【番外編】剛士、知らぬところで想われる
今話は王国sideのお話です。
第三者視点でお送りします。
なお、今話では中々ハードな描写がございますので、苦手な方はこの話の中盤以降もしくはこの話自体を読み飛ばして下さい。
読まなくても本編には影響は殆どありませんが、お読みいただければ主人公が頑張っていた裏側(大体オークを蹂躙していた時期)を知れるのでより一層この作品をお楽しみいただけると思います。
「―――。以上が今回のご報告となります」
「……分かりました。ありがとうございます、ゆっくり休んで下さい」
「はっ。失礼致します」
報告に来ていた兵士に笑顔で下がる様に伝え、見送った後に曇った表情をする部屋の主。
「はぁ…………。やはり邪魔してきましたか……」
「殿下、お茶をどうぞ」
「えぇ、ありがとう」
その部屋の主……クラリス=フォン=ローゼンは疲れた顔をしながら、傍らに控えていたお付きのメイドの長に礼を伝えて淹れたての紅茶を口にして心を落ち着かせようとする。
「王子殿下だけではありませぬ。陛下も流石に異世界人とは言え、たった一人の者にこれ以上騎士隊の人員を割く事を躊躇されたのでしょう」
「「お前一人の我儘に付き合わせる程騎士達は暇では無い」って事でしょう。しかし……」
「僭越ながら私もそこだけは陛下ぎ正しいかと。我々に無い知識、そして悔しいながら我々以上の武の持ち主ではありますが、たった一人の人間がこの国にとってそこ迄重要とはどうしても思えませぬ」
「そう……ですよね…………」
クラリスを挟む様にメイド長の反対側に控えていた騎士……隊長がそう告げる。
彼の言う通り、王族でも無いたった一人の人間が国をどうこう出来るとは到底思えない。
それでもクラリスは自らの騎士達や私兵以外にも国の騎士隊を使って剛士の探索に注力していた。
しかし、それももう限界。
とうとう騎士隊の助力は得られなくなり、これからは自分達のみで捜索を続けるか、諦めるかの二択になっている。
「確かに、あの方一人いないだけでどうにかなる程ローゼンは弱くありません。多分、これは私の我儘。二度も命を救われたあの方にきっと私は…………」
『恋をしてしまったのでしょう』
と二人にも聞こえない声でそう呟いた。
表立って言える筈も無い。
王位継承権は兄であるボルドーが優位だとしても王族は王族。
軽はずみな発言は問題しか生まないのを彼女は分かっているからだ。
「それよりも先ずはここの問題を解決しましょうか」
クラリスの言う「ここ」とは今居る屋敷の事だった。
その屋敷とは陛下から剛士が与えられ、短い期間ではあったがこの国で暮らしていた場所。
陛下に頼んで別邸という形で屋敷を譲り受けたクラリスは、剛士がいなくなってからこちらで暮らしていた。
そしてその屋敷にある問題とは?
正確には屋敷にいた人物達の問題だった。
「では向かいましょうか」
そう言ってクラリスは椅子から立ち上がり、部屋を出て真っ直ぐと目的の場所に歩みを進めていった。
そこは薄暗い石造りの部屋。
屋敷のとある場所に隠された入り口から階段を降りれば辿り着く剛士も入った事が無い部屋だった。
なお、入った事は無かったがほんの少しの風の動きからその存在自体は把握出来ていた場所(自分には関係無いとスルーしていたが、念の為警戒は常にしていた)。
石造りの為か、クラリスと供の二人が階段を下る足音が響き渡る。
鉄製の大きな扉を開くとそこには―――
「皆さん、反省しましたか?仕えるべき主に快適な暮らしを提供する筈の従者が寧ろ針の筵に座らせる様な愚行を行った罪を」
普段のクラリスからは想像も出来ない様な低い冷たい声色とまるで汚物を見る様な軽蔑の眼差し。
それを向けられた三人は見覚えのある者達だった。
「く……クラリス殿下……。私……我々は決してその様な事は……」
「そ、そうです。全て陛下の言い付け通りに……」
「…………」
それは剛士の身の回りの世話を任されていたカルミア・ソルティ・ミュールだった。
三人共衣服の一切を身に着けておらず、生まれた姿のまま手を天井から繋がる鎖に、足を壁から繋がる鎖に繋がれている。
体に傷等は見られないが、繋がれてから其れ等の鎖が外された事が無いのか排泄物が足元に広がっており、その体勢ではまともに寝れないのも相俟って憔悴していた。
「既に三日も経ったのにまだそんな事を言っているのですね。そこらの動物の様に何も纏わず、汚物を垂れ流しておきながら。まだヒトとしての尊厳を保てているとお思いで?」
「お言葉ですが殿下。報告や合間でご覧になっていた通り、我々はタケシ様のお世話をしっかりと熟し、要望があればその通りに……」
「そのメイドの主への態度、そして施しを受けたのもあの御方の要望だったと?」
「そ……れは…………」
「まぁ、最低限の常識はあったみたいですがね」
カルミアとミュールの会話を聞いた上で剛士は決して少なく無い額をミュールが育った孤児院へと寄付する目的で彼女へと渡した。
そのお金を彼女は持ち逃げする事は無く、孤児院に渡している。
それもクラリスは自分の部下を使って調べ上げていた。
「貴女達はタケシ様の気持ちを一切考えず、あったのは陛下達の命に従う事と自分達の利益だけ。遠い異国どころか全く別の世界から来たタケシ様は心底孤独を感じた事でしょう。フィズ……彼女だけは違った様ですが…………」
剛士が蟻の巣の駆除に向かう際、身の回りのお世話の為に率先して付いていったフィズ。
せめてそれだけでも彼の心を癒してくれたとクラリスは思いたかった。
「貴女達の処遇は私に一任されています。その権限により、この場で貴女達を【王族奴隷】へと落とします」
王族奴隷。
クラリスが告げたその言葉は、老若男女問わず国中に知られており、この国で生きる民草にとっては死罪よりも遥かに重い宣言だった。
思ったより長くなってしまい、当初一話のみの予定でしたが、もう少し続きます。




