剛士、騎士隊と合流する〜異世界生活六十七日目〜
時計がある事に絶望しながら、その日は奥の空間から二つ戻った分かれ道の行き止まりの部屋で休む事になりました。
念の為奥がどうなっているかを確認、蟻がいない事を確かめた後そこから少し戻った位置で簡単な食事を取り、交代で仮眠をする事にしました。
ちょいちょい蟻が襲ってきたので退治しながら。
因みに二人ともちゃんと食料や水が入った鞄は持ってきています。
最初は馬に乗せていて、道中は触れてなかっただけでいきなり現れたご都合便利グッズじゃありませんよ?
むしろ、そんな道具あるなら今すぐ欲しいです。
夜が明け……日が昇ったか分かりませんが、とりあえず夜が明けたので、昨日寝る前に話し合った通りに行動します。
「では、今日は地上に向かいながら行き止まりの場所を虱潰しに探していきましょう」
奥まで進みあの状況を見れば、いくら騎士隊とは言え、一度引き返す筈。
それなのにここに来る迄にすれ違わなかった事を考えると、やはり行き止まりのどれかに道にいるのだろう。と結論付け、今日から一箇所ずつ探していく事になりました。
それに合わせて、松明の本数にも注目します。
途中で僕達が拾った時から変わっていればその付近にいる可能性、もしくはそこを通った可能性があるという事。
減った場所から地上を目指し、変わってない場所があればその間の何処かに居る筈。
ただしこれは、松明を騎士隊が携行していない場合のみになりますが……。
そしてその時は予想外の形で訪れました。
それから幾かの分かれ道のはずれルートを探していると、その内の一本から大量の蟻の足音が聞こえました。
「フィズさん下がって!僕が壁になって頭数を減らしますので、討ち漏らした奴等を仕留めて下さい!それと後ろから蟻が来ないか警戒を!」
「わ、分かりました!」
フィズさんも多少驚きはしましたが、そこは慣れたもの。
直ぐ様指示通り僕の後方へと下がって、後方の警戒をしつつ、クロスボウを構えました。
「さて、ここから後ろには通さないつもりでやりますよ!」
手に持っていた松明の火をその場に置いてある松明に移し、蟻達が来るであろう道に投げ込みました。
フィズさんの更に後方にも一本、残りは僕達の周りに配置して光源の確保。
音が近付き、松明で照らされた岩壁を飲み込む様に黒い波となった蟻達が押し寄せてきます。
「これはこれは……手が足りなさそうですね。《童ノ戯レ》」
僕はこめかみを一度叩いて走り出しました。
温存している暇はありませんが、ここで全力を出し切ると後が大変。
そう考えてこちらを選択しました。
今の身体能力のほぼ限界の動きを続けられる《童ノ戯レ》により、僕には向かってくる波を剣戟の嵐で斬り飛ばし続けます。
合間で取り零した蟻達はフィズさんが危なげ無く仕留めてくれており、正に背中を任せられる相棒と言えます。
戦うこと数分、次第に蟻の波が勢いを失い始め、後ろに抜ける者は居なくなり、更に時間が経つと《童ノ戯レ》を解除しても対応出来る迄になりました。
「ん?あの音は……」
僕達の反対側から蟻達とは違う鉄が地面に当たる音。
「フィズさん、当たりですよ」
「そうみたいですねー」
相変わらずのんびりとした口調で返してくる彼女だが、その口調は少し弾んている様に聞こえました。
「そこの者!一体何者だ!」
「タケシ=オオタです!第一王子の命により救援に参りました」
「何!?タケシ!?本物か!?」
こちらに走ってくる鎧の人物。
敵がいなくなったと分かり、兜を脱ぐとそこには―――
「オーガスト副騎士長、無事でしたか」
「あぁ、何とかな。それよりも救援と言っていたが……まさか一人でか?」
「いえ、彼女もいますよ。彼女はフィズさん、僕の屋敷に仕えるメイドさんです」
「フィズと申します。オーガスト副騎士長様、御高名はかねがね……」
「おう、タケシ。折角こんな可愛い娘とデートならこんな洞穴じゃなくもっとお洒落な所に行けよ」
「そうしたいのは山々ですがね……」
オーガスト副騎士長は気が抜けたのか軽口を叩いてくる余裕を見せています。
ふと彼の後ろを見ると、兜を脱いだ騎士達の中には僕の見知った顔もいました。
更にその殿から一人の騎士がこちらに歩み寄ってきました。
「お前が噂に聞く異世界から来訪した者か」
「はい。私、タケシ=オオタと申します」
「オーガストから聞いている。私の名はチャルド=メイ。第五騎士隊の騎士長を任されている」
そう名乗って兜を脱ぐと、現れたのは綺麗なブロンドの髪をショートカットにした女性でした。
まぁ、声と体格で分かっていましたが。
「オーガストを筆頭にうちの隊の者が世話になったらしいな」
「いえ、僕に出来る事をした迄です」
「だけど、それが今回役に立ったんだよ。なぁ、隊長」
「全くお前は……。まだ作戦遂行中だ。言葉に気を付けろ」
役に立ったなら何より。
それにしても騎士長と副騎士長にも関わらず、かなりフランクに接していますね。
そんな疑問が顔に出ていたのか、オーガスト副騎士長は僕にしか聞こえない声で「こいつ、俺の幼馴染なんだよ」と教えてくれました。
「成る程」と納得して返した裏で、「こんな可愛い女の子の幼馴染がいるとか、何処の青春ラブコメだよ!」とツッコまずにはいられませんでした。
主人公の右手に剣、左手にダガーの戦い振りは正に台風が如く。
それにしても可愛い女の子の幼馴染……羨ましいですね。
作者にいるのは男の幼馴染だけです。




