ゴーシィ、予想外の事で認められる〜異世界生活八十三日目③〜
料理を説明する部分にグロテスク(虫的な意味で)な表現がございます。
苦手な方は今話を読み飛ばしてください。
「お待たせ致しました。こちらが本日の昼食になります」
その声と共に僕達三人の目の前に置かれたの木のワンプレート。
そこには栄養を考えられたであろう品々が色とりどりと並んでいました。
並んでいたのですが―――
「色が多過ぎません?」
「そう?大体こんなものよ?」
これがエルフ……と言うよりヒト族以外の食事なんでしょうか?
手元の皿に目を落とすと、まず目に入るのは赤いドレッシングの様なものが掛かった、細切りされた青い人参と黄色いキャベツのサラダ(正確には人参っぽい物とキャベツっぽい物)。
何故補色同士を混ぜたのだろう……。
続いては漆黒に近しい黒々としたパン。
特製のフォークで叩くと金属音するけど、本当にパンですよね?
最後に白い蛋白源。
…………まぁ、ぶっちゃけ何かの幼虫であろう芋虫です。
その上には赤い香辛料?的な粒々が混ざった紫色のソースらしきもの。
一言で言うと「the・グロテスク」ですね。
観察をし終わった僕は横目にフィズさんを見ましたが、微笑みを携えたままフリーズしています。
まぁ、これが出てきたらショックを受けますよね。
それに、エルクリアさんは何事も無い様に食べ始めているので余計。
出された物を粗末にする訳にはいきません、意を決してそれに口を付けていきます。
…………まずはパンから。
うん、固いし物理的に重い。
噛もうとしても、まるで石を齧っているかの様で中々噛み切れませんでしたが、どうにか噛み千切る事に成功、唾液と混ぜ合わせながらゴリゴリと咀嚼してどうにか飲み込む事が出来ました。
僕の顎の力はそう弱いものでは無いと思いますが、ここの人はどうやって食べてるのかを見てみると、エルクリアさん含めて周りが目をまん丸にして僕を見ていました。
え?何?僕、やらかしました?
「えぇ〜っと、ね。そのパンは―――」
「お待たせ致しましたー。付け合わせのスープで……す……ってえぇ!?お兄さん!その黒パン齧ったんですか!?」
「え?あ、はい」
「物凄く硬くなかったですか!?」
「はい、石みたいに硬かったです」
「そうですよね!?」
ん?どういう事でしょう?
僕は答えを求めてエルクリアさんの方を向きました。
彼女は苦笑いを浮かべつつ、僕が求めている答えを教えてくれます。
「この黒パンは硬いでしょう?だからこうやってスープに浸して柔らかくしてから食べるのよ。やってみなさい」
……確かに。
運ばれてきた琥珀色のスープに少しだけ浸した黒パンは柔らかく(それで硬いは硬い)、すんなり噛み切れる様になりました。
「ほらね?だから普通はスープが運ばれてくるまでは他の物を食べておいて、スープが来てから黒パンを食べるのよ。それなのにいきなり黒パンに齧り付くから吃驚したわ。しかも、ちゃんと食べていたし……」
「ははは……。強い顎に感謝ですね……」
褒めている様で、半分呆れが入っていますよね。
それにしても食べ方が分からないものは素直に聞いてから食べた方が失礼じゃ無さそうです。
そして聞いてところ、他の物に関しては特に無いらしいのでそのまま食べ進めていきます。
あ、このサラダに掛かってるドレッシングみたいなの美味しい。
これ、インドカレー屋で出てくるサラダのドレッシングに似ていますね。
何かの幼虫も、食感的には海老。
ソースも色を気にしなければマヨネーズに近いので、これは海老マヨですね。
スープは見た目コンソメスープ。
ここは普通でした。
「うん、どれも美味しいですね。あ、フィズさん。ちょっと物足りないので、それ貰っても良いですか?パンとスープは食べてもらって良いので」
「は、はい。どうぞ、お食べ下さい」
出された料理を食べ渋っていたフィズさんのお皿を奪う様に貰い、それも完食。
こうすれば奴隷のフィズさんが主の命令で仕方無く差し出した事になるので、失礼にも当たらないでしょう。
「ふぅ、満腹です。ご馳走様でした」
そう言って手を合わせた僕に対する周りの目が少し変わった気がしました。
いや、実際に周りが少しザワザワしていますね。
「ヒト族なのにアレを食べたぞ」
「あの方は異世界人なんでしょ?」
「奴隷の女は食べてないからやっぱり……」
「主に言われたから差し出しただけだろ?」
「それにしたって黒パンをそのまま……」
「普通は食べねぇだろ……」
僕達に対しての色んな感想が飛び交っていますね。
それにしたってそこ迄黒パンの直食いは可笑しいんですかね?
そして、周りのこの反応となると―――
「エルクリアさん?試しましたね?」
「ん?何がかしら?」
「多分ですが、一般的なヒト族は今出された料理に手を付けない。もしくは「こんな物食べられるか」と出した人達を罵倒する可能性がある。だからこそ、ここに連れてきて見ようとしたんですね?僕とフィズさんがんな反応をするかを」
唯でさえヒト族(僕は異世界人としてですが)は肩身が狭いどころか嫌悪されるこの村。
そんな中で出された料理に対して文句の一つやあからさまに嫌がる態度を出せば、受け入れてもらえる可能性は皆無になるでしょう。
今後、僕達がここで生活出来るかの一つの判断基準とする為に、敢えてここに連れてきたのだと容易に推測出来ました。
そう伝えると、彼女は笑顔でゆっくりと口を開き、こう告げましたました。
「私、料理出来ないから。それに、ここの食堂が口に合うから連れてきただけよ」
いや、完全に自分の都合と好みかよ!




