ゴーシィ、己を最適化する〜異世界生活八十二日目③〜
これ以上は蛇足かと思い、キリの良いところで区切る関係上、今話はいつもより少し短めです。
最初は主人公の過去回想からスタート。
一流の暗殺者とは?
曰く、標的にもその周りにも気取られふ事無く標的の命のみを奪い、一切の証拠を残さず、去った後は標的が息絶えている事以外はまるで何事も無かったかの様な状態。
それを成し得るのが一流と呼べる。
二流になれば標的に気付かれる。
三流は標的どころかその周りにも気付かれ、不要な犠牲を伴う。
何事でも目指すのであれば一流だと僕は思っていました。
だがしかし、母の教えはいつも違っていました。
「母さん、何でいつも一流では無く三流の暗殺者になれって言うんですか?」
床に突っ伏して首だけを何とか持ち上げながら、僕の眼前に仁王立ちする母に問い掛けます。
「当たり前でしょう?例えば掃除をするのに目の前の一番大きな埃だけを取って「掃除が終わりました」何て言うの?」
「それは言いませんけど…………」
「そうよね?大きな埃も小さな埃もすべからく取り除くのが掃除よ」
「つまり、標的だけじゃなくその周りも全てって事ですか?」
「そう。だから貴方は一流では無く三流を目指すの。いえ、目指さなければいけないの」
母は誰が見ても一流の暗殺者。
既に実務に就いている兄や姉もその若さで既に母程では無いにしろ一流と呼んで相違無い程。
それなのに、何故自分だけが?
そう思い続けていました。
「大きな埃を取り除いても、周りにある小さな埃がいずれまた大きくなってしまう。それじゃ結局イタチごっこになるわ。だったら最初から全てを綺麗にしてしまえば良いのよ」
「その周りにいる人の中に善人がいた場合でも……?」
悪事に手を染めてない人もいる筈。
止めたくても止められないけど、それでも自分なりの志を持っている、そんな人も。
「そうよ。早めに離れているならいざ知らず、悪人と分かっていて側にいるって事はもう既に自分と周りの汚し方を知っているもの。そんな人が善人で居続ける保証は無いわ」
「だから纏めて殺すんですか?」
「そう。それが私達の役目なの。永きに渡って大きな埃のみを取り除いてきたけどこの世は変わらない。温床があり続ける限りは。だから温床毎全て消すのが私達の使命よ」
独りの悪であればその人間さえ始末すれば良い。
しかし、一人の悪は周りに伝播させる。
たとえ今は毒されて無くても既にその毒を持ち、それの使い方も知ってしまっている。
だから其れ等も纏めて消してしまえばそれ以上伝播するのが防げる。
暴論も暴論。
でも、それ以外方法が無いのもまた事実でしょう。
「一人いれば周りも一緒に…………ってまるで昔の学園ドラマのワンシーンみたいな台詞ですね」
「そうそう、あのドラマは私の青春時代の…………って誰が年増のババアだってぇーーー!?」
「そんな事誰も言って―――ぎゃあぁぁぁぁ!!」
そこからの記憶は…………思い出したくも無い。
何故そんな記憶が呼び起こされたのでしょうか?
途中から脱線してしまいましたが、言いたい事は唯一つ。
僕は暗殺者としては三流に育ちました。
ただ違うのは他の人達より遥かに濃密で異常な迄の量の訓練と実践を経て誕生した、一流の三流三流。
つまり、暗殺のみならずただひたすらに人を殺す事のみを極め続けてきました。
それを成し得るのに先ず教え込ま……刻み込まれたのは殺し方ではありません。
最初に習ったのは、殺す為に必要な事のみに己を最適化する事。
怒りが募れば視野が狭くなります。
情に流されれば、その手が鈍ります。
だから感情を殺す。
人を殺すのに必要な事のみを思考する。
他の雑多な情報を遮断し、必要な事にのみ思考のリソースを割けます。
後はその感情と思考に伴う肉体を造り上げるだけ。
これが僕の根底にある、一流の三流である暗殺者像でした。
フィズさんを傷付けられた怒りを深く飲み込み、感情を殺していく。
彼女を傷付けたアレを殺す事に必要な思考のみを残す。
肉体は既に出来上がっている。
そして最適化の最後の仕上げ。
自分にしか出来ない、最適化の極地。
その極地が《傀儡遊戯》。
生命維持に必要な脳の電気信号の内、殺しに必要の無い全てを遮断し、其れ等を必要な事に改めて割り当てる。
もう何時ものルーチンすら必要無い。
一度ゆっくりと目を閉じ、再び開くだけで全て完了した。
後は、全ての埃を掃除するだけだ―――
久々に《傀儡遊戯》の登場です。
《傀儡遊戯》の詳細は以前投稿した
【剛士、少し本気を出す〜異世界生活七日目③〜】
にありますので、忘れてしまった方は是非もう一度御覧ください。
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