炎の大魔導師 VS 氷の大魔導師 -1-
荒れ地に出れば、多くの魔物が蠢いています。
魔力を磨き、より威力のある攻撃魔法を放てれば、なにより己の身を守れるでしょう。
しかし、それ以上に、わたしは魔道の研究に生きがいを感じています。
出会ったことのない法則が結びつき、新しい魔導を開発できたときのゾクゾク感は、何物にもかえがたい快感があります。それだからこそ、魔道研究はやめられないのです。
では次は、干からびたミミズオーの死骸に、ごはんが待ちきれずに垂らしたワイバーンの唾液、それにこの鉱石を結合させるとどうなるか試してみます。計算上では、まず青色に発光して、その後――。
バン! ガラガラガラ!
魔道研究が爆発したのではなく、その衝撃音は玄関の方から響いてきました。
どうやら玄関のドアがカチコチに凍ったうえ、バラバラに割れて崩れ落ちています。これでは、外から部屋の中が丸見えです。
「貴殿が炎の大魔導師、ミリア殿ですね」
ドアがあったはずの場所に、立派な身なりをした見覚えのない成人男性が立っています。彼はどのような権限があって、このような所業が許されると思っているのでしょうか。
「まずは自分の名前を名乗ってはどうですか」
「フッ。よくぞ聞いてくれた。わたしの名は、氷の大魔導師フレデリックだ! この世に大魔導師は一人で十分だ! ようやく見つけたぞ、炎の大魔導師ミリア殿! 俺と貴殿、どちらの魔法が優れているか勝負しろ!」
おそらく、この方は頭がおかしいのでしょう。相手にするだけ無駄です。
「こ、こらっ! わたしを無視して背中を向けるな! 貴殿が大魔導師でありながら、ド変人魔導師だということは知ってるんだぞ! バラされたくなければ勝負だ!」
意味が分かりません。勝負など、そのようなことに無駄な時間を使っている暇はないのです。それよりも、早く魔道研究の続きを……。
発光が消えている?
余計な邪魔が入ったせいで、ミミズオーの死骸はワイバーンの唾液でベタベタになりながら溶け始め、鉱石は粉々に砕けています。失敗です。
「魔法勝負などどうでもいいですが、あなたのせいで研究が台無しになりました。あれは希少な鉱石なのです。簡単に手に入るものではありません。この落とし前は、どうつけてもらえますか」
「そんなこと、ぼくの知ったことではな――」
「モアファイアー」
氷の大魔導師だか何だか知りませんが、今すぐ消し炭になりなさい。