ゴーシィ、戦うを決意する〜異世界生活九十四日目③〜
僕が落ち着く迄の間小休止となった話し合い……会議で良いか、が再び始まりました。
「いや〜まさか泣かれるとは思わなかったわ」
「今直ぐ記憶から消して頂いて良いですよ?」
「私の寿命が尽きる迄生涯語り継ぐわね」
それ、僕が死んでからも延々と弄られ続けるって事ですよね?
ある意味デジタルタトゥーよりも厄介なのでは?
あれか、歴史的偉人の奇行の話が現代でも語り継がれてるのと一緒ですかね?
いや、寧ろ生き証人がいる分たちが悪いような気が…………。
と、考えても仕方無いので話を本題に戻しましょう。
「え〜っと、先程ゴルゾフさんが言っていた巡回なんですが、僕もそれに加わっても良いですか?」
「もう切り替えたの?面白く無いわねぇ」
「面白がらないでもらって良いですか?」
話を蒸し返さないでもらって良いですかね?
めっちゃニヤニヤしてるし……。
そんなエルクリアさんを無視してゴルゾフさんを見ます。
「だが良いのか?狙われてるのは寧ろおめぇだろ?」
「だからですよ。僕が囮になる事も出来ますし……」
「あぁ゙!?それはさっき言った通り、儂等にそんなつもりは無ぇ」
「もしもの話ですよ。もしクラリス殿下が探しているのであれば直接事情を説明したいですし。それに…………」
僕は一度言葉を区切りました。
ボルドー殿下が僕を探している可能性を考えた時の対応は僕自身でしたいから。
勿論、言葉通りもしクラリス殿下が探してくれているのであれば、結局は直接出向いた方が話が早くて済みますから。
「それに、もしボルドー殿下が僕とフィズさんの命を狙っていた場合、僕自ら決着を付けたい。人の命を狙うんです。自分が殺されても文句は…………言えないですよね?」
「「「「「…………」」」」」
皆に僕の決意が伝わる様にわざと明確な殺気を籠めた言葉を使いました。
自己犠牲では無い。
そう意思表示をする為に。
「お、おぅ、分かった」
さっき話していた時に湖とその岸辺付近はマーフォーク族が担当する事が決まっているので、僕はエルフ族・ドワーフ族と一緒に森の巡回に組み込まれる事になりました。
ゴルゾフさんの備え?趣味?の二振りがまさかこんなに早く役に立つ可能性が出てくるのは何とも皮肉なものです。
「じゃあ改めて纏めるわよ。先ず森の中をエルフ・ドワーフが巡回。ホビットには連絡係を頼む事もあると伝えておいて」
「必ず皆に伝えてよう」
「ハルピュイアは上空から異常が無いかを確認。些細な事でも良いわ、いつもと違う所があれば直ぐに報告を」
「分かったの!頑張るの!」
「マーフォークは湖とその岸辺付近を。危ない場合は水中から、安全が確認次第なるべく岸に近付いて付近を隈無く見て回って。但し、決して岸には上がらない事」
「はい、全員に周知させておきます」
「ゴーシィはエルフ・ドワーフの中の一組に同行を。皆にも言える事だけど独りでの行動は極力控えて。接敵した場合、貴方の判断に任せるわ」
「はい」
「相手は死体が見付かった方角からフィズが推測するにローゼン国のヒト族の可能性が高い。その方面を重点的に巡回をしてちょうだい。勿論、他方向の警戒も決して怠らない様に」
その他、非戦闘員に関しては基本は通常通り。
但し何かあっても直ぐに動ける様に情報共有は徹底し、避難経路や食料・生活必需品は一定数確保をしておく事も合わせて伝える事になりました。
これを各種族の長が同種族の全員へと伝え、明日から決まった行動に従って動く事になるでしょう。
エルクリアさん以外の皆が出ていき、会議はこれにて終了……と思われましたが、僕達は彼女に呼び止められました。
先程の何事にも臆さない強い女性の姿とは打って変わってその雰囲気は弱々しく感じます。
「ゴーシィ。それにフィズ。二人には聞いておきたい事があるの」
「聞いておきたい事……ですか?」
「私にも?」
「えぇ、二人に……よ」
他の皆を帰して迄僕達に聞きたい事。
僕は何となくですがその内容に察しが付きました。
「もしかして…………ローゼンの騎士団と戦闘になった場合の事ですか?」
「……えぇ、流石ね」
「まぁ……何となくですが……」
彼女の聞きたい事は僕の読み通りでしょう。
「ゴーシィとフィズ、単刀直入に聞くわ。もし直接戦闘になった場合、私達は勝てる?負ける?もしくは逃げられる?そして勝った場合の被害は?負けた場合、私達はどうなるの?」
エルクリアさんから出てくる言葉はこれからの不安の数々でした。
種族の長として、更にはその長達の代表として今回の件……多分それ以外も率先して指示を出していたんでしょう。
そんな中僕達の様に元々この村の人間では無く、外部から来た者だからこそこうして本音を吐露出来たのだと感じました。
隣のフィズさんはそんな彼女に対してどうして良いか分からないなら様子で僕の方を無言で見てきます。
彼女も異世界人である僕に「大丈夫だ」と言ってほしい様な、縋るような視線を向けてきます。
しかし、何の根拠も無い大丈夫は決して慰めにはならないでしょう。
仮に一時的な不安を取り除けたとしても直ぐ様不安に塗り潰されてしまう。
だから僕が推測する言うのはもっと別の事。
「……分かりません」
「え…………?」
「どうなるかは分かりません。僕一人が頑張ったところで出来る事は限られてしまいます」
「そう……よね……」
「だから協力して下さい」
「それは勿論だけど―――」
彼女は僕が言った意味の真意を測りかねていました。
「その時は僕が矢面に立って時間を稼ぎます。その間に皆さんは出来るだけ遠くに避難して下さい」
「でもそれは……」
「僕は異世界人です。それにゴルゾフさんから話を聞いていませんか?少なくともそこら辺の騎士団相手に遅れを取る事はありませんよ」
これは真実を織り交ぜた嘘でした。
騎士団の面々……全員を知っている訳では無いですし、直接的に指導した人達なら以前より力を付けている可能性もあります。
そんな人達を相手にたった独りで出来る事は限られます。
それでも―――
「決してただのスケープゴートになるつもりはありません。もしそうなった時には長の皆さんにも協力をしてもらいます。殿を僕が勤める……。それだけです。僕が皆さんを…………守ります」
強く、はっきりと言い切りました。
ここで弱気な発言は出来ません。
こんなに信頼を寄せてくれた人達を裏切れば、もう僕は自分を一切信用出来なくなるから…………。
だから僕は全力で、自分の全てを持って、この二振りの刀を用いて……この人の期待に応えたいと思いました。
「…………うんっ!」
俯いた顔を挙げた彼女の表情は、涙を溜めつつも少女の様な明るい笑顔でした。
いざという時、僕はこの身を賭して戦うと誓いました。
皆を、フィズさんを、そしてこの笑顔を失わない為にも…………。
最初は一日を一話で続けていましたが、どうも込み入った話や戦闘が入ると話を跨ぐようになる事が増えましたが、もう気にしたら負けかなって……。




