ゴーシィ、肉を斬らせて骨を断つ〜異世界生活百三日目〜
今話で初登場の種族の言葉が読みにくいですがご了承下さい。
キャラ分けする為なんです…………。
後書きのネタの後に作者よりご報告がございます。
「やっと夜明けですね……眠い…………」
辺りが明るくなり、少し警戒を解くと眠気が一気に襲ってきました。
最近、村にいたせいか夜に安心してゆっくり寝る事に慣れていたせいかどうも身体が鈍ってしまっていますね……。
良い機会だから少し心身を引き締めましょう。
「とは言え、流石に夜中神経を張り詰めてましたから、少し仮眠を…………取りたかったなぁ…………」
森の中からかなり強い気配。
流石に火竜迄はいかないものの、今迄あった中で断トツでした。その気配の主は一体、敵意や戦意を一切隠す無く真っ直ぐ、ゆっくりと此方に近付いてきています。
「獣…………にしてはおかしいですね。狩りをするにしては明らかに殺気立っていますし……」
幸い、此処は広いので背に携えた波折を抜き、気配の主が現れるであろう方向に刀を構え、最大限警戒をしつつ待ちます。
「オマエ、ドワーフ?」
木々の間からゆっくりと姿を現したソレは、僕を一瞥して声を掛けてきました。
パッと見は人間っぽいですが、体表が赤く、髪は白髪でした。
体長は3m超の筋骨隆々な大男。
そして額から生えている2本の角。
肩に担いで持っている棍棒……と呼ぶには凶悪で粗悪な太く長い木を削っただけ武器。
魔物であればファンタジーで言うオーガ、言葉を話しているので人間だとすれば鬼人族もしくは鬼ビト族……と言ったところでしょうか?
もしかして、話が通じる…………?
…………って誰が何処ぞのドワーフそっくりだって!?
あんなに毛むくじゃらじゃありませんから!
なんて考えていると焦れた様にもう一度声を掛けてきました。
「オマエ、ドワーフ?……ン?モシカシテ、ヒト?ダトシタラ、ヒト。ナゼ、コノモリ、イル?」
ヒト族と判断した直後、相手から怒気が伝わってきました。
此処迄ヒト族が嫌われるって、一体何をしてきたんですかね……?
「はい、見ての通りヒト族です。この森にある村に身を寄せていたのですが、諸事情で現在絶賛遭難中です」
直ぐに攻撃されないのを見るに、まだ比較的理性があるみたいですね。
少なくとも何処ぞのハルピュイアよりは。
「ムラ……?オオミズ、チカク、ムラ?」
「オオミズ……?湖の事ですかね?もし湖の事でしたらそうですね」
「ソノムラ、ヒト、イナイ」
「訳あって住まわせてもらっているんですよ。もしかして場所を知っているんですか?」
「ホント、カ?アノムラ、ヒト、キライ。オマエ、ウソ、イッテル。コロスッ」
前言撤回っ!
一瞬で殺気全開の戦闘モードになって、棍棒を叩き付けてきました。
幸い、動作が大きかったので容易に避ける事は出来ましたが僕の傍らにあった焚き火は一発で粉々。
あんなのに当たったらスプラッター映画よろしくの事態になりますね、こりゃ。
「嘘ではありません!僕はあの村から認められて村人として現在住んでいます!訳あって今はここにいますが…………」
「ココ、イル。ダカラ、ムラビト、チガウ!オマエ、ウソ、ツイテル!」
「此処にいるんですけど嘘じゃ…………あぁ!もう説明するのもややこしいっ!」
今度は横に薙ぎ払われた棍棒を屈んで避けました。
遅れて襲ってきた風圧に思わず尻もちを着きそうになりましたが何とか踏み留まりました。
そこそこに重い体重の僕を棍棒を振った風圧のみで体勢を崩させるなんてどんな馬鹿力なんでしょうか?
因みに重いですけど断じてデブではありません、ただのゴリマッチョです!…………チビですが。
「とりあえず、一度冷静になってもらうしか無さそうですね……」
「オデ、イツモ、レイセイ…………ウガァァァァァァ!!」
「叫び散らかしてる輩の何処が冷静なんですかぁぁぁぁ!!」
上下左右から襲いかかってくる必殺級の一撃一撃。
そこに技術も何も無いので避けるのは難しく無いのですが、一振り毎に心も体も持っていかれそうになるのがネック。
二の句を告げる暇も与えてくれません。
話し合いで解決したかったですが、これは一戦交えてからじゃ無いと話し合いも難しいみたいですね。
かと言って命を奪ったり、後遺症が残る様な攻撃は躊躇われるので、狙いは一撃で昏睡させる事。
次の横薙ぎで一撃を決める。
そう決心して、僕は身体強化の魔術を使用しました。
「ン?オマエ、イマ、ナニカシタカ?」
「っ!?」
まさか魔術を使ったのがバレたんですか!?
確かにまだまだ拙いかもしれませんが、少なくともマリアンさんからお墨付きは貰える発動気配の無さと発動速度だった筈なんですが……。
野生の勘ですかね?
いや、この人?が野生なのかは分かりませんが、少なくとも第六感が働いたんでしょう。
しかし馬鹿正直に教える理由もありませんので、そのまま無視して攻撃を交わし続けます。
そしてとうとうチャンスが到来しました。
僕から見て左に構えた横への大振り。
その振り向かれた棍棒の下を掠める様に潜り抜け、振り切ったタイミングでカウンター気味の左アッパーを相手の顎目掛けて叩き込みました。
その威力はその巨体を浮かす…………事は一切有りませんでしたが、少なくとも頭部が跳ね上がる威力、更に返しの右で伸び切った腹目掛けてボディーブローを打ち込み、くの字に曲がって下がった顎に今度は左のフック。
顎への2発で相手の脳味噌は縦と横に振り回されて目を回してダウンす―――
「ガアァァァァァ!!」
「ちょっ!?有り得っ―――」
完璧に入った筈の攻撃を物ともせずフルスイングで戻ってきた棍棒。
脇腹に直撃する寸前、何とかガードを固めて防ぎましたがその勢いは凄まじく、森へと吹き飛ばされ、木に叩き付けられてしまいました。
「……つぅ…………。頑丈過ぎませんか…………ん?」
ギリギリ意識を保ったまま、さっき迄いた方を見てみるとうつ伏せに倒れた鬼人族が見えました。
きっと最後の力を振り絞って棍棒を振り抜いたんでしょう。
もしも、あれが一切ダメージが無かったと考えれば背筋が凍り付きますね……。
ともあれ、何とか意識を刈り取る事に成功しました。
咄嗟の防御で棍棒と身体の間に滑り込ませた右腕は折れてはいないものの、暫く動きそうにもありません。
襲ってきた彼が目を覚ます迄の間、冷やしたり腕を吊る三角巾でも造っておきますかね。
分かっていたつもりですが、やっぱりこの森は人が独りで生きていくには危険が多過ぎる。
せめてこの鬼人族が仲良くしてくれればなぁ……。
何処ぞのドワーフと何処ぞのハルピュイアの会話。
「……ックシュン」
「「あぁ゙!?フラウ、風の病(風邪)か…………ヴェッ……クショっ!!」
「ん〜?ハルピュイアは風の病はならないの!多分誰かが噂してるの!ゴルゾフこそ風の病なの!」
「儂も違うぞ。もしかしてゴーシィが儂等の事を話しているのかもしれないな」
「そうかもしれないの!」
「「ハッハッハッハ!」」
何処の世界でも似たような言葉があるみたいですね。
【作者よりご報告】
もう一つの作品でもご報告しておりますが、春頃までプライベートが忙しく更新が難しいので落ち着くまでの間、更新頻度を【2日に1回】から【3日に1回】にさせていただきます。
読んでいただいている皆様にはご迷惑をおかけ致しますが、これからもこの小説をよろしくお願いします。




