剛士、今度は洞窟でサバイバル〜異世界生活六十八日目〜
第三章スタートです!
洞窟から更に深い場所にある地下渓谷に落下した僕達は、運良くそこを流れる川に落ち、生還を果たしました。
しかし、フィズさんを抱えて川を泳ぎ、岸に上がる為に武器も防具も全て外してしまったので、あるのは今来ている服のみ。
正確に言えば、現在乾かしている最中なので実質的にこの身だけ。
命を落とさない為とは言え、生まれて初めて裸体の女性を肌を重ねて眠りに就きました。
勿論、変な事をした訳ではありません。
ただ体温を保つ為です、誓って欲情とかは…………ごめんなさい、少しだけしました。
でも理性は最後まで頑張りましたからね!?
そんな訳で僕達は今、昨日造った簡易拠点を出て、まだ少し湿っていた服を着て渓谷を探索中です。
「っ!?」
「あっ…………」
はい、只今とても気まずい状況です……。
命を落とさない為とは言え、裸の男女が抱き合って眠りました。
そこまではまだ良かったんです。
問題は目を覚ましてから。
昨日組んだ石を撤去して外に河原に出た僕は油断をしていました。
縮こまっています寝ていたので外に出て体を出て伸ばしていたのですが、それをフィズさんに見られたんです。
見られただけならまだ良い。
僕の僕は寝起きの生理現象(以外の要因も少し有りましたが……)よろしくとてもお元気でした。
それを彼女に見られ、お互いに顔を真っ赤にして慌てて服を着て、その話を忘れる為にも探索に出たんですが先程から目を合わせる度にこの調子……。
いや、僕が悪いんですよ?
でも謝り方が分かりません。
「朝から元気ですみません」って言ってもますます気まずくなる未来しか見えない。
女性慣れしている人ならもっと上手く言えたんでしょうけどねぇ……。
あぁ、悲しい。
と、落ち込んでるばかりではいられないので、気まずいながらもしっかり渓谷を探索します。
先ずは水の確保。
川が流れており、水はとても澄んでいたのですが、一口口に含むとこの水はとてもじゃありませんが飲む事は出来ませんでした。
僕は毒に強い方ですがこの水、綺麗に見えて鉱物から排出される毒が流れ出ていますね。
鉱毒……とは少し違いますが、便宜上鉱毒と言っときましょうか。
それに汚染されてしまっているので、とてもじゃありませんが飲めません。
その為、飲水を探すのが目的です。
「こちらの川も駄目ですか……。水も食料も無いとか本格的に詰みじゃないですか……」
隣にいるフィズさんに言う訳でも無く独りごちる。
森と違い水も無く、火を熾すにも木がありません。
動物も蝙蝠を時折見掛けますが、こちらに近寄って来る事は無く、渓谷の天井で眠っているか頭上遥か上を飛んでいる程度。
これは、本当に拙いですね…………。
「…………ん?」
「ふぇっ!?どうかされました!?」
顎に手を当てて考え込んでいた僕が急に動き出したもんだから、フィズさんは可愛い声を上げていました。
しかしそれどころでは有りません。
「しっ。静かに。物音が聞こえます……」
「物音ですか……?蝙蝠とか川の音では無く?」
僕に従って小声で尋ねてくるフィズさん。
首を少し傾げながらとか一々可愛いな、もう!
「いえ、微かですが金属が何かにぶつかる音です。採掘してるんでしょうか?それにしたってこんな所に人がいるなんて……」
「ヒト……何ですかね?」
ん?会話しているのに何かすれ違ってる気がする…………。
あぁ、そうか。
「すみません、紛らわしかったですね。ヒト族では無く、人間って意味です」
「あ、成る程。私こそ察せず、申し訳ございません」
あちらの世界と違って肌の色の違いなんて可愛く思える程、多種多様な人種が存在するこの世界。
人と言えばヒト族の意味であり、所謂僕達の様な人間の事。
しかし、人間の意味は少し異なります。
こちらの世界の人間は、人間の特徴に加えて様々な動物の特徴が見られる全て、つまり獣人や亜人と呼ばれる全てを含まれます。
今の齟齬は正にその常識の違いで起こった事でした。
「それはさておき、どうしましょうか?」
「どうする……とは?」
「採掘している人間がいる可能性があります。その方に対して接触すべきか否か……」
「接触するべきでは無いですか?」
フィズさんはそう答えるが、実に悩ましい問題です。
現在の僕等は着の身着のままの状態であり、武器や防具は持っていない。
友好的な人物なら良いがそうでなかった場合、最悪戦闘になる可能性があります。
そうなった時に一人ならまだどうにかなるかもしれませんが、武器も何も無い状態に加えて、彼女を守りながら戦わなければなりません。
多分一人だと思いますが、詳しい人数は不明で、相手の実力も分からない状況。
安易に接触を図って良いものなのでしょうか…………。
そんな僕の考えようをお見通しなのか、フィズさんはこう付け加えます。
「どちらにしろ、このままいけば飢えて死ぬばかりです。一か八かに賭けてみませんか?」
「…………そうですね。何かあった際は―――」
「一蓮托生ってやつなんですよね?一緒に死にましょう」
僕が逃げろと言う前に言われてしまいました。
彼女の決心は固いみたいです。
「はぁ……。分かりました。でも決して無茶はしないで下さいね」
「大丈夫です。タケシ様が守ってくれるんでしょう?」
そう言って自身の腕を僕の腕に絡ませ、抱える様に体を寄せてきました。
振り解くのも失礼……振り解きたくない感触なので、恥ずかしさを誤魔化すべく、小声である提案をしつつ、音の主の下へと向かう事にしました。
フィズさんに壺を勧められたら僕、多分買います。
本来鉱毒とは、鉱物の採掘や精錬に伴って排出(亜鉛・銅・ヒ素・鉛等)される殆ど人災ですが、今回主人公は鉱物から自然に溶け出して流れる毒を鉱毒と言っています。




