剛士、何とか生き残る〜異世界生活十日目〜
今回はクラリス(姫様)視点です。
私の名はクラリス=フォン=ローゼン。
この国ローゼンの第一王女として生を受けました。
そんな私は今、暗き森と呼ばれている地の入口に向かっています。
「もっと速度は出せませんか!?」
「姫殿下、無理を言ってはいけません。いつ何処からあの狼達が現れるか分からないのです」
「しかし…………」
「あの者は得体が知れませんでしたが、殿下を守る為に自らを犠牲にしました。それは大変立派であり、名誉な事です。奴にも悔いは無いでしょう」
「っ…………」
私達は父上……陛下からの命で暗い森の豊富な資源の調査に向かっていました。
死の森に到着後に隊を分け、半数は私と共に森の調査へ、残りの半分は拠点設営も何か有った時の為に待機を命じ、私とメイド達を含んだ総勢二十五名は森へと入りました。
しかし結果は知っての通り。
私と隊長含めた騎士二人とメイド三人のみが命からがら森を抜ける事が出来ました。
それも自分達の実力では無く、ある人の助けによって。
私達の前に颯爽と現れた御人、それがタケシ様でした。
見た目はまぁ…………贔屓目に見てもカッコ良い・スタイルの良いとは言えませんが、それでも中身は立派な方。
しかも異世界からやってきたと言うでありませんか。
我が国の置かれている状況を覆す一手になるかもしれない御方、どうにか懐柔して我が国に来てもらうしかありません。
例え、我が身を差し出したとしても…………。
しかし、そう上手くはいきませんでした。
森を抜け、待機を命じていた騎士達がいなくなっており、合流の為に徒歩での移動。
その道中、夜を越す為の野営中に狼達の群れに襲われる事態に。
その場からは騎士とメイドが一人ずついなくなっており、あの二人が何らかの方法でこの場に狼達を呼び寄せ、私達を亡き者にしようと企んでいるのだろうと推察しました。
しかしあまりに多勢に無勢。
どうにか時間を稼いだものの、打開案は出てこず、結果としてタケシ様が囮となり、私達は助けを呼ぶ為に村を目指して走りました。
皆、息も絶え絶えで村に辿り着くと、そこには予想通り、待機を命じていた騎士達の姿。
私の顔を見るなり驚いた表情をしていたものの、そんな事は今の私にとってはどうでも良かったので、状況を説明。
直ぐにタケシ様の救出に向かう様命じたのですが、この暗闇の中での行動は自殺と同義だと皆に言われ、泣く泣く断念。
日が昇るか否かの時間になると同時に村を出立、私達が野営をしていた場所に急ぎました。
「あぁ…………タケシ様…………」
馬車の中で祈る様に到着を待っていると、馬車は徐々に速度を緩め、目的地に到着したとの報せを受けます。
しかし、私を呼びに来た隊長の顔は優れません。
「姫殿下、その……残念ですが…………」
その言葉を聞いて最悪の想像をした私はメイド達の静止を振り切って馬車の外へ。
そしてその光景に唖然としました。
「こ、これは…………」
私の目の前に広がっているのは一面の血の海。
地面が見えない程の大量の血とその上に横たわる狼達。
胴体を真っ二つにされている者、体の中心に穴が空いている者、頭が潰れ、胴体のみしか残っていない者。
死因は様々でしたが、何処を見ても生きている個体は存在しません。
「た、タケシ様は!?タケシ様はいないのですか!?」
私が見る限りあの御方の遺体はありません。
仮に狼達に敗れ、食べられてしまったとしても、その身に付けていた武器や防具がある筈ですが、それも見当たりません。
「この辺りには何も。部下達が狼の死体を辿って森の入口でも見に行っておりますが…………」
「多分生きてはいないだろう」
隊長と周りの者達もそう思っている様でした。
「それにしても、凄いっすね。この数を独りで相手したんすか、あの人」
ロビンが呟いた声は私の耳にも届きました。
見える範囲だけでも軽く百は超えています。
更に森へと続いているのであればその総数は計り知れません。
魔法を使う事も出来ず、仲間もいない状況でその数相手に囮を引き受け、その上で返り討ちに出来る猛者。
そんな人間、我が国にいるのでしょうか?
そんな事を思案していると、森を見に行っていた騎士が一人、急いで馬を走らせて報告に来ました。
「隊長!森の入口付近で一人の男性を確認しました!他の者は辺りを警戒し―――」
「早くその場所に案内してください!」
その者の報告を遮り、私は案内を命じました。
早く、あの御方の元へと向かう為に。
辿り着いた場所は先程の場所と同様でした。
いえ、それよりも遥かに酷い惨状。
その中央付近にある岩にもたれ掛かって座る一人の男性。
「そ、そんな…………タケシ様っ!」
「ひ、姫殿下!お待ち下さい!」
私は衣服が血に染まるのも厭わず、一目散に彼の下へと駆け寄ります。
その横には背負っていた大きな剣が刺さっており、周辺には狼達との戦いで損傷したであろう武器が転がっていました。
彼本人も真っ赤に染まり、それが本人の血なのか返り血になのか判断出来ない程。
彼の下へと辿り着いた私はその場に膝を突き、彼に呼び掛けます。
「タケシ様!タケシ様!私です!クラリスです!応援が遅くなってしまい、申し訳ありません!」
「姫殿下!もう彼は…………っ!」
私の後を追ってきた隊長は「そんな事をしても無駄だ」と私を止めようとします。
私もこの惨状を見て理解しているつもりですが、心が納得していません。
私の……私達のせいで…………
「んん〜…………。あ、姫様。本当に助けに来てくれたんですね。ありがとうございます」
「「へ…………?」」
予期せず返ってきた言葉に、私と隊長からは変な声が漏れました。
「あ、あっ!すみません!お召し物が汚れてしまいましたね!直ぐに…………って入れていたハンカチも血まみれでした!どうしましょう!?」
「う…………」
「う?」
「うわーーん!タケシ様ーー!!」
「ちょっ!ちょっと!?姫様ぁ!?」
生きていてくれた嬉しさのあまり、私の目からはポロポロと大粒の涙が溢れ、そのままタケシ様に抱き着きました。
困惑していたタケシ様も、事態を察してくれたのか、無理に引き剥がそうともせず、私が落ち着くまで、背中をトントンと叩いてくれていました。
まるで、娘をあやす父親の様に―――
主人公、無事生還。
どうやって生き残ったのか?
前話の最後に使った術の正体は?
そんな疑問は次の話で分かります。
だ、だからブックマークとしおり、忘れないでよね!?




