない細い目が、イワオにある種の緊張感を与えていた。
「本当はわかっているのだろう。おまえがブラックペギーをいじめた筆頭者であり、泳げないあの子を海に突き落とした張本人だからだ」
イワオはそのとき、すべてがバレていることを悟った。
気の遠くなるほど、長い、長い時間を、トイレに籠っていたくせに。
この長老は侮れない。
苦々しそうな表情を浮かべ、イワオはガリッと嘴の端を噛んだ。




