【番外編】ゴーシィ、知らぬところで想われる②
今話にてこの章は終了となります。
次話から新章突入です!
奴隷とは?
以前……時系列的にはこの後にはなるが、フィズがゴーシィもとい剛士の奴隷になった。
その際に借金奴隷・犯罪奴隷・戦争奴隷が主と話していたが、ローゼンでは例外もある。
それがクラリスが今し方宣言した【王族奴隷】だ。
では王族奴隷とは?
それはローゼン国の王家一族のみがある条件の下、直々に落とす事が出来る特例的な奴隷。
本来、王族もしくはローゼン国に対して反逆並びに不敬を働いた場合は問答無用で死罪となる。
だがしかし、例外的にその処罰を下す王家一族の者が罪人に対して恩赦を与え、死罪を免除する代わりに専属奴隷に落としてその身を預かる事が出来る。
扱いはその者に一任されるが、借金奴隷の様に衣食住が保証される代わりに犯罪奴隷と同じく全ての命令に一切の拒否権は持たず、命の危険が伴う場合に置いてもその命は遂行しなければならない。
それだけ聞けば救済措置とも取れるが、実のところ全く違う。
ほんの少し機嫌を損ねただけで、一度でも命令を拒否したり遂行出来なかっただけで、たったそれだけで王族奴隷としての身分すら失う。
王族奴隷の身分を剥奪された者は【堕人】と呼ばれ、ローゼン国内において一切の人権を保有出来なくなる。
つまり、ヒトとして認識されなくなる。
飲食も居住も衣服も、その一切を与えられず、全ての国民や親兄弟すらそれ等を与える事を禁じられ、家畜以下の扱いとなる。
堕人に暴力を振るおうが、強姦しようが罪に問われない。
話しかけても無視され、その者達に話しかける事も許されない。
今からそんな身分になる可能性のある王族奴隷へ落とされると言う宣言は絶望以外の何者でも無い。
「では……隊長、この方達に王族奴隷の焼き印を」
「はっ」
地下の一室に不必要と思われる竈。
そこに刺してあった鉄の棒を引き抜くと、その先には王家の紋章を象った鉄の板があった。
竈で熱されたそれは浅黒い鉄の色をしておらず、太陽の様に赤々としていた。
「お、お許し下さいっ!我々は決して王家の方々に仇なすつもりは―――」
カルミアの言葉が最後迄告げられる事は無く、焼き印を持った隊長が胸元へとそれを無慈悲に押し付け、その熱さと痛みにより部屋中に悲鳴が響き渡る。
その後、ミュール・ソルティにも同様に王族奴隷の烙印が押され、決して地上へと届かない声が部屋中に木霊した。
「これで三人は晴れて王族奴隷となりました。これからは私が貴女達の主となります。安心して下さい、私の命令に背かない限りは堕人に落としたりはしませんので」
痛みに悶え苦しむ三人に、機嫌を損ねたとしても堕人に落とさない笑顔で優しく語りかけるクラリス。
その笑顔には有無を言わさぬ圧が籠もっていた。
「くっ……はぁ……はぁ……。我々に……恩赦を与えて……いただき……誠に……感謝……致します…………」
痛みを何とか耐えつつ、息も切れ切れでカルミアは死罪にされなかった事に対して形式上感謝を述べる。
その言葉は受け取った上で、クラリスはこう告げる。
「私は上辺だけの敬意を払えとは言いません。貴女達に求める事は唯一つ、タケシ様を探し、この国へと連れて帰りなさい」
「で……ですが、あの方は既に…………」
「先程の言葉をもうお忘れですか?堕人に落とさない条件もして「私の命令に背かない限り」とハッキリ申し上げた筈ですが?」
「か…………畏まりました」
クラリスは決して笑顔を崩す事無く、先程よりも圧を強めた上でもう一度堕人に落とす条件を告げる。
その圧にカルミア含め三人共、それ以上何も言えずにいた。
「では、三人を解放しましょう。メイド長、彼女達に衣服と食事を用意して下さい。勿論、衣服に関しては王族奴隷印が見える物を」
「仰せのままに」
そう言ってメイド長は一礼をした後に部屋を出ていく。
手足を拘束されていた鎖を隊長に外され、身体の自由を得た三人だったが、拘束された時から持っていたある疑問をクラリスにぶつける。
「つかぬこ事をお聞きしますが…………カンパはどうなったのですか?」
「あぁ、彼女ですか?彼女でしたら―――丁度良いですね」
「「「…………っ!?」」」
メイド長とほぼ入れ替わる形で部屋に入ってきた人物に三人は目を見開いた。
「彼女は元々私の部下です。公にされていないので影……とでも言っておきましょうか。タケシ様のお世話係を決める際にタケシ様の護衛と貴女達を監視する為に潜り込ませて、逐一報告をさせておりました」
世話係として一緒に働いている時には最低限の仕事はするものの、剛士の目の前ですら堂々と昼寝をしてサボったりしていた彼女は、敢えて彼に興味を持っていない様に振る舞い、双方に付かず離れずな位置から護衛と監視の両方の任務を遂行していた。
「最初に申し上げた通り、貴方達の言動は全て把握しています。今後も彼女か……もしくは別の誰かが常に監視をしていると心得なさい。機嫌を損ねても、とは伝えましたが…………私にも我慢の限界がありますから」
つい先程迄崩す事の無かった笑顔は一瞬にして消え去り、最初に部屋に入ってきた時と同様……いや、それ以上の見ただけで凍える様な冷めきった表情と声色でそう告げる。
カルミア・ミュール・ソルティの三人にとっては正に死刑にも劣らない、残酷な仕打ちだと彼女達の表情から伝わってきていた…………。
一部の方々が望んでいた(かもしれない)クラリスによるメイド断罪のターン!
まだまだ甘いとお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが安心して下さい、これから彼女達は更なる地獄を味わいます。
そして、まさかのアホの子カンパが姫の密偵だったとは…………。
いや、知っていたんですけどね。




