剛士、異世界人と遭遇する〜異世界生活八日目〜
ここから第二章に突入します!(章分けするのがだいぶ遅れましたが)
主人公以外で初の登場人物!
この出会いは吉と出るのか凶と出るのか。
予想会の出来事により、ダンジョンで一夜を明かす事になりましたが、思いの外快適でした。
敵が近付いてくる気配はあったものの、一定の距離以上は近付かれる事は無く、眠りを妨げられずに済んだのでこちらに来て一番快適な夜でした。
「さて、そろそろお暇しましょうかね。助けてくれたスライムさんは見当たらないし、今度またお礼に何か持ってきましょうか」
軽くストレッチをしてその場を後にする。
階段を上がっている最中に一度後ろを振り返ると、小さなスライムがそこにいた。
サイズ的に違うと思いつつも、何となく手を振る。
「あれ……?あの個体も手を振り返してくれてる?」
小さい触手を目一杯伸ばしてブンブンと振ってくれていました。
何時までも終わりそうにないので、最後に一声だけ掛けて進む方向に目を向け、地上に続く階段で地上を目指す事にしました。
「今日は曇りですか……。雲が厚いので一雨来そうですね。その前に出来れば雨を凌げる拠点が見付かれば良いですが、そう都合良くいかないでしょうね」
この世界に来て初めての曇天。
それも相俟って、森に入ると夜が訪れたかの様な暗さでした。
「視界が悪い。これは森の中の探索は不可能ですね…………」
諦めて湖の方へ戻ろうとすると遠くから微かに聞こえる獣以外の声。
「この声は……人間ですか……?って事は森の終わりが近い?」
その声で期待に胸を膨らませますが、聞こえてくる声はそう穏やかでは無さそう。
「肉食獣に襲われているんですかね?貴重な人との接触のチャンス、少し不安ですが逃す訳にはいきません!」
そうして僕は声が聞こえる方向へなるべく音を立てず、だがなるべく急いで向かう事にしました。
声の主が目視で確認出来ると同時にその凄惨な状況も知る事になりました。
六体のオークに囲まれたこちらに来て初の人間。
しかし、鎧を着た兵士らしき人物達が十名、地面に倒れており、分厚い鎧の上からは生死を確認出来ず。
声の主らしき女性は鎧を着ているものの比較的軽装で、まるで何処ぞのお嬢様が興味本位で森に入り、その洗礼を受けている様に見えました。
その女性を守る様に囲む兵士が三人とメイドさんが三人…………ってメイド!?
「まさか本当にメイド服を着たメイドがいるなんて……異世界最高じゃないですか」
メイド服にテンションが上がった僕は、更に加速。
「助太刀します!」
と一声だけ掛けて、了承を得ぬままその人達を襲っているオークの内の一体の首をショートソードで斬り飛ばします。
そのまま身を翻し、まずは動きを止める為に腰に挿してある二本のナイフを投擲。
狙い通り、二体の脚へ深々と刺さり、膝を折りました。
「まずは二体の足止め完了。次はあの人達に一番近いオークですね」
パチンコを取り出して、牽制として数発放つ。
ダメージは殆ど無いでしょうが、気を逸らせたのであれば僥倖。
その隙に一足飛びでそのオークに近付き心臓を一突き。
「ん、心臓ってこの位置で良いんですかね?まあ念の為…………」
突き立てたショートソードを力任せに振り上げ、上半身を真っ二つに。
突然現れた謎の人物に仲間が二体も殺られ、二体は怪我をさせられてる事に怒ったのか、元々襲われていた人達には目もくれず、残りのオークが僕に襲いかかってくる。
「実力差も分からないんですか、貴方達は」
先程までの戦闘で完全に把握しました。
ここにいるオーク達、ダンジョンのボスオークよりも数段弱い事を。
「アレを使う程でもありません。そのままいきましょうか!」
ボスとは違い、お粗末な木の棍棒を振り回そうとしているが、そんな隙を与える訳も無く、ショートソードでは届かないと判断した僕は、昨日手に入れた相棒を背から抜き放ち、力任せに横薙ぎ一閃、オークの両腕と胴体をさよならさせる。
「あ、危ないっ!」
女性の声が聞こえたと同時に半回転しながら手に持ったバスターソードを、その勢いのまま斜め上へと振り上げる。
その剣閃は見事にオークの首を捉え、戦闘不能に追いやる。
「あとは貴方達だけですね…………さようなら」
残っている脚をやられて未だに動けずにいたオークにゆっくりと、しかし油断無く近付き、二体の首を落とす。
「ふぅ……。何とか無事に終わりましたね。あの、大じょ―――」
オークの殲滅を確認した僕は助けた人達の安否を確認する為に声を掛けて近付こうとしたが、目の前に槍を突き付けられ、言葉も途中で遮られる。
「貴様!何者だ!」
「た、ただの旅人です……。戦っている声が聞こえたので、急いで駆けつけたのですが…………」
「旅人が!?こんな場所に!?つくならもう少しマシな嘘をつけ!」
「え?いや……その…………」
「ちょっと!その御方は私達の命を救ってくれた恩人なのですよ!他のお二人も、直ちに武器を下ろして下さい!」
「しかし……殿下…………」
「命令です。武器を下ろしなさい」
「は、はっ……」
女性の一喝で渋々ながら武器を下ろす兵士達。
まだ敵意はビンビン感じるけど、とりあえず一安心ですね。
「旅の御方。此の度は私達の命を救っていただき、誠にありがとうございます。皆を代表して私が御礼を申し上げます」
とても洗練された動作で左胸に手を添え、頭を下げる女性。
それに続いて兵士達も同様に、メイドさん達はスカートの裾を摘み上げ、膝を折り頭を下げていた。
(あ、あれがカテーシーと呼ばれるやつですね!初めて見ました!)
とテンションが更に爆上がりしたのは内緒です。
そんな事を考えていると、無言な僕を不安を覚えたのか、女性がこう続けた。
「旅の御方。良ければ御礼をしたいと思ますので、是非お名前を教えていただけませんでしょうか?」
はい、来ました。
さて、どう答えるのが正解なんだろうか?
偽名?いっそ本当の事を伝える?
「異世界から来ました」
なんて信じてもらえる筈も無い。
さて…………本当にどうしましょう。
先程から不自然な程に自然に言葉を交わす事が出来ている事に気付かないまま、僕はどう答えるべきか頭を捻っていた。
察しの良い皆様はお分かりでしょうが(と言うかそもそも難しくも何とも無い)、主人公は特にチート能力を与えられたりしておりません。
それにも関わらず、『何故か』会話が出来ていますね。
答えは次の話で。




