【番外編】剛士、異世界の力関係を知る
本編の続きではありますが、六日目と七日目を跨いでしまうので、今回は番外編としました。
読み飛ばして頂いても構いませんが、一応今後の話にも少し繋がりますのでぜひご覧下さい。
※本日二話目の更新。前話を読んでない方は先にそちらをお読みください。
皆様、こんばんは。
僕は今信じられない光景を目の当たりにしています。
本日、ダンジョン一階のボス部屋を攻略し、地上に出る為に来た道を引き返している最中にまたもやスライムと遭遇しました。
警戒はしたものの、特に攻撃をしてくる訳でも無いので距離を保ちつつ、地上の階段を目指して歩き続けていました。
帰りの道中、ゴブリンやホブゴブリンに遭遇しましたが戦う気力も無く、なるべく避けながら、やむを得ない場合は相手の動きを鈍らせる程度に攻撃しつつの移動です。
僕が傷付けて動けなくなったゴブリン達は、後ろから付いてくるスライムに捕食されていました。
この中で一緒に生活してるとは言え、やはり共存とは言い難いみたいですね。
僕的にも後ろから追いかけられる心配が無くなるだけなので、好き放題食べさせてあげます。
やっと地上に続く階段に辿り着き階段を登る途中、少し後ろが気になったので振り返りました。
どうやらスライム(ダンジョンの魔物は?)はダンジョンから出られないらしく、階段まで付いてくる事は無さそうです。
「後ろを守ってくれてありがとうございました。では、お達者で」
と、何となく声を掛けて手を振り、その場を後にします。
地上に出たら既に日が落ち、夜になっていました。
今から水を汲んで火を熾し、獲物を狩るのは難しいと判断し、直ぐに休もうと鳴子の準備をする為に木の枝を拾い集めようと思いました。
しかし、そこで今一番会いたくない奴に遭遇。
「また貴方ですか。蛇はしつこいと言いますが、本当なんですね」
先日遭遇した大蛇がダンジョンを囲む茂みから姿を現しました。
現在、先日より武器や防具は充実しているものの相手が有利な夜に加えて、先の戦闘で既に身体は疲労困憊。
正直まともに相手をしたくありません。
「どうしましょうか…………あ、そうだ!」
思い付いた手段。
それは、ダンジョン内に戻る事でした。
ダンジョンに生息していたスライムは外に出られない。
だったら、外の魔物はダンジョンに出られないのでは無いか?
そう思い立ち、急いで来た道を引き返します。
「僕が入れるから貴方も入れますよね、そりゃ」
目論見は見事に失敗、現実はそう甘くはありませんでした。
とりあえず階段で戦うのは拙いので、階段を降りきったダンジョン内で迎え撃つ事にしました。
見送ってくれたスライムも今は何処かに行ったのでしょう、見当たりません。
「腹を括ってやってやりますよ!」
巨大な蛇相手に充分と言えない広さですが、それでも明るい分まだ外よりマシ。
ショートソードとメイクを構えて、迎撃態勢に移ります。
巨大蛇は僕を見下ろして、威嚇行動。
さぁ、襲いかかってくるぞ!というタイミングで、蛇に異変が起こりました。
「え?どうしたんですか?」
突然蛇が僕には見向きもせず、暴れ出しました。
念の為少し後退して距離を取り警戒しますが、一向に襲ってくる気配はありません。
むしろどんどん動きが悪くなっていく一方。
そして冒頭の台詞に繋がります。
「あ…………。あれはさっきのスライム…………ってデカくないですかね!?」
蛇の尻尾の方からこちらに向かってきたのは先程別れたスライムでした。
いや、正確には同一個体か分かりませんが。
「もしかして……蛇を食べてるんですか?あの巨体を?」
既に動かなくなった巨大蛇の長かった体は残り三分の一程。
ゆっくりとマイペースに進んでくるスライムに体を包まれると、その部分は溶ける様に消えていき、最終的には骨も残らず食い尽くされてしまいました。
「食べた分増殖してどんどん巨大になるんですか……。いや〜今からアレとやり合うのは本当に勘弁ですね……」
蛇を食べ終え、こちらに近付いてくるスライム。
先程まで水溜まり程度の大きさだったのが、今ではダンジョンの道の半分を占める大きさまで巨大化していました。
もうすぐお互いの姿が完全に見える所でピタリと止まり、そのまま動かなくなりました。
「襲い掛かってこない?いや、油断したらいけませんよね」
完全に動かないスライムが少し震えだし警戒を強めると、その体の一部が触手の様にこちらへ伸びてきます。
無駄だと分かっていても、それを斬らんとショートソードを構えましたが、相手の行動に僕は更なる混乱を強いられました。
「…………触手の先が左右に揺れてる?」
僕の剣が届くか否かの所で体と同様に触手は止まり、その先を揺らし続けています。
「何かを探っている……?それにしてもずっと終わらない。ん?もしかして…………」
先程別れた時の事を思い出して、手を振ってみました。
すると触手は更に早く、ブンブンと振られる犬の尻尾の様な動きをした後、本体がぷるぷると震え出しました。
「え?やっぱり間違い?…………いや、帰っていきましたね。あれで正解だったのでしょうか?」
心做しか満足気(に見えた)なスライムはそのまま僕とは反対方向へと戻っていきました。
「とりあえず…………今日はもうここで一夜を明かしましょう」
疲れた身体に混乱する頭はもう考える事を放棄し、僕はこのダンジョン内での野営を敢行するのでした。
スライム>巨大蛇
殆どの攻撃が効かない群体+何でもかんでも食べて直ぐに溶かしていく性質を持つスライム。
弱い訳が無いですよね。
この話にて第一章終了、次回より第二章が始まります(2024/07/25に章追加)。




