剛士、囮になる〜異世界生活九日目④〜
魔法の出番、終了です。
姫様が創り出した透明・半球状のドーム。
ファンタジー作品で俗に言う、《障壁》とか《結界》と呼ばれるものと同じだと思います。
現代科学では説明出来ない、不思議な現象に興奮はしましたが、それ以上に落胆が大きいです。
まぁ、今はそんな事言っていられないので、現状をどう打開するかを話し合います。
「これで狼達の攻撃は防げますね。このまま諦めるまで待ちますか?」
「狼達は執念深い。目の前に獲物がいると分かっていて逃げ出す筈も無かろう」
貴方は……僕もですが、現状何もしていないのに、何でそんなに一々偉そうなんですか?
「そ、それに……このまま魔法は長くは持ちません…………」
諦めるのが望み薄な上にタイムリミット付きときましたか……。
「どれくらい持つんですか?」
「狼達のこの攻撃頻度であれば…………あと5分程です。申し訳ありません」
なんでやねん!
嘘やろ!
発動までの時間より遥かに短いですやん。
…………て、いけないいけない。
地図でしか見た事が無い関西の血が疼いてしまいました。
でもそれ、時間稼いだの無駄だったのでは?
「姫殿下が謝る事ではありません!こんなに長く発動し続けるのは困難。姫殿下の非ではございません」
あ、やっぱりそうきます?
僕自身、使った事が無いから分からないですが、全力疾走し続けている様なものなんですかね?
それだったらその短さもしょうがない。
うん、しょうがないですよね!
「それにしても、姫様の結界解けたらどうするっすか!?結局さっきと何も変わらないっすよ!?」
「姫殿下に無礼だろうが!口を慎め!」
「生きて帰れたら口でも何でも慎むっすよ!だから、今は現状を打破する何かを考えるっすよ!」
「貴様っ!」
「いえ。ロビンの言う通りです、ゴンゾ隊長」
へぇ〜、あのチンピラ、ゴンゾって言うんですね。
しかも隊長って。
偉そうと思っていましたが、実際に偉かったんですね。
「この中に魔法を行使出来る者は私以外いません。しかも私はこの魔法のみ」
「と、なるとっすよ?結局、俺と隊長とタケシさんが狼達を相手取るしかないっすかね?」
「申し訳ありませんが、そうなりますね…………。ソフィとイルミは護身程度なら可能ですが、この数を相手にするのは正直…………」
「それに私達が姫様の傍を離れては姫様に危険が及びます」
「それは出来ないですぅ」
偉いメイドさんはソフィと言うんですね。
もしかしてソフィアって名前で愛称がソフィなんですかね?
機会があれば聞いてみましょう。
その後も、結局はこの《障壁》が消えたら僕と騎士2人がこの狼達相手に大立ち回りをするしか案が出ませんでした。
少しでも休めたので、身体は大分楽になりましたが、それでも不安が残ります。
流石にこの短い期間で《傀儡遊戯》を使うのは出来れば避けたいですが…………。
そうなると手段は一つですね。
「皆さん、一つ提案があります」
僕はそう言って、皆に考えた作戦とも呼べない作戦を伝えた。
全ての作戦を伝えた後、少し間を置いてからタイムリミットが訪れました。
《障壁》は徐々に消えていき、それに気付いた狼達は今か今かと待っています。
「では、いきますよ!」
完全に消える直前、僕は単身狼達の群れの中に突貫した。
そして、手に持った槍を力任せに振り回し、周りにいる狼を薙ぎ払う。
仲間を屠った僕を食い殺さんとする者と残りの4人を追う者に別れ様とするが、そうはさせない。
僕は飛び掛かってきた狼達を躱し、時に薙ぎ払いながら、4人を追う狼達を仕留めていく。
姫様を守る騎士達も、どうにか善戦しているみたいです。
「狼達!こっちに美味い肉があるぞ!」
挑発しながら追手の狼達の数を徐々に減らしていくと、次第に4人を追う狼は減り、やがて4人を諦めて僕一人に標的を絞りだした。
これが、僕の考えた作戦でした。
僕が狼達全ての注目を浴び、その間に姫様達4人は全速力で近くの農村に向かい、応援を呼んで助けにきてもらうと言うもの。
「ははっ……。自分で言っておいて嫌になりますね。どう考えても間に合わないですよ」
自嘲気味に独りごちる。
なるべく距離を稼いでほしいですが、時折ロビン君は僕の方を心配そうに見てくれています。
良い子ですね、あの子は。
「さて、せめてもの情けです。今から帰るなら、これ以上怪我をしたり仲間を失ったりはしませんよ?」
言葉は通じていないでしょうけど、狼達は僕の態度や雰囲気か気に入らないのか、はたまた警戒しているのか分かりませんが、一定の距離を置いたまま、唸り声を大きくするだけでした。
「はっ!食べようとしていた餌に逆に狩られて情けないですね!それでも獣ですか!?」
更に挑発を重ねる。
いや、内心、『馬鹿ですか!?これ以上怒らせても何にもならないじゃないですか!?』ともう一人の僕が言っている気がしますが、無視です、無視。
僕の挑発に業を煮やした一匹が駆け出すと、それに釣られて周りにいた狼達も一斉に駆け出し、こちらに一直線と向かってきます。
駆け出して来た狼達を刺し、斬り、叩き潰す。
一体ずつ丁寧に、一撃で命を刈り取る。
最小限の動きで体力を温存し、最大限の効果を得る。
どれ程居るか分からないこの群れ相手に、一切の無駄は許されません。
切り札達はギリギリまで取っておき、先の見えない孤独なマラソンが今、始まりを告げた。
果たして、主人公は無事に生き抜けるのか!?
って、死んだらこの小説は次話で終わりになるんだけど!?
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