剛士、客人に押し掛けられる〜異世界生活五十日目〜
主人公の学習パートは代わり映えしないのでカット。
日数が少し飛びます。
この屋敷に来て二週間が経ちました。
毎日書斎に通って本を読み、メイドさん達の助けも有り、この世界(主にこの国)の歴史や常識を一通り頭に入れる事が出来た頃、思わぬ来客が有りました。
「タケシ様、お客様がいらっしゃっています。応接室にお通ししておりますので身支度をした後、そちらに向かわれて下さい」
「お客様?僕に?どなたですか?」
「宰相様と公爵様です」
「そ、それは急いで向かわないとじゃないですか!」
「タケシ様?その前にまず身を清めたら如何でしょう?」(汗臭いまま二人に会う方が失礼でしょ?それくらい考えなさいよ)
「あ、はい。そうですね…………」
現在、僕は朝の日課の鍛錬の最中でした。
そのせいで汗だくになってしまっていたのを忘れていました。
急いで汗を流し、宰相様や公爵閣下に失礼の無い服装に着替えて応接室に向かいました。
「お待たせして申し訳ございません。ご存知かとは思いますが、タケシ=オオタです」
「これはご丁寧にありがとうございます。以前お会いした際には自己紹介出来ておりませんでしたので、改めて。私はこの国で宰相を任されておりますギー=アンデルセン、隣にいるこの方は―――」
「儂はヴェネト=ローゼン公爵だ。今の国王の兄、所謂王兄にあたる」
う〜ん……。
この二人中々に対照的ですね。
宰相殿は丁寧でこちらに敵意は感じないですけど、腹に一物抱えた感じ。
対して公爵閣下は不遜な態度ではありますが、裏表の無い性格っぽい。
どちらにどう対応するかで今後が変わりそうですね。
「丁寧にありがとうございます。わざわざ足を運んでいただかなくても、こちらから出向いたのに……」
「貴殿は我が国の国賓ですからな。呼び出しなどすれば何を言われるか分かりません故」
「それにこっちから来た方が早いのでな。それより宰相、さっさと本題に入らんか」
「ローゼン公爵……物事には順序が…………」
「腹の探り合いを順序と呼ぶのであれば、そうだろうな。だがそんな事をしても此奴は我々が来た時点で既に警戒しておる。そんな状態で相手の真意を探ろうなぞ滑稽が過ぎるのでは無いか?」
(この人、大雑把に見えてかなり頭がキレそうですね。警戒するのは宰相殿よりも彼でしたか)
僕は警戒のベクトルを少し変えて、相手の対応を待ちます。
「それもそうですね…………。オオタ殿、失礼致しました。私程度が貴殿の胸の内を探ろうなど愚の骨頂。後に然るべき処罰を受けます故、今は話を聞いていただけますでしょうか?」
「いえいえ、処罰なんてとんでもない。何処の馬の骨か分からない男を警戒するなと言う方が無理でしょうし」
「寛大な措置に感謝を」
「だから、それを無駄と言っているのだ。おい、お主!」
「は、はいっ!」
突然威圧感のある大声を出すものだから、思わず上擦った返事をしてしまう。
あ、またメイドさんの好感度が下がった。
「お主は報告によると、武術に長けていると聞いた。本当か?」
「えぇ〜と……長けている……かどうかは他の方の練度を見なければなんとも…………」
「まどろっこしい奴だな。もう少し言い切らんか。そんな事では女にモテんぞ!」
ぐはっ!
こ、この人……的確に相手の急所を貫くスタイルか!
後ろにいるメイドさん達も、うんうんと頷くの辞めてくれませんかね!?
「聞けばもう二週間もここにいて、まだ誰にも手を出しておらんのだろう?好みの者がおらぬか?それとも不能…………?もしやお主…………男色家なのか?」
「僕は不能でも男色家でもありませんからっ!!」
公爵閣下の物言いに思わず、立ち上がり、机を叩いて抗議してしまう。
そして冷静になって血の気が引いた。
ま、拙い……。
この国の公爵に不敬を働いてしまった……。
しかし、公爵閣下はそんな事は一切気にせず、笑いながら話を続ける。
「ほら、ちゃんと出来るでは無いか。男児たる者、普段からそれくらい雄々しくなければな」
「……もしかして誂ってます?」
「さぁ?どうであろうな?」
この人、絶対苛めっ子だ。
今も凄く楽しそうにニヤニヤしているし…………ちくしょう。
「はぁ…………。閣下、結局話が進んでいないではありませんか」
「あぁ、そうだった、すまんすまん。つい楽しくなってな」
ほら!今楽しいって言ったよ、この人!
「全く……私からお話しますね。オオタ殿、本日は折り行ってお願いに参りました」
「お願い……ですか?」
「はい。こちらに参られてからオオタ殿はこの国の歴史や常識等を学ばれたと聞いています。それから分かる様に、現在我が国は表立っての諍いは無いものの、隣国との戦争が続いている状況です」
「あ、はい。それは何となく察しが付いています」
この国の歴史と現在の情報を読んだ限り、隣国との関係は良き隣人…………に思えるが、実際はそうでは無いらしい。
互いの利益の為に仲良くしている様に見せかけて、それぞれが虎視眈々と征服を企んでいる。
その話をするって事はつまり―――
「特に今逼迫しているのは北の情勢でございます。この国の北側にあるノリトン共和国。そちらで最近不穏な動きがあると間者が掴んでおります」
ちょっと待って?
何いきなり重要機密を溢しちゃってるんですかね、この人は。
いや、違う。
敢えて情報を開示して、こちらが協力せざる負えない状況にしているんですね。
「それで……?私に何をお願いしたいのですか?」
「聡明な貴殿ならば薄々は察しているかもしれませんが、いつ大規模な戦いが始まるか分からない現状、少しでも力を付けたいと思っております」
「僕を戦場に立たせようと?」
「そうしていただければ心強いですが、貴殿はこの国の民では無くあくまで賓客。そんな無礼な事は申し上げられません」
つまり、「こちらからは頼めないけど、そっちから申し出てくれれば断りませんよ」って事ですね。
そんな事は意地でも言いませんけどね。
「そうですか。それなら安心です。如何せん、平和な世界から来たのでいくら戦争とは言え人殺しは遠慮したいですから」
「……そうですか」
ほら見ろ、絶対言わせたかっただけじゃないですか。
流石に嬉々として人殺しなんてしたくありませんからね。
「ほら見た事か。いくら力を持っていようと此奴の根は善人だ。自ら戦場に立って人を殺めるなぞせんだろう。なぁ、異世界からのお客人?」
「ははは……そうですね」
やっぱりこの人、かなり頭の回転が早そうですね。
会う前から既に僕の性格を割と正確に把握していた様に感じます。
メイドさん達の報告がかなり細かいのもあるんでしょうが。
「公爵閣下の仰った通りです、宰相殿。私はとてもではありませんが戦場に立てる人間ではありません」
念の為、宰相殿には断言しておきましょう。
ただ、相手からすれば「ここまでの待遇で住まわせているんだから」という手札がある以上、何かしらの要求があるのは分かりきっていますし、それのせいで言う事を聞いたとなれば、今後の相手の出方が変わる可能性もあります。
ここは先手必勝ですね。
どうも公爵閣下に誘導されている気もしますが、この際それに乗る事にしましょう。
二の句を告げずに悩んでいる宰相殿に、僕はこちらから提案する事にしました。
主人公の素の一人称は『僕』、目上の方や初対面の者と話す時に必要を感じれば『私』を使っています。
社会人スキルですね。




