剛士、少し本気を出す〜異世界生活七日目③〜
冒頭に脳についての記述がありますが、これは一説を元に、『あくまでファンタジーとして』の内容になります。
つまりは『これ、ファンタジーですから!』なノリで多少の矛盾や無理は飲み込んでいただけると幸いです。
※少しネタバレになりますが、次話は外伝となりますので、本日もう一話投稿致します。
『脳は普段、全体の10%しか使われていない』
実はこれ、真っ赤な嘘。
最近の研究の結果、人間の脳は睡眠中でも100%使われている事が既に分かっている。
では、全ての人間が能力を100%フル活用出来ているかと問われるとそれは否と言える。
100%使用している=使い熟せている
とはならないのもまた一つの現実だ。
では実際、『その能力の全てを効果的に、且つ必要な物事にだけ向けられればどうなるか?』を突き詰めたらまた一つ違う現実が見えてくる。
それが《傀儡遊戯》と呼ばれる僕が使った身体運用法。
これは決して魔法なんかでは無い。
様々な事を並列的に熟してくれている脳の活動を一時的に一つの方向に特化させるだけ。
ただ、たったそれだけの事をするだけ。
しかし、それだけで人間はまるで魔法を使っているかの様に。
まるで超能力を得たかの様に。
それ程までに他と比べて住む世界が、見えてる世界がズレる。
その結果、三十体いたホブゴブリンは一度も武器も爪も振るう事無く全て姿を消した。
「さて、残りは本命の貴方だけです。覚悟は良いですか?」
残ったオークは何が起こったのか理解出来ておらず、周りを見渡して狼狽えている。
少し可哀想だが、命のやり取りの最中、その隙はあまりにも致命的でした。
「では、さようなら」
離れていた距離を一瞬で詰めた僕は一寸の狂い無くオークの首を一刀両断。
僕の着地と同時に体と離れ離れになった首は地面に落ち、少し遅れてその巨大が地に伏せる。
そして他のホブゴブリン達と同様に砂になって消えていった。
「《戯レ、終イ》…………はぁ、疲れましたぁ〜」
全ての敵が居なくなったのを確認して僕は地面に大の字で横たわりました。
《傀儡遊戯》は諸刃の剣。
脳の活動を一時的ではありますが、戦闘で必要なものに全て注ぎ込み、それ以外の一切を遮断してしまいます。
その為、生命維持に必要なもの(消化や老廃物の除去・発汗やその他諸々)も機能しなくなるので、使い過ぎれば身体に多大なダメージを負ってしまいます。
また、筋肉や骨の限界を一時的に超えてしまうので、ハッキリ言って今の僕は全身酷い筋肉痛に苛まれています。
「十秒程度だったからこれだけで済ましたが、もしもっと苦戦していたら、多分全身肉離れとか、下手すれば折れますからね…………」
動きを良くする為に一時的に血圧が上がるので血管が『パンッ』とかもあり得るし……。
何はともあれ、筋肉痛以外無事何事も無く切り抜けられたのは幸いでした。
痛む体に鞭を打って戦利品の回収といきましょうか。
オークが付けていた背中の剣帯とホブゴブリンが腰に巻いていたベルトと麻袋を回収して装着。
麻袋にはこれまでとここで入手したオニキス的な石を投げ込んでいきます。
正直そろそろ入れ物をどうしようか悩んでいたので助かりました。
「それにしてもオークのオニキスは大きい、ピンポン玉サイズですね」
ゴブリン達の石をビー玉、ホブゴブリンはそれよりも一回り大きかったのですが、オークのはそれ以上でした。
「後は武器ですが、ホブゴブリンの持っていた鉄の手斧と今折れてしまったショートソードの代わり、ナイフをもう一・二本回収するのは確定として、問題はこれですよね…………」
オークが片手で軽々と持っていたバスターソード。
手に持っているとやはり見た目相応の重さが有り、重量は3kg超えてる位。
長さもあるせいか、それよりも重く感じますね。
両手であれば充分振れそうだし、見た目に箔が付くので、一応持っていきましょうか。
「これであとはローブかマントでもあれば、人と会っても旅人か傭兵とかで通せそうですね」
傭兵とかあっちでは中々名乗れない職業、いや〜ファンタジー世界って感じがしてきました。
これまではただの極限サバイバルでしたからね。
牙兎とかオルトロスとか大蛇は別として。
「それともう一つ処理しなければいけませんね」
なるべく気にしない様にしていましたが、先程から視界の端に映っているそれにとうとう触れる時が来ました。
「何処からどう見ても宝箱……ですよね?」
オークが消えた後に、部屋の反対側の扉の近くに現れた宝箱。
ゲーム等であれば、そこから何かしらのアイテムが入手出来ると思うんですが……。
「そう都合良く行きますかね?」
不安を抱きつつも、やはり好奇心には敵いません。
ゆっくり近付き、罠が無いか周りを含めてしっかりと探った後、宝箱を開きます。
「これで開けたらトラップで「はい、終了。お疲れ様でした」とか…………無かったですね。これは…………ブレスレット?」
宝箱を開けて入っていたのはその大きさにそぐわない銀色のブレスレットでした。
「呪いの装備とか?着けてみたいけど、外せなくなったらどうしましょう…………ん?大きいですね……え?僕の腕のサイズまで縮んだ?え?めっちゃファンタジーじゃないですか!」
腕に通してみると、ぶかぶかだったブレスレットは僕の手首のサイズ、しかも少し遊びがあるが動かすのに邪魔にはならない程に小さくなった。
「身体に不調や違和感は無い。でも、これどうやって外すの?」
手を抜こうにも抜けない。
やっぱりこれ呪いの装備?
「…………まぁ、特に問題無さそうだし外さなくても良いですよね。うん、そうですよ。きっと大丈夫」
そう思い込む事にしました。
そうしないと泣きそうですから。
ブサイクの泣き顔なんて何処にも需要無いですしね。
「言ってて泣きそうになってきた…………。この辺で切り上げてもう地上に戻りましょう…………」
結局、自分で自分の地雷を勢い良く踏み抜きながら、僕は入ってきた扉から部屋の外に出て、ダンジョンの入口まで引き返す事にしました。
はぁ…………イケメンに生まれたかった…………。
バスターソードと言えば、某最後の物語のクール系主人公が持ってる剣を想像してしまいがちですが、本来はあそこまで大きくなく、太くも無いです。
実際にあのサイズになると鉄で造れば80kgを超えてしまうらしく、とてもじゃありませんが人間に仕える代物では無くなる様です。
まぁ、ファンタジーなので、「関係無いね」で押し通せそうな気もしますが……。




