剛士、意を決する〜異世界生活六十七日目③〜
幾つかの分かれ道を通り過ぎ、入口まで残り半分と言った所でしょうか?
接敵する回数も一回辺りの頭数も増えだし、本格的に追い付かれ始めた様です。
このままじゃ全員死ぬ。
せめてフィズさんだけでも逃さなければ。
「フィズさ―――」
「タケシ様?口を動かす暇があるのであれば手を動かして下さい。それに、私はタケシ様を置いて逃げたりしませんから」
「あっ、はい」
気持ち良い位の即答、即却下。
…………分かりました、分かりましたよ。
やりますよ、やってやりますよ。
「……フィズさん、命令します」
「逃げろとか言ったらとりあえずタケシ様に有りたっけのクロスボウの矢を撃ち込みますからね?」
いや、怖すぎるんだが?
こんな状況でもそんな冗談を言ってくれるのは本当に助かります。
…………冗談ですよね?
「今更そんな事は言いませんよ」
「じゃあ何ですか?」
「今から足を止めて奴等を足止めします。だから……その…………」
しまった。
こんな時、交際経験の無い童貞はどう言えば良いか分かりません。
女性に刺さる一言を―――
「分かりました。タケシ様と私は一蓮托生。生きるも死ぬも一緒。何処までもお供させていただきます」
先に言われちゃいましたよ!?
何ですか、その同性から言われても惚れてしまうカッコいい台詞は!?
ぐぬぬ……これが経験の差か…………。
そんなやり取りをしている間にも蟻達の数は増え続けています。
これは、覚悟する必要がありますね。
王子の思惑にまんまと乗ってしまったのも癪ですが、それでもやるしかありません。
「フィズさん、昨日と同じく零した奴等を対処して下さい。僕はこのまま……押し返します」
僕はフィズさんにそう伝え、こめかみを指でトンと叩く。
「《童ノ戯レ》」
先ずは《童ノ戯レ》を使い、向かってくる蟻達を全力で斬り飛ばしていきます。
後退しながらだと数が疎らになってしまい、効率が下がると考え敢えて死地に向かい少しずつ前進、一振りで纏めて数匹の息の根を止めていきます。
合間で後ろに視線を向け、フィズさんが付いてきているのを確認。
最低限の弾数で討ち漏らしを処理してくれています。
僕は安心して前を向き、一心不乱に剣を振り続けました。
どれ位経ったのでしょう?
数分にも思えますし、何時間も経った気もします。
昨日の数十倍の数を斬り伏せ、剣が斬れなくなってきたらメイスも使って叩き潰し続けました。
《童ノ戯レ》を使っていても疲労を色濃く感じた頃、蟻達は出てこなくなりました。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ…………」
息が完全に上がってしまい、フィズさんに声を掛けようにも話す事が出来ません。
気配は感じるので生きていそうですが、怪我をしてないでしょうか?
「タケシ様!終わったんでしょうか?今の内にお水をどうぞ」
テレパシーかと思う位のタイミングでフィズさんの方から声を掛けてくれました。
フィズさんから差し出された水筒で喉を潤し、呼吸を整えます。
少し落ち着いたので、彼女の質問に返答します。
「終わった……訳では無いでしょうが、取り敢えず第一波は終了でしょう。最奥で見た限り、これで全部とは到底思えませんからね」
「では私達も退却しますか?」
「そうですね。がむしゃらでよく分からないんですが、今どれ位まで奥進んできました?」
「そうですね……。分かれ道三つ分は進んだと思いますので、半分より奥、入口から五分の三程度の場所でしょうか?」
「それだとまだ退却出来そうですね。それよりも…………松明ガ消えて分かりましたが、洞窟内も何とか見えますね」
「外から入った時は目が慣れておらず分かりませんでしたが、ここの壁や天井にも光苔が自生しているみたいですね。お陰でタケシ様を見失わずに済ました」
外から中へ飛び込み、直ぐに松明を見付けて火を灯した僕達は気付かなかったのですが、光苔は洞窟内もぼんやり照らしてくれていました。
見えると言ってもカーテンを閉め、電気を消した部屋の中程度ですが、贅沢は言ってられません。
「一度休息を取りますか?」
「いえ、このまま行きましょう。あわよくば騎士隊に追いつけるかもしれません」
「承知しました」
僕とフィズさんは疲れた体に鞭を打って、出口まで向かう事にしました。
先程までと打って変わって出口迄の道中は静かなもの。
悪夢を見ていて目が覚めただけなのかと錯覚する程でした。
まぁ、身体の疲労感にボロボロ武器、体中に纏わりついている蟻達の体液でそんな事は無いと一瞬で現実に引き戻されてしまいますが……。
「ここから出られたら先ずは身体を清めたいですね」
「それに温かいご飯が食べたいです」
フィズさんも張り詰めていたものが緩んだのか、落ち着いた表情で、てさここから出た後の事を考えていました。
その時は気付いていませんでした。
自分でバッチリ死亡フラグを立ててしまった事に。
そして、そのフラグを即座に回収する様に悲劇が襲い掛かりました。
フラグ建設と思う辺り、主人公はオタク脳。




