【番外編】ゴーシィ、英雄扱いされる
今話は第三者視点でお送りします。
主人公の呼び方はタイトルと合わせています。
ゴーシィがドラゴンから逃げて川を発見した頃―――
「何とか戻ってこれたか…………」
「あぁ、そうだな。ところでゴーシィは何処に行った?」
「もしかすればもう村へと戻っているかもしれないな」
「あいつはヒト族にしては足が速ぇからな。そうに違いねぇ」
村の門が見える所迄辿り着いたレリールとゾンテはまだ姿の見えないゴーシィの話をしつつ、村へと歩みを進めていた。
しかし村に戻り住人に話を聞くも、彼の姿を見た者は誰もいないと言う。
「もしや…………」
「あぁ……。最後、火竜が火炎の吐息をゴーシィに向けて薙ぎ払っていた。あれの直撃を受けていたのであれば…………」
「兎に角、長に報せてこよう」
「あぁ、こっちも伝えてくる!」
二人は事の顛末を報告する為、夜中にも関わらず互いの種族の長の元へと急いだ。
「そう……火竜が現れたのね…………」
「はい。火竜はヒト族の騎士達を一蹴し、最後は私達に向けて息吹を放ってきました」
「俺達は何とか逃げ切ったんだが、最後に見えた時には火竜の奴ぁ、火炎をゴーシィに向けていたんだ」
「いくらゴーシィとは言え竜の火炎を受けたら一溜りもねぇよな…………」
「私達でもあの息吹の直撃を受けたらただでは済みません。直ぐ側に水辺があれば飛び込んで火を消す事は出来ますが……」
「ゴーシィはボク達みたいに飛べないの……。だから竜から逃げ切れないの……」
「そんな……事って…………」
現在この場にいるのはエルフ族の長エルクリア、ドワーフ族の長ゴルゾフ、ハルピュイア族の長フラウ、マーフォーク族の長マリアン、事の顛末を報告に来た二人、そして…………その場で泣き崩れてしまったフィズだった。
「おいおい泣くんじゃねぇよ、嬢ちゃん。まだゴーシィの奴が死んだと決まった訳じゃねぇんだから」
ゴーシィとフィズが洞窟に落ちてきた時に知り合った、この中で付き合いが一番長いゴルゾフが彼女を宥める様にそう声を掛ける。
しかし、そんな彼の発言をバッサリと切る者がいた。
「いいえ、ゴーシィはもう生きてはいないでしょうね」
エルクリアだった。
彼女は本来優しい性格だ。
しかし、今は村を纏める長の一人として毅然な態度を取っている。
「分からねぇだろうがっ!いい加減な事を―――」
「いい加減な事を言っているのはどっちよ!現れたのはあの火竜よ!この森の頂点に、いえ、この世界の頂点に位置する生物。そんなものから異世界人とは言えヒト族が逃げ切れると本気で思っているの?」
「だ、だか……あいつなら…………」
「いくら人並み外れた実力を有しているとは言っても所詮は人間です。いくら強くても蟻がオークに勝つ事は有り得ません」
「マリアン、お前ぇ迄…………」
「でも!ボクは生きていると思うの!ゴーシィは強かったの!だからきっと大丈夫なの!」
エルクリアとマリアンは火竜の危険性を重視し、一貫してゴーシィが死んだと言い切る。
同様にゴルゾフとフラウは火竜の危険性を分かっているものの、ゴーシィであればもしや……と希望を見出そうとしていた。
後者の二人に同意する様にレリールとゾンテは力強い視線を前者の二人に向けた。
エルクリアは諦めた様に溜息を一つ吐き、今後の方針を皆に伝える。
各種族の長に優劣は無い。
だが普段、村の方針を取り仕切るはエルクリアだった。
しかし、彼女の独断で全て進める事が出来ないのも事実。
「…………分かったわよ。今日から一時の間はヒト族の警戒と火竜の動向を探りましょう。ゴーシィが向かったとされる村の西側とローゼンがある南西側を中心にね」
彼女の定めた方針はあくまで村を守る為の方針だった。
しかし、方角をある程度限定する事で警戒と同時にゴーシィの探索も可能となる様に配慮をする事にした。
「村の西側には海へと続く川がありますが、そこは私達マーフォークが見回ります」
「おい、万が一ゴーシィの奴が川を飛び越える事は無ぇか?」
「それは無いと思うの!あの川は火竜と変わらない位の横幅があるの!だから普通は飛び越えられないと思う、の…………」
フラウの声が少しずつ尻すぼみになっていく。
本来ならヒト族が飛び越えられる筈は無い。
そう、本来は…………。
「「「「「…………」」」」」
皆の心が合致した瞬間だった。
(ゴーシィなら飛び越えかねない)
と。
「…………探索・警戒範囲を村の西側半分を対象としましょう。北側の山に近付くとより危険な生物がいるからあまり無理はしない様に伝えて頂戴」
ゴーシィの身体能力を考えるとエルクリアの判断は早かった。
もし川を飛び越え北の山に近付けば、其処はこの森以上に危険な魔物や魔獣が跋扈している正に魔境。
いくら異世界人のゴーシィとは言えそう簡単に生き残れる筈も無く、探索に向かうのも文字通り命懸けとなる。
住人に無理はさせられないと、それを徹底した上でゴーシィの探索を進める事になり、この緊急招集はお開きとなった。
フィズやゴルゾフ、フラウとゴーシィと共にいた二人は勿論、エルクリアとマリアンも心の中ではゴーシィの無事を願っていた。
一夜明け、昨夜の件が村中に周知されると、住人達からこの様な声が上がった。
「村とその住人をヒト族の侵略と火竜の脅威から身体を張って守った英雄ゴーシィを讃えよ」
と。
勿論、英雄と呼ばれている事を当の本人は露知らず、残念ながら未開の地で必死にサバイバル中である。
因みに幅跳びの男子世界記録は8.95m大型トラックは12mあるから普通は飛び越えられないゾ!
これにて四章は終わり、今年最後の更新となりました。
今年最後の更新がこんなんで良いんか?いや、良いんです!
年明け迄後少し、作者は年越し蕎麦では無くカップうどんを食べて呑んべんだらりんと過ごしたいと思います。
では又来年(明日の18時)!




