ゴーシィ、初の奴隷を手に入れる〜異世界生活七十一日③〜
久々に主人公が感情を読み取った文章があります。
念の為ですが、「」の台詞の後に空白や改行を挟まず()で書いてある部分がそれです。
完全に読心している訳では無いのですが、長年の経験と洞察力からほぼほぼ間違いはありません。
「私を奴隷にして下さい!」
「…………え?」
フィズさんの核爆弾級の発言に言葉を失ってしまいました。
え?奴隷?何を言ってるんですか、この娘は?
今の話の流れでどうしてそうなるのか理由が分かりません。
助け舟を出してもらおうとゴルゾフさんを見ると、フィズさんを見て頷いていました。
え?今の発言に頷くところありました?
何でさも「それが良い」みたいな表情をしてるんですか?
意味が汲み取れず、二人を交互に見ているとゴルゾフさんは呆れた様な、フィズさんは「そうか!」みたいな顔をしてこちらを見てるし……。
「おめぇ、頭良いくせに分からねぇのか?」
「ゴルゾフ様、ゴーシィ様はこの世界の方では無いので私が色々省き過ぎたんだと思います」
「それもそうか……」
僕だけ仲間外れですか?
二人は分かっているっぽいですし…………。
「いきなり申し訳ありません、ゴーシィ様。詳しく説明しますね」
「あ、はい。お願いします」
フィズさんの提案はこうでした。
先程話していた通り、ドワーフと一部の種族以外は基本的にヒト族を毛嫌い……どころか嫌悪感を持っています。
あちらの世界で言う、人が黒い彗星のGを見た時と同様の拒絶反応。
その為、彼女がその場所に身を寄せる事は殺意の中に身を投じる事と同義、何をされるか分かったもんじゃありません。
ならばいっその事、異世界人である僕の奴隷……つまり所有物とすれば、肩身は狭いかもしれないが、少なくとも何かをされる心配が減る。
無くなる。じゃなくて減る。って辺りが確執を物語っていますけれども。
だからこその「奴隷にしてください」発言らしい。
「…………成る程。理由は分かりました。が…………良いんですか?」
「……と、申しますと?」
「いえ、僕なんかの奴隷になってしまって……」
元々フィズさんは国王陛下に命じられて僕の専属メイドをやっていただけ。
運悪く蟻の駆除に同伴させられただけであり、自ら志願して付いてきた訳ではありません。
それなのに奴隷になってまで、僕に付いてきてわざわざ針の筵に踏み込まなくても……と考えてしまいます。
「勿論です。最初は陛下に命じられただけですが、ゴーシィ様と接していく内に貴方の内面を知りました。今回の件も私は立候補して同行させていただきました。それに、言っていただいたじゃないですか……「一蓮托生」だと…………」(私を連れていって下さい!一生付いていきます!)
「あ、えっと……それはそうなんですし、有り難い事この上無いんですが…………」
僕の考えを知ってか知らずか見事に論破されました。
フィズさんの感情に嘘はありません。
ここまでストレートに好意……に近い感情をぶつけられた事が無いので、ドギマギしてしまいます。
「熱いなぁ、おめぇら。今ならその熱で鉄が打てそうだ」
「ちょっと!?ゴルゾフさん!?」
「嬢ちゃんにここまで言わせたんだ。おめぇは男だろ?責任取りやがれ」
「…………分かってますよ」
ここで答えないのは男じゃないですよね。
まだ自分を漢と呼ぶ自信はありませんが、それでも決める時は決めなければいけませんね。
「フィズさん……いやフィズ」
「っ!?はいっ!」
「貴女……君をぼ、僕……違う、俺の奴隷にす、する!お、俺のモノになれ!」
「はい!私は今この時より、あなたの奴隷です!」
僕は慣れない口調に戸惑いつつも全てを言い切り、フィズさんはそんな僕を見ても笑顔で頷いてくれた。
「…………良い雰囲気のところわりぃがゴーシィ。おめぇもう少しビシッと決められねぇのか?」
「…………やめてください。ただでさえ恥ずかしさで死にたくなってるんですよ、僕」
「そうですよゴルゾフ様。ゴーシィ様は精一杯頑張ってくれたんですから」
「フィズさん、精一杯頑張ったってフレーズは今の僕にはトドメにしかなりませんよ?」
「あ、あ、違うんです!決してそんなつもりじゃっ!」
「本当に主人と奴隷になれるのかよ、おめぇらはっ!」
恥ずかしさと情けなさで下を向いて落ち込む僕。
そんな僕を必死に慰めようと更に心を抉ってくるフィズさん。
そんな二人を見て大笑いすふゴルゾフさん。
う〜ん、正にカオス!!
少し経って僕は何とか立ち直り、改めて奴隷について話しをきいていました。
一頻り笑ったゴルゾフさんは「じゃあ儂は採掘に戻る」と言ってさっさと行ってしまいました。
自由かよ……。
「奴隷って言ってもこんな軽い感じで決めて良いんですか?」
「本来、一方的に奴隷とする場合は特定の条件化以外では許されません。しかし、今回は特例ですね。互いに望んでいるのであれば問題ありませんよ」
「特定の条件?」
借りていた本の中には奴隷に関する物もありましたが、あまり自分には関係無く、尚且つあまり気持ちの良いものでも無いので、後回しにしていました。
なのでローゼンはおろか、この世界の奴隷制度は全く知りません。
その事を伝えると、フィズさんが説明をしてくれました。
「ローゼンでは奴隷は大きく分けて、借金奴隷・犯罪奴隷・戦争奴隷の主に三種類があります。犯罪奴隷は読んで字の如く犯罪を犯した者が罰として落とされる奴隷ですね」
「借金奴隷は借金を返さなくなったからその代わりとして身を売るって事ですか?」
「その通りです。本人で無くてもその家族でも可能です。家族がいるのであれば奥さんや女の子の子どもが高額になりやすいですね。その……気持ちの良い話ではありませんが……」
所謂性奴隷とか奉仕奴隷ってやつでしょう。
自分で借金して妻や娘を売るなんてあちらの倫理観では考えられませんが、そこはお国柄……いや世界柄ってところでしょう。
「悪い部分を話しましたが、借金奴隷には良い部分もあります」
「奴隷に良い部分ですか?」
「はい。生活が出来ずに死ぬ未来しか無い場合、自ら奴隷となり、身の安全を保証してもらえますから。一応、借金奴隷に関しては最低限の人権が守られます。勿論、買い手次第なところもあるので確実ではありませんが…………」
そこら辺はよくある物語の奴隷とは少し違うみたいですね。
「その二つは分かりました。戦争奴隷と言うのは?」
「戦争奴隷は主な三つの中でも少し特殊な奴隷です。国同士もしくは貴族同士の戦争で負けた場合に敗者側が落とされる可能性がある奴隷になります」
「捕虜……みたいなものですか?」
「近いですが扱いが違います。捕虜はあくまで所有権は無く、捕まえた敵兵。戦争奴隷は身代金が払われなかった場合や首謀者やそれに近しい者が罰として落とされるものです。簡単に言えば戦争でのみ落とされる犯罪奴隷みたいな者ですね。場合によっては死刑より苦しむ羽目になります」
「まぁ……何となく分かります…………」
攻め込んできた敵を奴隷なんかにしたら、そりゃ好き放題してしまいますよね。
死ぬより苦しいのは致し方無い……とは言い切れませんが、どうしようも無いでしょう。
「先程から「主な」って強調していますが、それ以外にも一応あるんですか?」
「はい。本来奴隷として認められない違法奴隷、国が滅んで奴隷になるしかない特殊奴隷が当てはまります。特殊奴隷は身分がある程度高くないと借金奴隷となりますので、本当に極僅かですね」
成る程、奴隷と一括りにしていましたが、色んな種類があり、それによって救われる人達も少なからずいるんですね。
本当に人権保証が成されていないこの世界特有の文化なんでしょう。
それからも、僕が気になる点や知らない事をフィズさんへと投げ、彼女は嫌な顔一つせず知りうる限り教えてくれる。
形式上、主人と奴隷にも関わらず、まるで生徒と先生の様に立場が逆転した状態で一日が終わっていきました。
主人公に春が来たっ!?(18ページ振り二度目の台詞)




