剛士、国に招待される〜異世界生活八日目③〜
現在の自分の状況と目の前にいる女性、クラリス姫様の現状をざっくりと把握したところで話は次に移りました。
「兎も角、命を助けていただいた手前、御礼をしない訳にはいきません。是非我が国ローゼンにいらっしゃいませんか?」
「えぇ〜と……僕まで命を狙われたりしません?」
「それは問題有りません。身分を隠して私の護衛だと行った場合はその危険も有りますが、異世界人と最初から説明するとなれば話は別です。むしろ国賓扱いされると思いますよ」
「……それは異世界の技術を求めて。って事ですか?それとも優秀な戦力として。ですか?」
「どちらもです」
うわぁ……はっきりと言いましたよ、この人。
でも国の、しかも王族の血が流れているとしたらこの行動は当たり前なんでしょう。
我が身は国の為に。
そんな感じですかね?
日本人の僕には中々理解出来かねますが…………。
「決して悪い様には致しません。衣食住は勿論、ご要望は可能な限り答えさせていただきます。だからどうか!」
そう言って立ち上がり深々と頭を下げる。
先程の折れでは無く、誠心誠意の土下座に等しい最敬礼。
一国のお姫様(しかも超絶美人)がここまでしてくれているを断れる筈があるでしょうか?いや、無い。
遠巻きから見ている方々の目線も痛いし、急いで顔を上げてもらいましょう。
「分かりました、お邪魔させていただきます。だから顔を上げて下さい」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
満面の笑みを浮かべる絶世の美女に両手を握られて嬉しく無い男性はいるでしょうか?いや……辞めましょう。さっきもやったし。
ただ、僕みたいなまともに女性と接した事無い童貞には刺激が強く、自分でも分かるくらい顔が赤くなってしまっています。
それを見た姫様は微笑みながら顔を寄せ、耳元でこう囁きます。
「タケシ様が望むのであれば、この体、貴方に捧げます」
はい、頭が爆発しました。
もう何も考えられません、完全に美人局に引っ掛かる男に成り下がりましたね。
そんな訳で、姫様は一度僕から離れて護衛の兵(騎士と呼んだほうが良いのかな?)とメイドさん達を集めて事情を説明。
一応では有るが納得してくれたみたいなので、森の探索を切り上げ国への帰路に同行する事になりました。
出発前に確認したところ、倒れていた騎士達は残念ながら誰も息をしていませんでした。
遺体を連れて帰るにも移動させる手段も無いし人数も足りないので、首に掛けている騎士達の名前が彫られたドッグタグを回収して遺品として持ち帰る。
それ以外も「必要な武器や防具は使ってもらって良いですよ」と言われました。
他の騎士達も折れてしまった槍や刃こぼれした剣を亡くなった兵士の者と取り替えています。
それに習って僕も槍を一本、貰う事にしました。
その際に手を合わせていたら、兵の一人に「何をしている?」と尋ねられたので、「僕の国では死者への祈りをこうしていた」と伝えたところ、同じ様に手を合わせていたので、きっと仲が良かったんだと思う。
その道中は何度か魔物に襲われたものの、そこまで強くなかったので難無く撃退。
その中には牙兎もいたので、食料として処理。
お姫様もそれを見ていたが、特に悲鳴を上げたりしなかったので現場慣れしているんでしょうか。
まぁ、置かれている状況を考えると納得。
その後、行きに野営を行ったち言う開けた場所に辿り着いたので、その日はそこで一泊する事になった。
簡易的なテントの様な物を張り、その中にお姫様とメイドさんの一人。
周りには残り二人のメイドさんが控えており、少し離れて騎士達は火の番と警戒をしている。
僕はと言うと―――
「はぁ……。人に会えたのは嬉しいけど、流石に居心地が悪い……」
いつも通り木の上に。
「ロビン君とイルミさんはまだ良いですが、他の人達がなぁ……」
ロビン君は一緒に手を合わせた若い騎士、イルミさんは新人のメイドさんらしく、料理の手伝いをしたら仲良くなれた。
この二人に関しては姫様同様、比較的良好な関係を結べたが、問題は残りの人達。
メイドさん二人は『未婚の見ず知らずの男』として警戒されており、騎士二人、特に最初に突っ掛かってきた方は明らかに敵意を剥き出しの状態。
「そんな人達の同じ空間になんてとてもじゃないですが安心出来ませんよ」
野営地が決まって早々に、一人木の上で休む事を伝え、夕食後にこの場所に登ってきた。
登っている際に「鈍重な土人でも木登りは出来るんだな」とか言われた気がするが無視無視。
「それに気掛かりな事があるんですよね」
僕と出会ってから明らかに挙動がおかしい人物が一人。
勿論、僕を警戒しているがそれ以外に何かありそうな気がしてならない。
今回その場を離れたのはその人物の監視の意味合いも兼ねている。
「杞憂に終わってくれれば良いんですが……」
こういう時の勘は残念ながらよく当たる。
これもお家柄でしょうね。
しかし、僕の心配を余所に何事も無く、朝日が昇る時間を迎えた。
因みに、夜に襲ってきた魔獣(とこの世界では呼ぶらしい)達は、こっそりと処理しておいた。
念の為、魔石を貰って良いか後で聞いておきましょう。
正解は「そもそもこの世界の言葉が昔こちらを訪れた人から教わった言葉だから」でした。
うん、簡単でしたね。
尚、度々主人公が呟いたり、戦いの際に使ったりする技に関するお家柄はもう少ししたら説明されます。




