剛士、焼き討ちする〜異世界生活六十六日目③〜
蟻の巣穴に入る為には先ず周りの蟻達を一掃……まではいかずともある程度の数迄減らす必要がありました。
その為に僕等が取った作戦はそこら中に飛び散っている油を使った火攻め。
その為には火を熾す必要があるのですが―――
「フィズさん、火を熾す方法ありますか?」
「ありません!」
「ですよね……。やりますか、気合火起こし」
この世界に来てサバイバルをした時にやったアレをまたやるしか無さそうです。
幸い、あの頃より物はありますので準備は簡単。
あとは…………。
「行きます……。うおぉりゃぁぁぁぁぁ!(小声)」
突貫で作った手製の火起こしに木屑をいれ、あとは水分を吹っ飛ばす勢いの摩擦熱で火種を生成。
着ていたローブを一部切り取った布をクロスボウの矢に巻きつけ
、そこに火種を落として燃えるのを待ちます。
充分に火が熾きたところで、フィズさんに渡しました。
「宜しくお願いします」
「はい。場所はここの真下よりやや前方付近で良いでしょうか?」
「それで問題無いと思います」
僕達は火起こしの素材を集めながら、慎重に穴の上迄移動していました。
これから入口にやや近い場所で火事を起こし、蟻達が燃えたり逃げ惑ったりしている内に侵入する算段です。
「では……いきます!」
狙いを定めたフィズさんのクロスボウからパシュッと軽い音を立てて矢が飛んでいきます。
矢は放物線を描いて目的の場所へと着弾、そこから火が燃え広がっていき近くにいた蟻達を巻き込んで炎上していきます。
どうやら、油が染み込んでいる土を踏んでいる者も多かったらしく、足先から燃えだす蟻も多くいます。
周りの警戒を忘れ、痛覚があるのかは知りませんが、火をどうにか消さんと走り回り、更に周りへと炎を撒き散らしていきます。
「これは……」
「想像以上の地獄絵図ですね……」
燃え広がる炎、逃げ惑うも身を焼かれていく蟻達。
断末魔かは分かりませんがなカチカチとした音を立てながら燃えていく蟻達。
不本意ながら香ばしい香りが漂ってきて少しお腹が減ってきます。
そう言えば朝少し食べてから何も食べてないですね……。
「なんか…………この場所さえ見てなければお腹が減る匂いですね」
良かった、同類が隣にいました。
十分程経った辺りで火は落ち着いてきました。
巣を守っていた蟻は当初の数の半分に減り、残っている者も自由に動けない者や動きがぎこちない者が殆どになりました。
「そろそろ行けそうですね。念の為、下に降りてから巣穴に入って少し進むまでは息を止めておいて下さい」
「……?それは何故ですか?」
「火が収まったという事は、窪地に溜まっていた酸素が燃え尽きた可能性があります。それに、あの蟻が持っているかは分かりませんが、蟻酸という毒が充満している場合がありますので」
蟻酸は全ての蟻が持っている訳では無いが、あの蟻が持っていないとも断言出来ません。
蟻酸は人体に悪影響を及ぼし、目入れば失明の可能性もあります。
それを素直に伝えたところ、フィズさんは目を閉じ、僕がお姫様抱っこで連れて行く事になりました。
女性を……お姫様抱っこ……だと…………?
そ、それくらいで嬉しくなんかありませんからっ!
「行きますよ。しっかり捕まっていて下さい……ねっ!」
フィズさんは抱き上げ、上から見るとほぼ直角(に見えるだけで案外上級者向けスキー場程度)の坂を滑り降ります。
感覚的にはほぼ落ちてる気もしますが……。
上手く速度を調節しつつ何とか着地、そのまま巣穴へ駆け抜けます。
その周りにいた比較的無事な蟻達が使命を果たさんと襲いかかっていますが、機動力の削がれたソレは怖くもありません。
右腕はしっかりフィズさんを支えたまま、左手で腰に差してある刀にエストックを逆手で一閃、二閃。
完全に息の根を止めなくても、追いかけてこれなくすれば充分。
何匹か斬りながらも、何とか巣穴への侵入成功しました。
それでも止まる事無く下り坂になっている道を進みます。
時折道を塞ぐ様に現れる蟻は天井に張り付いているやつも含めて脳と胸中神経節を壊すよう縦に斬り裂いて進んでいきます。
ある程度進んで呼吸も問題無くなったところで、フィズさんを降ろしました。
「目が見えない状態であの動きは流石に怖いですねー。でも病みつきになりそうです」
「出来れば二度としたくないですけどねぇ…………」
フィズさん強い……。
まさかあの状況を多少なりとも楽しんでいらっしゃるとは……。
「ところでタケシ様はその蟻酸?とかは大丈夫なのですか?」
「僕ですか?僕は幼い頃から色んな毒を飲んだり塗ったりしてますので、大抵は効きませんよ?」
暗殺に於いて毒は極めて有効。
逆に暗殺者がその毒で命を落とさない様に、生まれてすぐから少しずつ毒を摂取して体に抗体を作っていきます。
勿論、この世界にある毒が向こうと一緒だとは限りませんが、今回は問題無かったようですね。
……そんな可哀想なものをみる目は辞めて下さい、それは僕に効きます。
ともかく、無事巣穴への侵入は成功。
ここから目的の第五騎士隊の救援に向かうとしましょうか。
僕とフィズさんは目的を果たすべく、奥へと進んでいく事にしました。
暗殺者の設定的に毒無効をつけましたが、それだけでもそこそこ狡いくらい強いんじゃ……?
それと本当に少しずつ毒を飲んだりしておけば毒が効かなくなったりするんですかね?
現実は分かりませんが、これはあくまでファンタジー!!




