剛士、ダンジョン探検をする〜異世界生活七日目〜
やっと異世界らしい事が始まります。
おはようございます、剛士です。
昨夜はこちらに来て一番熟睡出来た日でした。
時折、小動物は訪れたものの、肉食動物は一切現れず、鳴子も軽く揺れただけで、本当に特に何もありませんでした。
そのおかげか気力も体力もだいぶ回復。
起き抜け直ぐに飲水を用意し、探索に出たところ、3時の方角であるものを発見し、現在どうするか悩んでる最中です。
「これ、明らかに不自然ですよね?人工物?遺跡?いや、それにしては洞窟っぽし…………」
湖畔を歩いていると、茂みの少し奥の方に開けた空間を発見。
興味本位で近付いてみると、何故か木も草花も何も無い場所に盛り上がった土の山。
そこには下へと続く石の階段が設置されていました。
「階段は石なのに、壁は土のまま……。もしかしてもしかしたりしますか、これ?」
オタク脳から導き出される結論は一つしか無かった。
ダンジョン・迷宮等の呼び名は作品によって色々あるが、ファンタジー作品によくあるアレ。
それが今目の前に現れた可能性。
心躍らない訳が無いでしょう。
「ですが、流石にこのまま突撃するのは…………。いや、でもよくある設定だと上層は弱い魔物だったりするし…………」
ここは異世界だが、あくまで現実。
ここで死ねば本当に死ぬ。
それなのに防具も無く、武器も手作りのもので未知のダンジョンに挑むのは命知らずもいいところ。
流石に興味しか無いとは言え、そんな馬鹿な真似をする筈は―――
はい、有りました、好奇心に負けました。
いつか身を滅ぼすぞ、僕。
武器は石の手斧・石の短槍・石のナイフ・ パチンコ。
防具は長袖Yシャツにスラックス、スニーカーの通勤スタイル。
…………頼り無さ過ぎて涙が出そうです。
それでも一度進み始めたら後戻りするのも如何なものかと。
念の為、一度入ったら出られないとか無いか調べましたが、普通に階段を登れば出られました。
階段を降りきると見た目は天然の洞窟ですが、不思議と視界はあります。
「ぼんやりと壁が光ってる?土自体が発光しているんですね?少し掘って…………って固っ!?」
土の壁に見える洞窟でしたが、石のナイフを突き立ててもまるで石……いや鉄に当たった金属音がして弾き返されました。
試したところ、床は掘れました。
掘るのは諦めて、出来る限り調べるとと分かった事がありました。
「触った感じは土そのもの。ただ、穴を開けたり、強く叩こうとすると先程と同じ金属の様な硬さになる……と。そして、よくよく見てみれば壁そのものでは無く、壁の中に仄かに発光している小さな石が混ざっていますね……。実に不思議です」
採取したくても出来ないのが残念ですが。
そんな事をしていると、分かれ道に到着しました。
「分かれ道ですか……。ここから分岐を繰り返すのなら、慎重に決めなければ…………ん?」
左右に分かれる道の右側、少し曲がっているので先は見えないが、微かに音が聞こえてくる。
「足音じゃない……。水?にしては重い音ですね…………っ!?これは!もしかしてもしかするんじゃないですかっ!?」
走り出したい気持ちをぐっと堪えて慎重に進む。
ペチャペチャ……いや、ベチャベチャとした音が少しずつ近付いてきます。
「さぁ、ご対面といきましょう」
曲がり角の手前で立ち止まり、武器を構えて音の主を待つ。
姿を現したのは…………予想通りスライムでした。
ただ、某有名RPGの逆ティアドロップ型でも無く、某スライムに転生するアニメの様な球体では無く、アメーバの様な不定形でした。
少しがっかり。
なんて言っている暇は無いので、先手必勝と持っている武器の中で一番リーチのある短槍で一突き。
核の様な物も見当たらないので、体の中心部分に突き立てます。
が、しかし…………。
「普通に動いてますね…………。あ、逃げた…………」
刺された事を意に介さずニュルリと穂先を抜け、空いた穴を塞ぎながらもと来た方向へと去っていきました。
その場に残されたスライムの飛び散った破片?を観察すると、一つの事実が分かりました。
「飛び散った一つ一つが動いてる。もしかしたらスライムは元々このサイズで、それが群れを成している群体生物?それなら先程の攻撃なんて一切ダメージ入らないですよね。駆除方法は定番の火で燃やすとかですかね?なるほど、興味深い」
しゃがんで、「ふむふむ」と観察している背後に立つ影。
勿論、気付いていましたよ?
片足を軸に半回転して、振り向きざまに急所があるであろう首元目掛けて槍を突き出します。
嫌な感触が手に伝わると同時に、槍を抜きつつ念の為スライムを飛び越えて、後退。
ドサリと音を立てたのは、これまたファンタジーで定番の魔物。
子どもの様な体に黒ずんだ緑色の皮膚。
頭には頭蓋骨が少し盛り上がって出来ているであろう角?の様なもの。
皮で出来た腰巻きで極部のみを隠した簡素な服装。
ボロボロの錆びたナイフとその鋭い歯と爪が武器だろう。
「これはもしかしなくても、ゴブリンですよね?」
床に血溜まりが出来る事は無く、そのまま砂のように崩れ、消えていく。
残ったのは身に付けていた腰巻きとナイフ、それに黒ずんた石の様な物だけだった。
その石を一瞬だけ触れて害が無い確認し、摘んで拾い上げる。
「オニキスの原石……?でも生物の体から出てくるのはおかしいですねとりあえずこのサイズなら持っていても邪魔にはならないでしょうし、確保しておきますか。ついでに錆びているとは言え、貴重な鉄ですからこのナイフも頂いていきましょう。腰巻きは…………要らないかな」
少し研いだら使えるかもしれないナイフと黒い石を回収する。
「スライムが逃げた方向に行くのは少し躊躇しますね。逆の道に向かってみましょうか」
こうして僕の初のダンジョン探索はまだ終わりそうにありませんでした。
スライムは群体生物ってしたら少し説明出来そう、多分。
ゴブリンは無理。