剛士、殿を務める〜異世界生活六十七日目②〜
第五騎士隊の方達と無事合流した後、互いの現状を確認、どう動くかを決める事になりました。
「タイシ達と見てきたのだろう?あの奥は正に地獄絵図と言って良い状態だ。我々と二人が協力してもあの場所を踏破するのは不可能だろう」
「そうですね……。あの広い空間で上下左右関係無く襲われると対処出来ないかと」
「故に一度このまま撤退し王国に現状を報告、今後についてどうするかはまた指示があると思われる」
やはり第五騎士隊はアレを見て撤退を決めていたみたいでした。
騎士隊全員でここに赴いたにも関わらず、顔見知りはオーガスト副騎士長含めて数人しかいないに加えて明らかに人数が少ないのは多分そういう事でしょう。
ここにいるメンバーもよく見れば負傷していたり鎧に傷が付いていたり装備が破損してしまっていて、とてもじゃないが継戦は困難でしょう。
「分かりました。では僕が殿を務めますので、当初の予定通り撤退を」
「待て。タケシは救援に来てくれたとは言え国賓だ。国にとって重要な者に一番危険な場を任せる事は出来ん」
メイ騎士長は僕の身を案じてくれました。
その言葉に嘘偽りは無いでしょう。
「ですが、皆さんには疲労が見られます。それに少なからず負傷していたり、装備にガタが来ている方も多い。それにメイ騎士長……左腕、動かすのも辛いでしょう?」
「っ!?」
僕の目は節穴ではありません。
最初に言葉を交わした時に自然に振る舞ってはいましたが、左腕を庇う様な仕草をしていました。
「良くない言い方ではありますが騎士としての務めを果たせない方に殿という重要な役目を任せる訳にはいきません。無理を押してやって残ってる騎士全員を命の危機に晒すおつもりですか?」
「それは…………」
「…………チャルド、お前の負けだ。全面的にタケシが言う事が正しい。殿は最も危険だが最も重要だ。それこそその一人で隊全員の生死が左右される程な」
「それは……分かっている…………」
「分かっているならどうするべきか分かるだろう?」
「しかし……私は……隊を率いる長として―――」
メイ騎士長が言葉を言い切る前に乾いた音が洞窟内に木霊しました。
「お前のその無駄なプライドが!部下を無駄死にさせるのが分からないのか!死んでいった奴等の想いも無駄にする事になるんだぞ!」
幼馴染ならではの素敵なやり取りですが、こんな危険地帯で大きな音や声を出したら…………あぁ、やっぱり…………。
「お二人共、仲良く言い争ってる時間は無くなりましたよ。奴等に気付かれないたみたいです」
「お、俺のせいか!?」
「十中八九そうですね。でも良いキッカケになったんじゃないですかね?どうします、メイ騎士長」
いきなり頬を叩かれた痛みと驚きでフリーズしている彼女でしたが、僕の一言で直ぐに気持ちを切り替えたみたいです。
その目には強い決意が見て取れました。
「やむを得ん。タケシ、無理を承知でお願いする。殿を任せても良いか?」
「はい、勿論。任せて下さい」
「ではここからは時間との勝負だ!皆、気合を入れろ!」
「「「「「おぉっ!!」」」」」
一度バレたのならヒソヒソ話す必要は無いと考えたのか、大声で檄を飛ばしたメイ騎士長にそれを上回る声で返す騎士達。
「オーガスト副騎士長、先頭を任せた!私は隊の後方から付いていく!フィズと言ったか、お前は―――」
「私はタケシ様と一緒に殿を務めます!」
「ちょ、ちょっと!?フィズさん!?」
フィズさんには騎士隊と共に行ってもらうつもりでしたが、僕と共に後ろを守ると言い出しました。
「私はタケシ様のメイドです。主を守れずして何がメイドですか!!」
「ふっ……。良い心掛けだ。ならば、フィズ。お前はタケシと共に隊を守れ!」
「はいっ!」
いやいやいやいや、待って待って!
僕一言も良いなんて言ってないですけど!?
良い雰囲気でそう決められたら小心者の僕は何も言い出せないじゃないですか!
「では皆の者、行くぞ!地上に出る迄休めると思うなよ!行け、オーガスト!」
「おうっ!」
オーガスト副騎士長が走り出し、皆それに付いていく。
あぁ!もう!こうなったら流されてやりますよ!
やれば良いんでしょ、やれば!
「フィズさん!言い出したからには手伝ってもらいますからね!」
「勿論です!」
吊り橋効果ってやつですかね?
この洞窟に来てからフィズさんの好感度がグングン上がっている気がします。
今じゃないんですけどね!?
兎にも角にも、殿を任された僕は離れ過ぎず、かと言って近付き過ぎない様に後ろを警戒しつつ隊を追い掛けます。
しかし、場所は相手の巣の中。
勝手知ってる場所に加えて壁も天井も関係無く這い回れる蟻達に追い付かれるのも時間の問題でしょう。
時折足が速いのか近くにいたのか分からない蟻に追い付かれる始めました。
殺すよりも動きを止めるのを最優先しながら対応していますが、これも長くは続かないでしょう。
フィズさんも僕の意を察して対応してくれていますが、彼女には矢の弾数という制限もあります。
(あの王子……。こうなる事を最初から分かっていましたね……)
僕は心の中で悪態をつきながら、どうするべきか、必死に考えを巡らせていました。
主人公は人を信用していないですが、それ以上に過去の経験から人に嫌われたくないと思っています。
その矛盾の隙を突かれた王子の作戦は見事と言えるでしょう。




