ゴーシィ、己を傀儡と化す〜異世界生活百五日目⑥〜
途中から三人称視点が混ざります、読み難くいかもしれません。
また、グロテスクな表現がありますのでご注意下さい。
僕の窮地に駆け付けてくれたゴクウさん。
静止をする間も無くロックアープに向かって単身立ち向かっていきました。
巨体を活かした力任せの拳を振るいますが、相手も巨体。
その上、鎧を纏っているので重量はあちらに分があるのに加えて多勢に無勢。
善戦していたのはほんの少しの時間のみ、直ぐに囲まれて袋叩きにされてしまいます。
「ゴクウさん…………」
動きたくても身体が動きません。
立ち上がろうにも力が入らない。
「やっぱり無謀だったんですかね…………」
単身で森の厄災とも呼べる奴等に挑むのは馬鹿のする事。
いや、馬鹿でもしないでしょう。
でも…………。
それでも…………
「ゴクウさん、僕も同じですよ…………。貴方が……友達がピンチの時に何もせずにいられる訳無いでしょうがっ!!」
全身に身体強化を掛け、その上でこめかみを一度叩きました。
《傀儡遊戯》と身体強化の合わせ技。
痛みで動かなければ、痛みを遮断すれば良い。
骨に異常があるのであれば強化した筋肉で支えてしまえば良い。
僕は脳で、精神で操られる傀儡に成り下がる。
例えこれが、古から生きる者達に禁じられた術だとしても。
「すみません、約束破ります…………」
「駄目に決まっているでしょ?ただでさえ貴方のソレはとても危ないものなのよ?」
「そうですね。脳はとても繊細な臓器です。一歩……いえ、半歩でも誤れば貴方は貴方では無くなります」
「えぇ……。そんなに危険なんですか……?」
身体強化の魔術を覚えたある日、ふと思い付きました。
《傀儡遊戯》と身体強化の魔術を合わせたら、より強くなれるのでは無いかと。
念の為相談してみたらまさかの全否定。
詳しく話を聞けば、ただでさえ生命維持のリソースを戦闘に無理矢理回して脳に負担を掛けている状態なのに、身体強化によって更に負担を強いる事になるそう。
その結果、運が良くて廃人、最悪死亡らしいです。
比較的に負担の軽い|《童ノ戯レ》《ワラベノタワムレ》程度ならまだ良いそうですが、《傀儡遊戯》は絶対に禁止。
でも、不可能では無い事が分かっただけでも上々です。
「本当に駄目よ?」
「もしもの時はとか考えていたりしませんよね?」
こういう時は沈黙に限ります。
沈黙は金。
「「絶対に駄目だから(ですから)ね!?」」
「…………はい」
うん、沈黙しても無意味でした。
でも、心配してもらえるのは嬉しかったです―――
《傀儡遊戯》並びに身体強化魔術発動完了。
最適化…………完了。
殲滅対象、前方に確認。
救出対象、同じく前方に確認。
早急に救出の必要有り。
早期殲滅の必要有り。
殲滅…………開始。
ゴーシィ……いや、剛士は禁じられた2つの術の同時発動に成功した。
痛みを無視し、動かない筈の身体が勝手に動き出す。
その動きは人間の限界を遥かに超えていた。
持っていた二振りの獲物は無い。
しかしそんな事は構わず一番近くのロックアープの元へ向かい、繰り出された剛腕による一撃を紙一重で避け、そのまま相手の背後に回り込む。
角度及び速度……計算完了。
現在の腕力による実行……可能。
敵の背を駆け上がり首に取り付いて片方の手で頭をもう片方の手で顎を持ち、瞬時に計算された角度と速度に従い腕力任せで強引に頚椎を捻り折る。
対象の沈黙を確認。
効率化の為、武器を会得……完了。
自分達より遥かに弱い人間にその身一つで仲間がやられた事で、ロックアープ達が動揺する。
その隙に先程手放してしまった二振りの刀を拾い、直ぐ様次の獲物目指して駆け出した。
弱点……発見。
眼球……脆弱。
目標、敵、両目。
それまでの運動能力と反射神経では狙えなかった部位に目標を絞り、瞬く間に数体のロックアープの目に刃を突き立て、そのまま脳へと侵入させ絶命させる。
どんなに強固な鎧を纏っていようと、関節や目・口・鼻の感覚器迄は覆う事は出来ない。
そんな事をすればたちまち動く事が出来ず、五感を封じられ、ただ立ち尽くすだけよ的になってしまう。
そんな当たり前の弱点を瞬時に、正確に狙えるかはまた別の問題であるが、今の彼はそれを可能としていた。
攻撃、有効。
戦闘、継続。
残時間…………僅か。
速度、上昇。
負担……増大。
任務…………遂行。
有効な手段を見付け効率良く敵を殲滅しているが、残りの彼の体力を考うるにそう長くは続かない。
その為、身体への負担が増えてでも速度を上げて敵の殲滅を優先し始めた。
もう何体目か数えるのすら億劫になる程のロックアープの眼球を穿つ頃には、流石の彼等も目の前の人間の脅威を感じ始めていた。
中には逃げ出す個体も出てきており、敵を全滅……とは行かずとも、後少しで剛士とゴクウは助かる一歩手前できていた。
対岸に脅威を感知!
全力で後方に退避!!
突如、効率化している筈の動きと思考に焦りが生じる。
そして剛士が全力で後ろに飛んだ直後、それまでいた場所一帯を灼熱の炎が包み込んだ。
その炎はその場にいたロックアープを周りの木々ごと燃やし尽くしてしまう。
状況……最悪。
脅威度……最大。
自分及び救助者の生存確率―――
0%。




