ゴーシィ、2度目の遭遇〜異世界生活百五日目⑦〜
引き続き三人称視点スタートです。
途中から主人公視点に変わります。
ロックアープの群れを焼き尽くした灼熱の炎。
それを放った主は姿を見ずとも推測出来た。
今回のサバイバルの原因になった森の主……即ち竜だ。
気配、接近。
接敵まで約300秒。
退避……不可能。
戦闘……非推奨。
勝利……不可能。
生存……絶望的。
現在の剛士の能力をフル活用しても生き残るのも逃げるのも不可能と答えを導かれてしまう。
ロックアープ達もそれが分かっているのか、何かに取り憑かれたかの様に大声を上げ逃走を始めた。
しかし、絶望は終わらない。
彼等が逃げ出した方角から轟音と共に何かが空高く舞い上がる。
落下物を回避。
敵、逃走方向からも脅威接近。
生存可能性、更に低下。
剛士が正気であれば「0%より下があって堪りますか!!」と叫ぶ場面だが、生憎それは今出来ない。
川から此方に向かってくる竜と同程度の脅威となれば考えられる事は一つだった。
森より脅威、接近。
鬼族より得られた情報から鉱竜と予想。
森の主と山の主がこの場に集う。
先程と同じく剛士が正常であれば「ファンタジー世界で何で大怪獣戦争が起こるんですか!?」もツッコんでいただろうが現在そのツッコミ役は不在である。
剛士の脳は先の戦闘以上に脳をフル回転させ、沸騰しそうになりながらもどうにかこの窮地を脱する方法を模索するも、何百・何千のシミュレーションをしてもその結果は変わらない。
これ以上は無駄だと判断した剛士の身体は2つの能力を解いて成り行きを見守る事に決めたのだった。
「いや〜……今2つを解かれたら僕動けないんですけど……。僕の脳の判断基準どうなってるんですかね…………?」
限界を超えた体は僕の抗う意思をゲラゲラと笑いながらガン無視して地面に倒れ込んでしまいました。
しかもうつ伏せ。
窒息しますよ、これ。
どうにか首だけは横に動かして窒息死を回避しましたが、どうしましょう。
地面の揺れと気配からそろそろ2体がこの付近に来ちゃいますね。
ゴクウさんは……うん、僕よりは遠いですがあそこでまだ気を失ってる。
「これは神に祈るしかないですねぇ…………。いや、こんな状況にした神を恨むべきな気もします」
なんて現実逃避をしていますが時間が止まる訳も無く、2体の絶望が姿を表しました。
川岸の方角からは前日遭遇した森の主。
逆からはロックアープの鎧とは比べ物にならない程頑強そうな鉱物の鎧を身に纏った鉱竜。
対峙した両者は少しの距離を開けて睨み合っています。
まるで先に動いた方が負けと言わんばかりの静寂。
…………ん?
今一瞬森の主が此方をチラリと見た気が……。
そこから事態はいきなり動き始めました。
鉱竜も森の主が視線を外した事に気が付いたのでしょう。
隙を見付けたと言わんばかりに、無数の棘が生えた戦鎚の様な長い尾を振り、そこに生えていた鉱物の棘を森の主目掛けて飛ばしました。
森の主は視線を戻すとその棘を避ける様な素振りを見せず口を開きます。
そこから先程ロックアープを燃やし尽くした炎の吐息を吐き、飛んでくる棘を燃やし溶かして身を守りました。
…………って、いやいやいや。
鉄って溶ける温度1600℃くらいですよね?
しかも、ほぼ一瞬で燃え尽きるって事は…………考えたくも無いですね。
生体火炎放射器のレベル超えてますよ、アレ。
更にその炎がそれだけに留まる筈も無く、勢いそのまま鉱竜に襲い掛かります。
流石に鉱竜自体が一瞬で融解する事はありませんが、それでも表面が徐々に赤熱化し始めました。
実際の火事による死亡の原因は焼死と言われます。
しかし、焼死は一酸化炭素中毒と火傷のどちらかを特定出来ない場合が殆ど。
今回はそれに加え、鉱物が燃える事による一酸化炭素を含む有毒ガスの三重苦。
鉱竜もそれを分かっているのか死なば諸共と森の主へと突進します。
…………違う。
鉱竜の狙いは森の主じゃ無い。
その後方にある川の水による自身の消火でしょう。
僕の予想通り、鉱竜は森の主の横を通り抜け、木々を薙ぎ倒しながら川に一直線。
その間も森の主は炎を吐き続け、鉱竜の命を絶たんとしています。
ってか、鉱竜が森の主のこちら側を走り抜けたら僕達も燃えていましたよね?
彼が走った側の木々が全部燃え尽くされて半円状の不毛の大地みたいになっていますし…………。
鉱竜が川に辿り着くまで後少し…………。
しかし、健闘虚しく川岸に足を踏み入れた所でその巨体は崩れ落ち、必死に藻掻いていましたが徐々にその動きは弱々しくなっていき最後は動かなくなりました。
まとっていた鉱石の鎧はドロドロに溶けており、身を守る筈が寧ろ動きを阻害しており、その赤熱具合から全身どころか熱された空気を含めて内臓も多分焼けているでしょう。
「「さて、同格の相手は処理したから、次はこの這いつくばった虫ケラをどうするか?」ってところですかね?」
森の主にとってこの場で唯一同格だった鉱竜の息の根を止め、この場に残っているのは未だに気を失っているゴクウさんと辛うじて意識がある僕だけ。
今の僕達……例え満身創痍では無くても、彼にとって脅威にはなり得ないだろうが、僕に至っては一度立ち向かった事がある手前、どう判断されるか分かりません。
僕から一切目を離さずゆっくりと近付いてきているが、いざとなれば即座に僕の息の根を止められる様に構えていますから、下手に動かない方が賢明でしょう。
やがて息が掛かる程の距離までやってきて僕が動けないのを良い事に、じっくりと観察しています。
僕の状態を森の主なりに把握したのでしょうか?
多分、殺す価値も無いと判断されたみたいです。
それは有り難いのですが―――
「何で僕の隣で眠り始めたんですかねぇ!?」
観察を終えた森の主は僕の真横に横たわりそのまま目を閉じてしまいました。
結局殺されはしなかったものの、生きた心地が一切しないまま僕は限界を迎え、意識を手放したのでした……。




