ゴーシィ、鬼の話を聞く〜異世界生活百五日目〜
サンゾウさん・サゴジョウさん・猪……ボビィさんと出会い、改めて事の経緯を説明してから一夜明けました。
いや、一夜明けてもボビィさんの名前が猪八戒じゃない事には納得がいかねぇよ!?
…………と言っていても仕方無いので現実を受け入れる事にします。
昨夜は僕の話で終わってしまったので朝食を取りながら4人の話を聞く事にしました。
「僕の話は昨日の時点で殆ど伝えましたが、そちらはどの様な経緯でこの森に?」
「ガォガィガァガァガィガァ(オイラ達は)―――」
「ボビィ、君が話しても伝わらないだろう?私が代わりに話すから静かにしておいてくれ。2人も良いかな?」
「ガゥン(うん)…………」
「アァ」
「ワカッタ」
明らかに落ち込むボビィさん。
話したいのだろうけど、僕が言葉が鬼語を知らないのでどうしようもない。
代わりにサゴジョウさんが話してくれるみたいだけど、この人は何処で言葉を知ったんだろう?
なんか言い回しが貴族みたいにキザだし。
サンゾウさんもゴクウさんも彼が話すのが一番スムーズだと思っているのか、首を縦に振っています。
「ゴクウから何処まで聞いたか分からないから最初から話すよ。もしかしたら知っている事があるかもしれないけど―――」
そう言って、サゴジョウそんは先ず4人の関係性から話し始めました。
4人は同じ鬼族の村で育った幼馴染みたいなものらしい。
先日聞いた通りサンゾウさんとゴクウさんが姉弟、サゴジョウさんとボビィさんは家がお隣さんで歳も10違うだけらしい。
10歳違えばだいぶ違うと思うんですが、長命種からしたら誤差みたいなものだと言う。
因みに鬼族の平均寿命は大体300歳前後、最長寿命は800歳らしい。
平均と最長でかなり差がある気がするが何でも、鬼族が好んで住む場所は地形と言い周りに生息する生物と言い、危険な場所が多いので、寿命を全う出来る者が少ないのが原因らしい。
じゃあ安全な所に住めば?と言うのは野暮だろう。
そんな子どもの頃からよく一緒に遊んでいた4人は大人になっても行動を共にし、今回村の長からの命で森へと降りてきた。
村の長に命じられたのは森での獲物の狩猟と危険調査だった。
近年、村周辺の生物が減ってしまい食料……主に肉が中々採れなくなってしまった。
過去の傾向から見るに、どうやら竜種が動いているのでは無いかと村の年長者達が推測。
森の方がまだ獲物がいるだろうと考え、白羽の矢が立ったのが目の前にいる4人。
意外……と言うと失礼だが、村の中でも上から数えた方が早い実力を有する4人が適任だと言われたらしい。
それに加えて、竜種が現在何処にいるかの調査も並行して行っている。
もし竜が村へと向かってきていたら村を捨てるか迎撃するかの判断をしなければならないし、村へと向かって来ず、ただの食料調達であるなら特に行動を起こさなくても良い。
その判断をする為に森で竜の捜索をしていた。
普段村から殆ど出ず、出たとしても森には降りてこない鬼族がこの場にいる理由はそんな所だそうだ。
「成る程…………。でも、何でゴクウさんは1人だったんですか?」
「ア…………」
「それは簡単だよ。夜、用を足す為に少し離れた所迄向かった後に元の場所に戻れなくなったただの迷子さ」
「え?」
「迷子」
「本当に……?」
「ウン……」
「何故場所が分からなくなる位離れたんですか?」
「ウ○コ、オト、ニオイ、スル」
「あぁ、成る程…………」
羞恥心なのか迷惑を掛けない様になのかは分かりませんが、その辺りを考慮して離れた結果迷子になった、と。
少し頭が弱いと評価していたけど、割と重症かもしれません。
「そう言えば食料の調達も任務みたいですが、狩った食料は何処に?」
「それが森に降りてきて1日目の夜にゴクウが逸れてしまったからね。狩りを始めるどころじゃ無かったんだよ」
「ガォガェン(ごめん)……」
初日迷子は中々に上級者ですね。
「ゴクウが見付かったからには早々に竜の捜索と食料の調達を始めなければいけない。ゴーシィには悪いが、エルフ達の村の方向は教えるから1人で帰ってもらっても構わないかな?」
「えぇ、それは勿論です」
正直に言えば隣に誰かいる方が安心出来ますが、無理を言う訳にはいきません。
それに今の話を聞いたからには明日は我が身、迷子のゴクウさんを探し回る羽目になったら今度こそ帰れなくなってしまうかもしれませんし、此処で別れるのは有りでしょう。
「そう言ってもらって助かるよ。方角は進んできていた通り。川を上流へと登っていくと途中で二股に別れるから、左の川に沿って歩き続ければ湖にぶつかるよ。そこ迄出れば後は分かるかな?」
「はい、湖にさえ辿り着ければ村の位置は何となく分かります」
「それは良かった。今日一日は竜の調査も兼ねて付き合うよ。明日の朝には私達は山の方へ戻りつつ、食料を確保する。皆も其れで良いかい?」
サゴジョウさんがそう決定して3人に確認を取るとサンゾウさんとゴクウさんは直ぐに同意、鬼語で説明をされていたのか少し遅れてボビィさんが首を縦に振りました。
「じゃあそういう事だから、今日一日よろしくお願いするよ」
「此方こそ、よろしくお願いします」
朝食が終わり、僕達は川沿いを歩き始めました。
気分はまるでハイキング。
サバイバルがこんなに楽しくなるなんて思ってもみませんでした。
このまま何事も無く村へ辿り着く、そんな気がしてきました。
うん、この雰囲気。
必ずこの後良くない事が起こる気がする。
3度の遭難を経験した僕は頭の片隅で鳴り響く警鐘を無視出来ずにいました。
そろそろ登場人物が増えてきたのでこの章が終わった辺りで一度人物紹介を挟みたいとは思っている。
尚、どうなるかは分からない模様。




