剛士、走馬灯を見る〜異世界生活九日目⑤〜
前半〜中盤過ぎまでは主人公の家柄の説明になります。
外伝にしようかとも思ったたのですが、主人公に関わる大切な要素だったので、過去回想的な形で本編として掲載しました。
僕の生まれ育った家は、他と少し違いました。
傍から見れば高校教諭の父に看護師の母の両親に、5つ離れた兄と3つ離れた姉、そして僕の至って平凡な5人家族でした。
じゃあ何が違うのかって?
直ぐにネタバレしちゃいますと、現代までに渡る実践武術の元祖と言うか始祖が興した家系なんです。
因みに父方では無くて母方で、父には内緒です。
母の旧姓は大伴。
その忍者の祖が、一説では聖徳太子に仕えていたとされる志能便、または志能備と呼ばれま大伴細人なる人物。
分かりやすく言えば、甲賀・伊賀で有名な忍者です。
その二家が活躍したのが鎌倉・室町時代で、その後も江戸時代くらいまでは歴史にもちょこちょこ顔を出しています。
一方、直系である僕達の先祖は裏方である忍者の更に裏方。
歴史上敢えて陽の目を浴びる事無く、現在に至る迄継承し続けられてきたその技能は、影ながら日本という国を支え、現代においても、とても人に言えない様な事を秘密裏に行っている。
まぁ、早い話が暗殺稼業って事ですね。
現代社会にも案外あるんですよ、これが。
今の僕達の長は母の父、つまり僕のお祖父ちゃんに当たる人です。
本家である僕達は、依頼の中でも特に難易度の高いものや機密性の高いものを18歳の頃からこなしています。
それ以外は日本中にいる分家の人達がやってくれているみたい。
僕の上司にも分家の一員がいるので、独自のルートから連絡して休みを調整してくれています。
いやー、有り難いのやら迷惑なのやら。
現在は暗殺稼業と言っても、そればかりでは無く、秘密裏の要人警護や汚職の証拠集めをしたりするので、裏の探偵とかSPみたいになってますけどね。
僕はその中でも対複数に特化した暗殺専門。
兄は父と同じ高校教諭として、子供達の未来を守る為に汚職や不正の証拠集め等の潜入特化、姉は母と同じ人を救う看護師に就いている為か警護を得意としています。
因みに母は現在は引退していますが、元々オールラウンダー。
今は情報収集を専門としているみたいです。
幼少の頃から人の殺し方や治し方、サバイバル術に心理学、果ては房中術に至るまで徹底的に叩き込まれる。
房中術を修めているのに童貞となのか?とのツッコミは無しで。
僕が悲しくなります。
そんな数々の暗殺任務をこなしてきた僕が、依頼を成功させた上で自分を守る為に編み出したのが、《傀儡遊戯》や《童ノ戯レ》等の脳の活動領域支配術。
以前説明した通り、自身の身体の全てを正確に掌握した上で、脳の活動を自分が望む分野に特化させる事で、その分野において他の追随を許さない能力を発揮出来る技能。
編み出してからこれまで僕以外に修得出来る者がいない現状、使い手は僕一人。
更にそのデメリットのせいか、禁術とまで呼ばれる始末。
何か腑に落ちませんよね。
それを操り数々の依頼をこなし続けた僕は、20歳を超えた頃には【史上最恐の暗殺者】と呼ばれ始める始末。
【強】じゃなくて【恐】なのもまた腑に落ちませんが。
そして大学を卒業と同時に僕は直系であるにも関わらず長である祖父に「その禁術は我一族とら異なる力だ。それならば、剛士は一族から離れ、別の流派を名乗る事を命ずる」と言われました。
そんな話を受けて「ん?つまり勘当?」と思いましたが、そうでは無く、元の流派と対等の別流派として一人立ちしろって事だと母に言われました。
この暖簾分けは甲賀・伊賀以来初の偉業らしく、その日の夕食は吃驚する程豪華でした。
父が「ん?今日何かの日だったっけ?」って困惑するくらいには。
そんな僕一人の流派に名前を付けるつもりは無く、何も決めずにいると、母から「いい加減名を決めたらどう?」と言われたので、「無名だよ」と適当に答えたら、いつの間にか「無明流」と名付けられた。
違うよ、ママン…………。
そして、そんな無明流の始祖であり現当主は、何の因果がか異世界で文字通り命を掛けた戦いをしています。
と、思わず走馬灯が見えました。
まぁ無理も無いでしょう。
だって僕は今、何匹いるか分からない程の狼に囲まれているのですから。
辺り一面は血塗れ。
それは僕では無く、転がっている狼達のもの。
4人を逃がしてから既に30分は経過しました。
殺めた狼は既に五百を優に超え、六百に到達しそうです。
にも関わらず、一向に減る気配が無いのは何故でしょう?
「異世界の生物の生態は分かりませんからねぇ……。それでも今の状況が異常な事だけは分かりますけど……ねっ!」
背後から迫っていた狼に槍を叩き付ける。
既に槍の穂先は槍として機能しておらず、ただの少し先端が重い棒。
剣はまだマシなものの、それでも斬るというよりは叩き斬ると呼んだ方が正しい。
「変わらないのはこのメイスとバスターソードだけですか」
メイスは言わずもがな、バスターソードも元々重さで敵を寸断する獲物なので、問題は無い。
しかし、狼の様に素早い相手には向かないのもまた事実。
実質的にただのお飾りになってしまっていました。
「応援は来る気配無しですか……。無事辿り着けましたかね?そもそも僕一人を助けにこんな地獄みたいな場所に来るとも思えませんが…………」
はは……、言っていて悲しくなってきました。
いくら異世界人が珍しいからと言っても、それはあくまで自分の命あってのもの。
その為に命を危険に曝す等愚の骨頂でしょう。
「かと言ってこのまま食い殺されるのも嫌ですし…………こうなったらとことん抗いましょうか」
僕は覚悟を決めて、左手の人差し指をこめかみに当てる。
これは僕が決めた禁術を使う時の合図。
そして今回使うのは先に出た2つでは無い。
「さぁ、いきますよ。《聖母ノ慈愛》」
それと同時にこめかみをトンと一度だけ叩いた。
そこからの記憶は殆ど無い。
気付いた時には既に朝日が顔を出していました。
甲賀・伊賀・無明。
この小説内限定の忍者3大流派です!ドヤァ




