剛士、頭を悩ませる〜異世界生活五十四日目〜
おはようございます、太田剛士です。
現在僕は優雅な朝食を食べています。
「良いですか?タケシ様。タケシ様が副騎士長様にあんな事を言うから我々が怒られる事になるのですよ。タケシ様の発言は―――」
はい、起きてからずっとカルミアさんにお叱りを受け続けています。
なんでも、僕がオーガスト副騎士長にポロッと溢してしまった事で、カルミアさん含む専属メイドさん達が上からお叱りを受けたそうです。
「何故職務を全うしないのか?」「タケシ殿望みを履き違えているのではないか?」と。
そんな事を言われたカルミアさんはメイドさん達にそれを伝え、それを僕にずっと言ってきています。
それはそれで問題なのでは?とも思いますが、圧倒的に非があるのが僕ですので、何も言えません。
「聞いていますか?タケシ様」
「は、はいっ!」
「では、本日は騎士隊の訓練がお休みですので、私達の誰かしらを選んで下さい」
「はぅえぇっ!?」
まさかの強制イベントですと…………!?
待て待て待て待て。
ここにいるメイドさん五人は全員、僕へ良い感情を持っていない。
寧ろマイナス方向に大きく傾いている。
そんな中で誰か選べだと…………?
「さぁ、誰を選ばれますか?私をお選びいただければ、タケシ様が気になっているであろうこちらを使って天国へ導きますよ?」
そう言って自らのたわわに実った双丘をこれでもかと押し上げて強調してきました。
つい見てしまいましたが、下着を着けてないせいでその双丘にある二つの突起がわわわわわわ…………。
「いい、いいいいいえ。とととと、とりあえず、今日は城下町に出て買い物をしてきたいと思います!」
「あっこら!待ちなさいっ!タケシ様っ!」
朝食もそこそこに僕はその誘惑から逃げる為に屋敷を飛び出しました。
少し惜しい事をした……なんて思わない事は無いですが…………。
そんなこんなで城下町に到着。
以前、服をお願いした際にもこの辺りは歩いたので道は把握しています。
ただ、今回は特に目的も無いので、ぶらぶらと辺りを見回しながらウインドショッピングです。
「あ、あれは……」
目に付いた一件のお店、それはあちらの世界には無かったものでした。
興味を唆られ、思わずその扉をくぐって中に入ります。
「おぉ〜!まさしくファンタジーの世界!」
そこは武器屋でした。
壁に並ぶ色々な種類の剣に槍に斧、おぉ、あそこには鎖鎌まで!
ゲームや漫画の世界でしか見た事が無い店に大興奮の僕。
「ああ゛?誰か来たのか?」
店の奥から出てきたのは―――
「おう、同士か。こんな所フラついてるってこたぁ、おめぇ修行の身か?」
「あ、いえ。僕はヒト族です。決してドワーフではありません」
ドワーフでした。
はい、もう何処からどう見ても、ファンタジーそのままのドワーフ。
低い身長にガッシリとした体付き、髪と髭の境が分からない程に毛むくじゃら。
…………あれ?髪と髭以外は僕じゃない?
いやいや、そんな事は無い。
気を取り直して話を進めていく。
「僕は異世界からやってきた太田剛士、こちらの流儀で名乗るとタケシ=オオタと言います」
「あ゛?おめぇがヒト族で異世界人だ?馬鹿言うな、異世界人はもっとヒョロっとしていて艶やかな黒髪…………黒髪だな。オイラ達と同じでチリチリだけど」
「唯一黒髪だけですか、僕の異世界人要素」
僕の異世界人要素=黒髪。
要素少な過ぎません!?
どう考えても選定基準間違ったでしょ、連れてきた人!
「まぁんなことどうでも良い。それでなんだ、冷やかしか?それなら帰ってくれ」
「あ、いえ、冷やかしと言えば冷やかしかもしれませんが、武器を扱っている店が初めてでつい…………」
「あぁ゛?そうか、異世界にはこんな所無いって誰かが言ってたな。しょうがねぇ、好きなだけ見てけ。ただし、危ねぇから迂闊に触ったりするんじゃねぇぞ?」
「飾ってあるのは刃引きしてあるんじゃないんですか?」
「全く、異世界人ったぁ常識がねぇなぁ。そんなんじゃ直ぐに使えねぇだろうが」
それはご尤も。
買ったら即実践がこの世界の常だから、常に刃は研いであるんですね。
まだまだあちらの常識が抜けません、気を付けなければ。
「すみません、まだこちらの常識に疎くって」
「別に謝る事じゃねぇよ。怪我すんなよって事だ」
「はい、お気遣いありがとうございます」
「ふんっ」
照れたのか耳を真っ赤にして後ろを振り向き、鼻で返事をされました。
…………ドワーフのツンデレ、どの辺りに需要があるんですかね?
それはさておき、許可をもらったので、店内をしっかりと見て回りましょう。
剣はやはり西洋剣が主ですね。
形的には色んな時代が混ざっているので、騎士達が主に使っているロングソードやショートソード、ファルシオンなんかもあります。
やっぱりあのサイズのバスターソードは無い、当たり前か。
槍も思ったより種類が豊富。
棒狩りゲー風のランスから和風の槍、戟みたいな形まで様々。
これだと対人特化の騎士隊にファンクラスみたいな陣形もあるかもしれませんね。
あれは一度切り崩して…………っていけませんね、ついつい興味が…………。
そんな事を考えながら店の中を二周三周していると、店主のドワーフから声を掛けられた。
「いい加減飽きねぇのか?」
「いえ、飽きませんね。それより、これを振ってみたいんですが……」
「おめぇ、剣が扱えるのか?異世界って戦がねぇんだろ?」
「それって割と常識なんですね。あるにはありますが、剣を使う戦は今では殆ど無いですね」
「じゃあ素人じゃねぇか。反れとも何か?おめぇ心得があるってのか?」
「まぁ、嗜む程度には……」
素人だと使わせないが、ある程度扱った事があれば拒否はしない。
そんな雰囲気だったので、そう答える。
「まぁ、多少なら良いか。だが、店内は危ねぇから、裏庭を使え」
僕の選んだ剣を手に取り、店の裏へズカズカと進む店主を慌てて追い掛けました。
「この剣なら……こいつで良いか。ほら、試し斬りしてみろ」
「え?あ、はい」
並んでいた人形の一つに鎧を着けて、「さぁ着れ」と剣を渡されました。
いや、それ鋼の鎧ですよね?
それを嗜んでいると答えた何処の馬の骨かも分からない奴に斬らせるとは……。
余程剣の仕上がりに自身があるのか、僕を信頼してくれてるのか分かりませんが、お言葉に甘えさせていただきましょう。
「……とは言え、商品を傷付ける訳にはいけませんね」
僕の選んだ剣はエストックに似ている細身の剣。
刃は細く、直刃で、本来は突きに重きを置いた造りの剣ですが、鍔がエストックの形状と違い何となくですが『西洋人が刀を真似して造った剣』と感じました。
そんな一振りを上段に構え集中。
普段は上段に構えたり、長く集中したりしませんが、今は試し斬り。
ゆっくりと時間を掛けて構えます。
「………………………………ふっ!」
上段の構えから袈裟気味に降り下ろしました。
剣が鎧を斬った……と言うより通過した。が正しい程恐ろしい斬れ味。
僕が振り抜いた後、数秒遅れて人形諸共鎧が剣閃通りに斬れ、地面に落ちました。
「……ふぅ。凄い斬れ味ですね」
そう言って振り向くと、店主は顎が外れるんじゃないかと思うくらい口を大きく開け、僕と剣と鎧を順に何回も見ていました。
「え……あれ……?もしかして、人形を避けて斬らなきゃいけませんでした?」
そう声を掛けるも声を発さず、『こいつ何言ってるんだ?』って顔で見られました。
えぇ〜と…………。
どうしましょう、これ…………。
エストックの名称はフランス語ですが、武器自体は様々な名称でヨーロッパで一般的に使われている剣でした。
ポーランドを除き、剣身90cm全体120cmの物が多い(ポーランドは剣身130cm全体150cm以上が主)。
鎧の隙間を潜って突き刺す、鎧通しの意味。
だった筈……。
間違っていたら申し訳ありません。




