ゴーシィ、家紋と覚悟を決め、漢になる〜異世界生活七十二日目〜
最後、ほんの少しをソッチ方面を匂わせる会話がありますので、苦手な方はお気を付け下さい。
「おい。おめぇ、家紋はねぇのか?」
「……はい?」
朝食を取っているといきなりゴルゾフさんからそんな事を言われました。
「家紋も何も僕は名字があっても貴族ではありませんからね」
「おめぇらの世界には無かったのか?」
「うちの家のなんて覚えて無…………くは無いですね、家紋とは少し違いますが……」
「あぁ゙!?あるんじゃねぇか。さっさと教えろ」
僕の母方、正確には無明には家紋では無いが秘密の文書をやり取りする際に使われる印がありました。
我が家の家紋は覚えていないですが、そちらは使う機会もあったのではっきりと覚えています。
しかし、それを地面に石で書いて見せるとゴルゾフさんは怪訝な表情をしました。
「何でぇ、こりゃ。折角の月が雲で半分近く隠れてるじゃねぇか」
そう、無明の印は三日月(下弦の月)の下半分を雲が隠しているデザインで、【雲隠れ】や【朧】と呼ばれていました。
正確な朧は少し違いますが、そう呼ばれているので僕にはどうしようもありません。
「まぁこれで良いか」
「ん?何がですか?」
「奴隷の首輪に付けるんだよ。本来なら所有者の家紋を入れるが、ねぇならしょうがねぇ。こいつを刻んでおめぇの物だと証明できる様にするしかねぇ。おめぇと……嬢ちゃん!少しこっちに来てくれ」
そう言って僕の手首とフィズさんの首を測り、さっさと自分の小屋に戻ってしまいました。
残された僕とフィズさんは顔を見合わせ苦笑いを浮かべる事しか出来ませんでした。
その日の夕方、渡されたのは首輪と言うより革のチョーカーと呼んだ方がしっくりくる物でした。
「ほら、こいつを着けとけ。お嬢ちゃんは首に、金属部分が前に来るようにな。ゴーシィは革を二重に巻いて手の甲側に金属が来るようにしておけよ」
「ありがとうございます」
「はぇ〜凄く綺麗な色ですね〜」
「そりゃミスリル使ってるからな」
「「み、ミスリルっ!?」」
驚き過ぎて思わず落としそうになりました。
フィズさんも首に着けるのを躊躇っています。
それもその筈、ファンタジーの王道であるミスリルはこの世界でも勿論かなりの希少金属ですから。
あちらの世界で金1gが大体1万円と少し、下手すればもう少し高めだった気がします。
それに対してミスリルを日本円に換算すると1g10万はした筈。
首輪とブレスレットにある量はそれ程では無いにしろ、買うとなると百万は下らなさそうです。
「……これ、ミスリルに刻印して月の縁を金、雲の縁を銀で……とか?ここまで精巧に造ってもらわなくても……」
「あぁ゙!?当たり前だろ、造った物は儂の子どもと同等だ!妥協なんか出来るか!文句を言わず身に着けておけ!」
文句じゃなくて恐れ多いんです。
でも、造ってもった物を断る訳にはいかないので、有り難く受け取っておきましょう……うん、サイズ感もバッチリ。
某高級時計とか着けてる人ってこんな気分なんですかね?
「こんな良い物を着けていたらあまり動きたくありませんね……」
「分かります……。戦闘中に千切ったりしたらとか考えちゃいます…………」
「あぁ゙!?んなもん直しゃ良いだろ。その革も急造で鞣したオークキングの革だからな。箔を付けたきゃ地上に出てワイバーンでも狩るこった」
「だからこれ以上価値上げてどうするんですか…………」
オークキングの革にミスリルを取り付け、金と銀の装飾を施した刻印。
明らかに貴族でも喉から手が何本も出る程欲しい代物なのはこちらの人間では無い僕でも分かりました。
「ゴルゾフさん、ありがとうございます。大事にしますね」
「……ふんっ!何かあったらいつでも言え!気が向いたら聞いてやるよ!」
いや、だからドワーフのおじさんのツンデレは需要が…………。
と心の中でツッコミつつも、ひたすらに感謝しかありませんでした。
そんなこんながあってその日の夜―――
「…………フィズさん?何でここにいるんですか?しかもそんな格好で……」
「嫌でしたか?」
「嫌か嫌じゃ無いかで言えば全力で「ありがとうございます」って感じですが…………」
「なら良いじゃないですか」
「良くは無いんじゃないですか?」
「そうですか?」
「そうですよ」
ブラッドスライムを見た日、オークの皮が大量に手に入ったので、僕とフィズさんは一人一つのテント……こちらでは天幕か、ともかく別々で寝ていました。
様々なトラブルに備えた上で、直ぐに採掘が出来る様にゴルゾフさんが入口から考えて一番の元々建てていた小屋、魔物の侵入等に対処する為に入口側が僕、その中間より入口よりにフィズさんの天幕を入っていました。
それなのに、何故か今、僕の天幕にフィズさんがいました。
しかも生まれたままの姿で僕に馬乗りになっています。
え?気付かなかったのかって?
…………黙秘権を発動します。
そんな状態での会話が先程の会話です。
「僕はこんな事をしてもらう為にフィズさんを奴隷にした訳じゃありませんよ?」
「嫌ですか?」
「嫌か嫌じゃ無いか…………ってこの会話さっきもしましたよね?」
「てへっ」
いや、可愛いかよっ!
…………じゃなくて!
「ともかく。こんな事してもらわなくても僕はフィズさんをお守りしますから」
「ゴーシィ様……いえ、この場ではタケシ様と呼ばせていただきますね。タケシ様、貴方は一つ勘違いしています」
「勘違い……ですか?」
「はい、そうです。私は奴隷になったから、守ってほしいから……そんな理由でここにいるんではありません」
「え?ではどんな理由ですか?」
「貴方が…………好きだからです…………」
真っ赤な顔を隠す様に顔を背けながらそう告げるフィズさん。
横を向いた事で覗いている耳迄赤い。
そんな事を言われたからには邪険に出来る筈もありません。
それに…………その一言で反応している奴もいますし……。
僕は恥ずかしがるフィズさんの顔に手を添えつつ引き寄せて、半ば強引に唇を奪いました。
彼女は驚きつつも、それを受け入れてくれます。
据え膳食わぬは男の恥。
これを言った人を今日程尊敬した日はありませんでした…………。
尚、僕が右も左も分からないので終始リードされっぱなしだった模様。
主人公……とうとう大人の漢になりました…………。
魔法使いを無事回避です。
主人公がフィズの接近に気付かない筈がありませんよね。
むしろ期待して待っ「やめろぉぉぉ!言うなぁぁぁ!」




