ゴーシィ、和解する〜異世界生活百三日目〜
鬼人族の襲来があった事で移動する事が出来ませんでした。
そのまま放置して他の獣に食べたられたりするのも夢見が悪いので。
なるべくこの場から離れ過ぎない様に周囲を探索して食料を集めたり、手作りの釣り竿で釣った魚を新しく熾した焚き火で焼いたりしていると、倒れていた鬼人族が目を覚ました様でした。
「オマエ、ナンデ、オデ、コロサナイ?」
開口一番それですか。
まぁ、弱肉強食なこの世界で負けたのに命を奪われないのを不思議に思うのも分からなくはありませんけど。
「何で?と言われると難しいですが、強いて言うなら話し合いが出来そうだったので」
「ヒト、ジブン、イガイ、コロス」
「自分以外?同族以外とかじゃ無くて?」
「チガウ。ヒト、ドウゾク、コロス」
「あぁ……確かに…………」
僕もつい先日異世界人とは言えヒト族に命を狙われてましたしね。
「でも、逆にヒト族以外は同族を殺さないんですか?」
「コロス、アル。ケド、ドウゾク、コロス、ハジ」
「恥だけど殺す事もある……?」
どういう事でしょうか?罪を犯してしまった場合とか?
言葉が通じる事には通じますが、片言の単語を並べている感じなのでイマイチ真意を掴めません。
「デモ、コロス、アマリ、ナイ。ヒト、イッパイ、アル。ミンナ、ナカマ」
ヒト族以外、特に同一種族であれば致命的な事が無い限り同族は殺す事無く、仲間意識が強いって事なんですかね?
ヒト族の数が一番多いと聞きましたし、少数であればある程特に。
それにしても是非この世界のヒト族にも見習ってほしいところですね。
…………まぁ、向こうの世界でも人同士争ってましたし、何処の世界もそんなもんなんでしょう。
「ヒト族はそうなのかもしれませんが、僕個人としては出来れば同じヒト族とも他の人間とも争いたくはありませんね」
「オマエ、フシギ。ナマエ、ナンダ?」
「今はゴーシィと名乗っています」
「イマハ?マエ、ナマエ、チガウ?」
「一応本名は太田剛士と言います」
「オマエ、マレビト?」
「マレビト……あぁ、稀人ですか。貴方達はそう呼ぶんですね。そうです、僕はこの世界の人間では無く別の世界から来た異世界人です」
「ダカラ、フシギ。リユウ、ワカッタ」
「理解して頂いて幸いです」
成る程、稀人と呼ぶ種族もいるんですね。
確かに異世界転移ものでは稀人とか呼ばれたりする作品も数多くありましたね。
もしかしたら本人が名乗った可能性も否めませんが……。
「兎も角、僕は貴方と敵対する意思はありません。そちらがその気であれば命が惜しいので応戦しますが、出来れば遠慮したいですね」
「オデ、マケタ。カッタノ、ゴーシィ。ダカラ、シタガウ」
「別に勝ったから従えとかは言わないですよ。好きにしてもらえば良いですし」
「タタカウ、シナイ。オデ、マケル、イヤ。イタイ」
「あ、やっぱり痛いのは嫌なんですね」
「ゴーシィ、チガウ?ゴーシィ、エム?ヘンタイ?」
「何でそんな性癖の話になるんですかねぇ!?違いますからね!」
言葉は片言の癖に何でMとか知ってるんですか!?
やっぱり変な知識教えた異世界人いたでしょ、確実に。
と、先輩方にイラッとしましたが、出会った時にふと疑問に思った事を思い出しました。
「そうでした。貴方は鬼人族で間違い無いですか?それとも呼び方が違います?」
「オデ、オニ。ホカ、オニゾク、ヨブ」
いや、まんま鬼族なんか〜い!
「オデ、ナマエ、ゴクウ」
「悟空?それは猿では?」
「サル、チガウ。オデ、オニ」
「そうなんですけど……そうなんですけどっ!」
思わず頭を抱えてしまいました。
いや、だって悟空って言えばあの斉天大聖じゃないですか!?
どう考えてもお猿さんじゃないですかっ!?
…………ごめんなさい、少し興奮してしまいました。
どれもこれも何処ぞの異世界人のせい、そうだ、そう思っておきましょう。
そうじゃないとツッコミが追いつかない。
そもそも後から来る異世界人にツッコませる為にそう名付けていたりしたら負けですが、それは考えない方向で。
「ゴーシィ、アタマ、イタイ?」
「取り乱してすみません、ある意味頭が痛いですが大丈夫です。それよりもゴクウさん、これからよろしくお願いします」
心配そうにこっちを見られたので、大丈夫だと告げて右手を差し出しました。
ん?握手の文化って鬼族にもあるんでしょうか?
そんな心配を余所にゴクウさんは出した右手を握ってくれました。
良かった、握手はちゃんとあ―――
「痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!強いっ!ゴクウさん!握る力が強過ぎますっ!」
「ン?チカラ、クラベル、チガウ?オニ、テ、ダス、チカラ、クラベル」
「違います違います!これは握手です!力比べでは無いですからぁっ!」
「アクシュ?オニ、アクシュ、コレ。」
握手=力比べとか何処の脳筋…………いや、ある意味お互いの力を怪我無く測れるのは結構理に適っているかもしれませんね。
それにしても―――
「だから痛いって言っているでしょうがぁぁぁぁ!!」
「アガァァァァァァァァッ!!」
考えてる間にもこちらの手が一回り程小さい事を良い事に、握り潰さんばかりに力を込められていたので堪忍袋の緒がブッチブチですよ。
身体強化の魔術、更にこめかみを叩いて一瞬だけ《傀儡遊戯》を発動して全力で握り返しました。
別に負けても良いかなと思ったのですが、何となく此処で負けるのも癪だし痛かったので、まぁ…………ね?
握手したら力を入れて握るのはメンズあるあるですよね?




