ゴーシィ、村を目指す〜異世界生活八十二日目〜
作者よりご案内
来月11/4(月)より、更新の止まっていたもう一方の作品の更新を再開します。
新章に入り、また違った楽しさがありますので、まだお読みでない方はそちらもどうぞ。
勿論、この作品もこれからも宜しくお願いします。
夜が明け、フィズさんが用意してくれた朝食を取った後、ゴルゾフさんから話がありました。
「荷物を片付けたら儂等が住む村へ出発する。何も無いとは思うが、もし何かあれば手を出すんじゃねぇぞ。おめぇは異世界人、嬢ちゃんはその奴隷だ、それを儂から説明するからな。良いか、絶対に手を出すなよ!?」
「分かりました」
「はい、勿論です」
「「フィズさん(ゴーシィ様)に手を出されなければ!」」
「……マジで頼むぞ…………」
ゴルゾフさんは諦め半分呆れ半分の表情をしていましたが、それでもフィズさんに何かあれば、僕は我慢は出来ない…………いえ、しないでしょう。
いくら彼の仲間とは言え、僕からしたら赤の他人。
少なくとも彼女より優先順位が高い事はあり得ません。
それはそれとして―――
「スライム様はどうされるのですか?ゴーシィ様に懐いている…………様な気がしますが…………?」
「これ、懐かれているんでしょうか?」
「傍から見れば捕食される寸前に見えますね」
「そうですよね」
スライムが某人を駄目にするソファよろしくな状態になっており、僕は今現在それに座っている……もとい埋まっています。
「その御方は問題無ぇ。気分で付いてくるだろうし、気分でどっか行くだろう」
「そんな風来坊みたいな……」
「ふう……?なんだ、そりゃ」
「あっちの世界の言葉です、忘れて下さい」
流石に伝わらなかったですね、風来坊。
全く関係無いですが、手羽先が無性に食べたくなりました。
全く関係ありませんが。
「兎も角、だ。準備が出来次第出発するぞ。遅くても夕方には向こうに到着するだろう」
そうして準備を終えた後、僕達はこの野営地を離れゴルゾフさんが住んでいる村へと出発しました。
「相変わらず昼間でも薄暗いですね、この森は」
「あぁ゙!?しょうがねぇ、この森の木は土から魔素をふんだんに吸ってるからな。それに大気中の魔素量も濃いから余計にな」
「魔素…………ってあの魔素?」
「どの魔素かは分からねぇが、魔素は魔素だ」
ファンタジー要素盛り盛りのフレーズです。
やっぱり魔法が存在する世界には魔素が欠かせないんですかね?
魔素の事を「マナ」とか呼ばないのか聞くと「マナ?なんだそりゃ?」と言われたのは些細な事。
「そもそも魔素って何なんですか?」
「あぁ゙!?そこからか?…………って異世界人だもんな。とは言え、嬢ちゃんも知らねぇだろ?」
「えっと……大気中に存在する魔法を行使する際に使用する魔力の事……ですよね?」
「…………じゃあ大気中の魔素は何処から来てる?」
「魔力を含んだ植物や土地、後は魔獣や魔物達から発せられたものが大気に溶け込んでいると…………」
「ん?それだと卵が先か鶏が先かの理論になりますよね?大気中のものを動植物が吸っているけど、大気中のものは動植物から発せられているって」
「おめぇは勘が良いな。嬢ちゃんの言っている事は間違ってはいねぇ。だが、肝心な部分が抜け落ちているんだよ」
「肝心な部分ですか?」
「まぁ、それも村に着いたら分かるだろ」
結局、全ての疑問は村に着いてからになりそうですね。
魔法に魔素にこの世界の人間、ヒト族とそれ以外の関係やその他諸々、そもそもの世界の成り立ちとかも分かると良いんですが。
後一番は…………僕がこの世界に来た、呼ばれたその理由。
そんな事を考えながら歩いていると、見覚えのある景色が目の前に現れました。
「この湖…………。ゴルゾフさん、この湖の周りにダンジョンはありませんか?」
「あぁ゙!?ダンジョンだぁ?…………確か小さいのを含めれば幾つかあるな。それがどうした?」
「僕がこの世界に来て最初にこの森にいた事は話しましたよね?その時に湖の側にあるダンジョンに潜ったんですよ」
あの時、興味本位で潜ったダンジョン。
スライムともその時に出会ったんですよね。
「……どんなダンジョンだ?」
「盛り土みたいな所に入口があって、そこから階段で地下に降りました。降りた先は迷路みたいな洞窟でした」
「……って事は出てきた魔物はゴブリンか?」
「はい。一番大きい扉の先にはオークがいましたね」
「お、お前っ!?まともな武器も無いのにボスフロアに挑んだのか!?命知らずも甚だしいぞ!?」
「あの時は好奇心に負けてしまいまして…………」
「ゴーシィ様?そんな危険な事をされていたんですか?」
驚いて叱り付ける様に怒鳴るゴルゾフさん。
それと対照的に笑顔なのに凄く怖いオーラを放つフィズさん。
「フィズさん、そこは出会う前なので許して下さいね……?えっと、とりあえずあの時は右も左も分からない世界に……まぁ、今もですけど。兎も角、あの時は生きるのに必死なのと見る物全てが珍しくて……」
「それで?どうやってボス部屋から逃げたんだ?」
「倒しましたよ?」
「ん?」
「オークと周りのゴブリン全て倒しました」
「…………武器は?」
「手作りの石のナイフやゴブリンが持っていた物を簡単に研いだ剣とか……」
「攻撃魔術が使えるのか?」
魔術?ローゼンにあった本にはそんなもの無かったけど?
魔法とは違うんですかね?
「魔法じゃなくて魔術……?どちらにしろ僕は何も使えませんよ?」
「いや、おめぇは…………」
「はい?」
「いや、何でもねぇよ。無駄話している暇があったら足を動かせ」
はぐらかされましたね。
結局、何もかも村に着いてから。なんでしょうね。
その後、日が傾き始めた頃、遠くの方に僕達が目指している村らしきものが見え始めました。
本当に僕がいた所の真反対にあったんですね…………。
主人公が最初に選んだ道が違えばローゼンでは無くゴルゾフの村に着いていた未来もあり得ましたね。




