ゴーシィ、出口へ近付いているの感じる〜異世界生活七十七・七十八日目③〜
熱が届かない距離迄何とか速度を維持して走り続けていましたがそろそろゴルゾフさんも限界、周りに気配は感じないので手頃な場所を見つけて休憩を取る事になりました。
「ゴーシィ様は無茶し過ぎです!」
「すみません、他に良い手段が思い付かなくて……」
「まぁまぁ、嬢ちゃん。実際ゴーシィがやらなきゃ、こうしてゆっくりと休む暇も無かったんだ。勘弁してやれ」
「むぅ……。だけどもうあんな無茶しないで下さいね!」
「…………善処します」
「ほら、またそうやって!もぅ!」
心配しながら怒ってくれるフィズさんが手当を買って出てくれましたが、布を外すと既に傷口は塞がりつつあり、それを見た二人が驚いたのはまた別の話。
今回は少し長めの休憩でしたが、問題無く―――
「もう大丈夫ですかね?」
「あぁ゙!?あれだけ派手に燃えりゃ、大丈夫だろ」
うん、またフラグ立てやがりましたよ、この二人。
正に「やったか……?」と同じかそれ以上にヤバい台詞を言い放ちながら穏やかな談笑をしています。
「しかしあれだ、何とかゴーシィのお陰で今日予定していた分の殆どを移動出来たな。ここからはどうする?このまま少しでも距離を稼ぐか?」
「それが良いと思います。出来れば一息で出口を目指せる距離迄進みたいですが…………」
「流石にそれは難しいな。いくら速いとは言え、これだけ荷物を抱えている状態だ。普通だと行きは三日帰り、はその倍で計算してるってのは話したよな?今の速度を考えても後三日日……いや、二日日は必要だな」
本来、帰りが六日掛かると考えれば、荷車五台分を二人で引いて五日なら相当な速度でしょう。
勿論、かなりの無理をしている状況ですので、これを維持出来るかは怪しいですが……。
「では、ここで長めの休憩を取ってもう少し距離を稼ぎましょう。あそこにいたブラッドスライムはある程度殲滅出来たとは言え、全滅しているかは怪しいですし、新しい個体が集まればまた同じ事になりますから」
「だな。とりあえずここで準備をしっかりしておくか。ゴーシィ、残りのランタンの油は渡しておく。出てから夜に必要な分は少し残してあるから遠慮せずに使え」
「ありがとうございます。それと何か鈍器になりそうな物はありますか?出来れば大きい方が良いんですが……」
「あぁ゙!?鍛冶用の金槌はあるが、これは渡す訳にはいかねぇこらな……。しょうがねぇ、ちょっと時間が掛かるが造るか」
「いえ、そこ迄しなくても大丈夫ですよ。あれば、と思っただけなので。身体を休めて下さい」
「馬鹿野郎、ドワーフは鍛冶している時と酒を飲んでいる時が一番休めるんだよ!」
いや、酒は兎も角鍛冶は絶対休まらないでしょ…………。
それでもあればかなり助かるので、本人のやる気も相俟って好意に甘える事にしましょう。
「ほら、出来たぞ。突貫にしては先ず先ずだ」
渡されたのは僕の身の丈より少し短い位のウォーハンマー。
鎚部分は幅広く、逆のツルハシ側は短めでした。
持ち手部分も金属なので相応の重量が有りますが、振り回せない程ではありません。
むしろこれ位は重くないとウォーハンマーとして落第点でしょう。
「ありがとうございます」
「何に使うかは聞かねぇけどよ……。あんま嬢ちゃんを心配させんじゃねぇぞ」
「ははぁ……善処します……」
小声で言われた台詞を考うるに、多分これの使い道はバレているでしょうね。
明らかに何かを叩き潰す為に使う、その用途を考えて通常より鎚部分の面積が大きく造られていると思われますし。
「ほらそろそろ出発するぞ。距離よりも疲労を少しでも溜めない速さで進む」
ゴルゾフさんの指示に従い、僕とフィズさんも彼の後に続きました。
入口に少しずつ近付いているせいなのか、道幅が徐々に狭くなっていき、道の四割を川が占めている状況。
それに伴い、砂利部分の面積も増えてきており、荷車二台が並べられない程しかありません。
「ここからは脱輪し易くなるからな。気を付けて進めよ」
「この様子だと休憩する場所が難しそうですね……」
「心配すんな、もう少し進むと開けた場所がある。そこ迄行けば休めるからもう一踏ん張りだ」
ゴルゾフさんから「開けた場所がある」と言われましたが、何となくゴルゾフさんが壁ぶち抜いて造った気がします。
聞きはしませんが……。
脱輪しない様に注意しつつ、全方位を警戒しながら進みます。
緩やかな登り坂になっているせいか、速度は少しずつ落ちており、荷車を引くのにもこれまでより力を入れなければなりません。
こんな状況で魔物の襲撃があれば一溜りも無い。と考えていましたがそんな事は無く、ゴルゾフさんが言っていた場所に到着しました。
予想通り、道の横の壁を無理矢理削り取った様な場所で、荷車五台を並べてもまだ十分なスペースがありました。
そこでフィズさんが簡単でありながら美味しいスープを作ってくれたので、パンと一緒にいただきます。
遮る物が無いので匂いに釣られてやってくる魔物がいそうな気がしますが、それもありません。
念の為フィズさんが座る時は地面では無く荷車の上に。
お腹も落ち着いたところで、仮眠を取る事になりました。
僕に関しては寝ていても何か気配を感じれば飛び起きられるので、二人からの勧めにより基本的に仮眠を取り続け、最初は疲労を加味してゴルゾフさんが長めの仮眠を、その後にフィズさんが少し短めの仮眠を取る事になりました。
一悶着有りましたけど、どうにか二日目が終わりました。
感覚的には一日目と二日目が曖昧ですが……。
予定では残り三日。
このまま何も無ければ良いですが…………。
今回、物語の内容的に日にちの境目が曖昧だったので、七十七・七十八日目とさせていただいてきました。
次からはまた一日毎ですが、今後もちょこ日を跨ぐ場合はこの表現や以前もあった少し飛んどりする事もあると思います。




