ゴーシィ、このヒト族の成り立ちを知る〜異世界生活八十四日目②〜
人間。
僕達の世界……地球に人間はこの世界で言うヒト族以外はいませんでした。
いや、ビッグフット等のUMAと呼ばれる存在がいるのかもしれないですが、不確定なので除外。
そんなヒト族がこの世界ではイレギュラーな存在だったなんて…………。
何故そんな事が起こったのかを更に詳しく聞く事にしました。
ヒト族誕生のきっかけは至極単純な理由。
ある時、通常一人しか転移してこない異世界人が男女で現れた。
その二人はいきなり見知らぬ場所に何の説明も無く放り出され、生きていく事を余儀無くされる。
そんな時、唯一同じ世界から来てた同じ境遇の者がいればどうなるかを想像するのはそう難しくない。
そうして二人の間に出来た二人の女の子。
それがこの世界で初めての精霊の加護も持たず、獣の特徴も無い今のヒト族の祖だった。
今までも異世界人が子を成した事はあれど、それはあくまでこちらの世界の住人との子ども。
基本的には異世界人が男性であれ女性であれ、獣人であれば獣人の、エルフであればエルフの血を強く受け継ぎ、薄くても半獣人・半エルフとなる程度だった。
しかし、異世界人同士の子である二人の女性が産む子は全て母親の特徴のみを受け継ぐヒト族のみ。
更にその二人から産まれた男性もまた、他種族と交わろうとそこから産まれてくるのは全てヒト族。
そうしてヒト族はその個体寿命こそ短いものの、それに余りある強い繁殖力で爆発的に数を増やしていく事となる。
だが、いくら数を増やしても所詮魔法も使えず、強靭な肉体や爪や牙も無い弱い種族。
どんなに雑に扱おうと力の無さから逆らおうとせず、数だけは増え続けるので使い潰しても替えがきく為、これ幸いと他の種族から奴隷として扱われ、虐げられてきた。
そんな中、またも一人の異世界人がこの世界のターニングポイントとなる。
その男は力こそヒト族と変わらないものの、圧倒的な知識とこの世界に無い技術を持っていた。
この世界の住人は見誤っていたのだ。
力の無いヒト族は繁殖力のみが取り柄では無かった。
真に恐ろしいのはその順応性の高さと知識の吸収力だった。
男が持ち込んだ知識と技術を瞬く間に入手したヒト族はその男を旗印にし、自分達を物の様に扱っていたこの世界の住人へと反旗を翻す。
一部で起こった反乱は世界中のヒト族に希望を与え、あれよあれよと反乱軍は大きくなっていく。
そして、ヒト族の千年に渡る奴隷生活は男が現れてからたった五年で終わりを告げた。
支配から解放されたヒト族は国を興し、今度は逆にその知識と技術によって他種族を奴隷とし始める。
その後、ヒト族は生活が安定してくると今度は同じヒト族を、自分よりも裕福な、力を持つ者を羨む様になる。
そう、国家間の戦争が巻き起こる。
血で血を洗う戦いが続き、無数にあった国は数える程になり、人口も最盛期の半分を切ろうとした頃、新たな異世界人が現れた。
次に現れた女性はこの世界の惨状を嘆き、その生涯を賭して終戦へと導いた。
後世では聖女と語られるその女性はヒト族へ幾つかの誓約を周知させた。
その後、大なり小なり国同士の諍いはあるものの、当時の様な血みどろの戦は起こる事無く、現在の形に落ち着いた。
聖女への感謝とその誓約を守る為、彼女に付き従った者達は新たな国を興し、彼女の没年を今のヒト族の始まりの年と定めた。
それが、現在ヒト族全ての国で使われている【聖暦】と呼ばれる年号となる。
そして現在、聖歴1547年。
誓約を守りながらヒト族は繁栄を続けている。
「…………まさかヒト族の始まりが僕と同じ地球人だったなんて」
それはバグと呼ぶよりウイルスと呼んだ方が正しいでしょう。
事実、そのせいでこの世界は二度の大混乱に陥ってしまっていますし。
ここ迄の話を聞いて、幾つか気になる事がありました。
「質問を良いですか?」
「えぇ。分かる事なら全て答えるわ」
「ありがうございます。先ずはその聖女が周知させた誓約を教えていただいても宜しいですか?」
「勿論、構わないわよ」
誓約の内容はこうでした。
一つ、大地を割り、天にも届く大輪の花を咲かせてはならない
一つ、災いの炎を呼ぶ滅びの水を手に取ってはならない
一つ、死に至る悪魔の息吹を探してはならない
一つ、空を奔る神の怒りを求めてはならない
此等の四の誓約を破りし時、こ生命はそう遠く無い未来に滅亡し、この世界は不毛の大地となる。
「―――以上が聖女の誓約、今はでは聖書と呼ばれる物の原点よ」
「成る程…………」
四の誓約ですか……。
一つ目は火薬か原爆……どちらかは不明ですが爆発物の類いでしょう。
二つ目は石油か、それの元となる重油。
三つ目は気体ならガスですかね?
四つ目は比喩的に雷だから、電気って事になりますね。
こちらの世界の住人にはヒントを与えない為に遠回しに、でも僕達地球人が見れば何となくでも察する事が出来る、誓約ですね。
実際、此等が開発される度に僕達の世界の戦争が一新したのは間違いありませんから、この世界の戦争の形を悪化させない為に禁止してしまうのは良かったのかもしれません。
この世界の成り立ちは僕が思っていた以上に僕達が関わっているのだと痛感してきました。
それが良いのか悪いのか、分からないですが…………。




