剛士、王城に呼び出される〜異世界生活六十五日目〜
ミュールちゃんが孤児院へと旅立ってから三日後、僕は王城に呼ばれていました。
今回僕を呼んだのは国王陛下では無く、第一王子ボルドー=フォン=ローゼン殿下です。
僕を目の敵にしておきながら何の用だ。とも思いましたが、王族の呼び出しを無視する事は出来ず、指定された会議室に向かいます。
扉の前にいた兵士に名前を伝えると、扉を開けてくれました。
中にいたのは僕を呼び出した張本人のボルドー殿下とその直属の護衛であろう騎士達が数名でした。
「お待たせして申し訳ありません、殿下」
「全くだ。異世界人とは言え王族を待たせるとは無礼にも程がある…………と言いたいところだがまぁ良い、そこに掛けろ」
「寛大な御心、感謝します」
当日突然呼び出したくせに遅いも何もあるか!とは思いますが、それは言わないのが吉ですので、上辺だけでもお礼を言って言われた通り、椅子に座りました。
「呼んだのは他でも無い、魔獣の巣についてだ。おい、説明しろ」
「はっ!」
ボルドー殿下の口から出たのは予想外のフレーズでした。
「タケシ=オオタも知っての通り、先日王都か、程近い森に魔獣の巣が発見された。それに伴い、第五騎士隊が魔獣の殲滅と巣の駆除に向かっているが、既にかなりの日数が経過している。また、一昨日を境に定期報告の者が来ておらず、状況が分かっていない。そこで、騎士隊の救援に向かう事が決まったのだ」
成る程、少し話が見えてきましたね。
ですが折角なので最後まで聞く事にしましょう。
「しかし、第五騎士隊は元々魔獣・魔物狩り専門の騎士隊。その第五騎士隊の連絡が途絶えたとなれば、生半可な戦力では逆に被害を拡大させる恐れがある。従って迅速に動ける且つ彼等に匹敵する実力の持ち主を向かわせる事にした」
「……と言う事だ。聡明な異世界人だ、何が言いたいか分かるだろう?」
説明が終わったところで、ボルドー殿下が厭らしい笑みを浮かべてそう尋ねてくる。
「……つまり、第五騎士隊の救援に向かうのに私が一番最適だと白羽の矢が立った訳ですね」
「その通り。事態は急を要する。明朝には発ってほしいのだがとうだ?」
建前上「どうだ?」と聞いてはいるが、その文言とは裏腹に断らせるつもりが無いのがひしひしと伝わってきました。
裏がある気しかしませんが、ここで断れば後々面倒が増えるのが目に見えてるので従うしか無さそうです。
「勿論、謹んでお受け致します。いくつか質問をしても?」
「構わん」
「私以外の面子はどの様になっているんでしょうか?」
その問いに先程状況を説明してくれた騎士が答えてくれました。
「数を揃えようとすればする程遅くなる。その為、適任が見付かり次第、随時向かってもらう事ににっている」
「現在見付かっているのは……?」
「貴殿だけだ」
おぉっと、これは予想外……でもありませんね。
ですが、流石に一人で行く事になるとは思いませんでした。
「貴殿はかなりの健脚と聞いた。他の者と足並みを揃えようとすると、良さを殺してしまうからな。先ずは明朝、貴殿が単身で向かってもらう」
「…………畏まりました」
これだけ時間があったのに関わらず、適任が見付かっていない。
それに加えて足並みが揃わないから単身向かえ…………と。
あまりに強引過ぎる理由に頭を抱えたくなりましたが、それこそ不敬と言われて何されるか分かりませんね。
「では明日の朝、現地に向かいます。詳しい場所を教えていただいても?」
「あぁ、場所は―――」
避けられない単身での救援。
僕は明日に向けて、なるべく多くの情報を仕入れる事にしました。
「では、失礼致します」
「あぁ、宜しく頼んだ」
聞きたい事を全て聞き、僕は会議室を後にしました。
もう少しで出口に差し掛かろうとしたところ、正面から見知った女性が走ってこちらに向かってきました。
「タケシ様!本当に行くおつもりですか!?」
息を切らしながらそう問い掛けてきたのはこの国の第一王女であるクラリス=フォン=ローゼン姫殿下。
どうやら今しがた国王陛下から話を聞きつけ、慌てて僕の下に赴いた様子でした。
「本当です。明日の朝王都を出て、単身魔獣の巣へ向かいます」
「そんなの自殺行為です!お兄様に抗議して参ります!」
「それはお止めになられた方が宜しいかと。それに、第五騎士隊は言うなれば私の弟子になります。弟子の危機に師匠が出ない訳にはいきませんから」
「でしたら誰かを伴って―――」
「では、クラリス姫殿下。私の速度に付いてこられる者をご存知で?」
「…………」
沈黙、つまり誰も思い付かないのでしょう。
「事態は一刻を争います。現在、動ける者の中で私が一番の適任でしょう」
「ですが、タケシ様は国賓。国を守る使命も義務もありません。にも関わらず何故そこまで…………」
「そうですね……。やれる者がやる。ただそれだけですよ」
「例えそれが罠だと分かっていても……ですか?」
「はい」
クラリス姫殿下が言うって事は、やっぱり罠の可能性が高いんですね。
第一王子にとっては僕は国王陛下に気に入られ、クラリス姫殿下の命を救った怨敵ですからしょうが無いでしょう。
それでも居心地が悪いあの屋敷にいるよりもマシだとすら思ってしいます。
甘い罠と辛い罠であれば、力でどうにか出来る可能性のある激辛を僕は選びます。
「あまり長く話していると誰かに見られるかもしれません。本日はこれで失礼致します」
「…………そうですね。ご武運を……」
「ありがとうございます」
話しを無理矢理切ってクラリス姫殿下に背を向け、王城を後にしました。
さぁ、戻って明日の準備をしましょうか。
夕食時にその事をメイドさん達に伝えたら一悶着あったのはまた別の話。
主人公は国賓扱いですが、念の為王族の人達の呼び方を改めています。
何て呼んでたか忘れたとかじゃ無いんだからねっ!




