ゴーシィ、アレを求めて奔走する〜異世界生活八十五日目〜
村に住むと決まってからは早いもんでした。
手始めに、仮屋として住んでいた家を正式に譲り受ける事になり、そこに僕とフィズさんが住む事を村の皆に説明して回る事に。
ドワーフ族とホビット族はゴルゾフさんと一緒に鉱石を集めてきたからなのか、好意的に受け入れてくれました。
逆にエルフ族とマーフォーク族は「長が決めた事だから表立って反対はしないけど、そう簡単に認めない」って感じの雰囲気が強過ぎて、フィズさんが怯える程でした。
勿論、一部は受け入れてくれている雰囲気もあったので、そこは時間を掛けて信頼を勝ち取る他ありません。
ハルピュイア族は元々一箇所に留まる事が無いらしく、フラウさんを含めても数が少なかったのですが、どうやらフラウさんとの村の前での一悶着の甲斐があったのか「強い人に従うの!」「英雄の子種が欲しいの!」「異世界人の子種は強いの!」「さぁ、ヤるの!」と、凄まじいアプローチを鋼の意志で躱し、認めてもらえました。
その際に「流石。英雄はそう簡単に靡かないの!だからこそ攻略し甲斐があるの!」と聞こえましたが、気の所為だと思いたい。
そんなこんなで次の日。
先ずは僕とフィズさんの生活環境を整える事から始まりました。
とは言っても既に必要な家具もありましたし、必要と言えば衣服と食料くらいなもの。
ただ、そこで問題が発生しました。
今日は二人で回っていたせいなのか、昨日以上にエルフ族の方々は冷たく、食べ物の交渉をしようにも取り付く島もありません。
何件か回って駄目だったので、エルフ族の住居区で食料を手に入れる事を諦めて、少し離れたドワーフ族の住居区へ。
そこでは食料が手に入ったんですが…………。
「見事に肉と酒しかありませんねぇ……」
「流石ドワーフ族の皆様ですね……」
酒・酒・酒・肉・酒・肉の割合。
寧ろ肉よりも酒が多い。
野菜どころか穀物する無いとかどうなってるんですか、ドワーフの胃は。
「こうなったら自分達で取りに行くしか無いですかね?」
「でも大丈夫でしょうか?自生しているものは有毒の可能性もありますよね?」
「ですよねぇ……。この森で生活していた時に少しは試しましたが、正直自身が無いんですよねぇ……」
自分一人であればとりあえず無毒そうな物を採取して手当たり次第食べて、食べられそうな物をより優れば良いですが、今回は彼女と二人分。
そうなると、そんな博打みたいな方法は取れません。
ん?待てよ?
酒があるって事は―――
僕は貰った酒を開けて全て匂いを嗅ぎました。
やっぱり、これは蒸留酒だ。
そして、その一本に日本人の心と言ってもおかしく無いあの香りがありました。
「フィズさん!もう一度ドワーフ族の所へ向かいましょう!」
「へ?どうしたんですか?」
「もしかしたらあるかもしれません、穀物類が!」
「っ!?それは行きましょう!」
先程酒をくれたドワーフの下へと向かいました。
話を聞くとこの村で飲まれている酒の殆どはこの村で造られているものらしい。
「じゃあこの酒の原料は何処で!?」
「おいおい、どうしたってんだ?そんなもん、そこら中に生えてるじゃねぇか」
「そこら中に……生えてる…………?」
この世界に来て森で暮らしていても見なかった…………。
もしかして、湖の北と南で植生が違うんでしょうか?
其れ等が自生している詳しい場所を聞き、フィズさんと一度家に戻り、僕は村の外へと向かいました。
「この辺りな筈だけど…………。どう見ても自生出来そうな場所は…………いや、っぽいのがありますね」
僕の求めたソレは目の前に現れました。
金色の穂を垂れています。
「米えぇーーー!」
僕は我を忘れて手当たり次第刈りまくりました。
よく考えたら刈り過ぎると次に生えてこなくなるかもしれませんが、そんなの知ったこっちゃありません。
それに、田んぼでも無いのにそこら辺の草花みたいに生えてるし、背が少し低いし、と色々ツッコミどころが満載でしたがこの際どうでも良い。
辺り一面あった稲穂を刈り尽くしたところで我に返ります。
「これ、どうやって持って帰ろう…………」
幾ら纏めたとは言え、持って帰えるのも一苦労な量。
それに、干したり脱穀したり精米したりしないと食べられませんから、実際口に入るのは後2週間近く先の話。
露骨にテンションが下がった僕の肩が突然叩かれました。
村の近くとは言え、ここは魔の森とも呼ばれる場所。
にも関わらず、警戒をしていなかった事を悔やみながらその場から飛び退いて、体勢を整えました…………が―――
「スライムさん?」
僕の肩を並べ叩いたのは洞窟内で僕の命を救ってくれたスライムでした。
張り詰めた緊張が一気に解かれます。
スライムは驚いた事を申し訳無く思ったのか、触手を体の前で合わせて「ごめん」のポーズ。
「こちらこそ、吃驚させてすみません。どうやら気を抜き過ぎてたみたいで…………」
そう口から溢れましたが、そもそもそんな事有り得るのでしょうか?
常在戦場を子どもの頃から叩き込まれていますから、寝てる時は兎も角、起きている時に気が緩んで他者の接近に気が付かない訳がありません。
ですが、その疑問は直ぐに解決する事になりました。
「あぁ、スライムさんの気配自体が殆ど無いからですか。よくよく観察すると違和感が凄いですね…………」
視界には巨大なスライムがいるにも関わらず、目を閉じてその気配のみを探ると何もいない様に感じてしまい、居心地が悪く感じてしまいます。
「いないと言うよりも、周りの気配と同化してる感じですかね?」
自分で納得する為に独り言を呟いたつもりでしたが、スライムは大きく丸を作りました。
どうやら、スライムとこの世界の雰囲気?気配?が同様みたいです。
「ところで、どうしたんですか?こんな所に」
村に入るところくらい迄は一緒に居た筈ですが、いつの間にやら消えていた彼?彼女?
そしてまたもいきなり現れた、正に神出鬼没ですね。
スライムは触手で僕が収穫した稲穂を指しました。
「ん?もしかして運んでくれるんですですか?」
[肯定]
どうやら手伝いをする為に駆け付けてくれたみたいですね。
申し訳無くも思いますが、正直助かりますので、素直にお願いしました。
こうして、僕は無事米をゲットしました。
食べられるのはもう少し先になりそうですが、少なくとも肉と酒だけの日々は回避出来そうです。
スライムジェスチャーに関しては、【ゴーシィ、久し振りの地上に出る〜異世界生活八十一日目②〜】を参照。




