ゴーシィ、騎士を一蹴する〜異世界生活百日目③〜
今日から大晦日、正月の三ヶ日連続更新!
明日、今年最後の更新は一時間開けて二話更新になります。
本編→番外編の流れで現在の四章が終わりです。
カルチャイ=ノーベバン副騎士長。
彼の言動から察するに、そこそこ良いところの貴族の出でしょう。
そしてその雰囲気からは弱者と見定めた者への苛烈な嗜虐性が伺い取れました。
そして少しカマを掛けるとその仮面は直ぐに崩れ去り、仮面の下に隠された嗜虐心剥き出しの笑顔を此方に向けてきました。
「これはこれは。殿下の仰っていた通り、貴様は我々の害になりうるな。だが良いのか?此方は第二騎士隊と第五騎士隊の総勢三百名、それに対して貴様はたった一人。この状況をどうにか出来るとでも?」
圧倒的有利な盤面。
自分に不利が一切無いと分かっていてのこの笑顔。
やっぱり、此奴はクズですね。
「そうですね……。第五騎士隊の方々はどうですか?僕を殺すおつもりで?」
「い、いえっ!ノーベバン副騎士長っ!我々の任務はタケシ様をお連れし―――」
言い切る前に背後にいた別の騎士隊の者に腹部を貫かれたノリスさん。
それを見た第五騎士隊の面々からは動揺が伝わってきました。
一方、第二騎士隊の面々は変化無し。
つまり、そもそも此処にいる第五騎士隊も一緒に始末するのも計画の一環だったのでしょう。
ノーベバン副騎士長は片方の手を大きく天に掲げて宣言しました。
「ノリス、貴様の言う通り連れて帰る。但し、この異世界人が言った通り…………口も開けぬ物としてなっ!やれぃっ!」
彼がその手を振り下ろすと同時にノリスさんのを踏み越えて此方に突撃してくる第二騎士隊の騎士達。
確かに数は正義。
どんなに此方が強くても数で圧殺すれば良いのも頷けます。
しかし、それが本当に一人ならば……の話ですけど。
「第五騎士隊っ!死にたく無ければ伏せろっ!!」
怒号にも近い声で第五騎士隊に声を掛けました。
その声に反応した面々が地に伏せた刹那、僕の背後から風切り音が聞こえ、襲い掛かってきた騎士達を次々に射抜いていきました。
それから数秒遅れで今度は真横から太陽にも思える赤々とした巨大な火の玉が彼等を爆炎へと包みます。
あれ……?少し使えるって話は何だったの…………?
いや、木を燃やすどころか消し炭にしてるから確かに周りが燃えたりはしてないけど…………。
そもそも隠れていたのが僕の後ろじゃなくて割と真横だったのにも驚きましたが、表情に出すと何だか負けた気がして悔しいので素知らぬ顔をして呆然としているノーベバン副騎士長に向き直りました。
「ほら、この通り。どうにかなりましたよ?」
「ぐっ……。貴様ぁ…………」
先程の笑みが一変、今度は視線だけで人が殺せるんじゃないかと思う程殺気の籠もった目付きで此方を睨んでいます。
この状況じゃその顔も負け犬にしか見えませんけどね。
「誰が負け犬だぁ!!調子に乗るなよ、若造がぁっ!」
「おっと……声に出てしまいましたか。それは失礼…………っと!」
剣を抜き、振り上げたまま此方に突進してくるノーベバン副騎士長を軽くいなして、すれ違いざまに腰に提げた漣を抜き放ちそのまま胴薙ぎ一閃。
上半身と下半身が別れた彼の身体は力無く崩れ落ちました。
「さて…………。さぁ、命が惜しく無い方々は掛かってきて下さい。矢で射抜かれるか、炎で焼かれるか、それともこの刀の錆になるか。選んで良いですよ」
まだ残っている第二騎士隊に切っ先を向け、殺気をぶつけながらそう投げ掛けました。
頭である副騎士長が真っ二つにされ、最初に此方に向かってきた者達も誰一人として生き残っていない現状、何とか武器を構える者もチラホラいましたが、一向に向かってくる様子はありません。
そして殆どが逃げ腰……むしろ逃げ出している者もいる始末。
「はぁ……。これで騎士を名乗れるなんて…………」
刀を腰に提げた鞘に納めつつ、ついつい独り言が溢れてしまいました。
「第五騎士隊の皆さん、先程は怒鳴ってすみません。もう顔を上げても良いですよ。仲間には手を出さない様に伝えておきますから」
立ち上がった人達を攻撃しない様に手を上げて二人を制しました。
多分、分かってくれるよね…………。
上手く伝わったみたいで二人からの追加の攻撃は有りませんでした。
これで一件落着。
第五騎士隊には何とか理由を付けて帰ってもらうとして、残りの第二騎士隊の人達はどうし―――
「うわああぁぁぁーーーーーっ!!!」
突如、森から叫び声。
方角的にはさっき逃げ出した騎士達が向かった方角でした。
僕はこの場にいる人を守る様に騎士達を掻き分けて前に躍り出ます。
声がした方向を注視しながら探っていると感じる無数の気配。
しかし叫び声と同時に感じた殺気は鳴りを潜め、直ぐに違う気配に変わっていました。
「殺気…………?いえ、違いますね。伝わってくる気配は…………興味?」
「ゴーシィ!」
「拙いぞっ!」
「レリールさん!?それにゾンテさんも!」
身を隠していた二人が大慌てで姿を表しました。
二人を見た騎士達は「エルフ……」「本物か?」「ドワーフ……いや異世界人が二人?」「似てるとは聞いていたが似過ぎだろう」と口々にしています。
おい、誰だ。
僕をドワーフと似てるって言った奴。
……と、そんな場合じゃありません。
「何があったんですか?」
「森の主が此方に向かってきている」
「森の……主?」
「あぁ、この森の王。決して触れてはならぬモノだ…………」
森の王。
それが此方に近付いてきている……ですか。
二人を見るに、決して戦ってはいけない。
それどころか出会ってはいけない一種の厄災なんだろうと思われます。
全く……何でこう、面倒事ばかりやってくるんですかねぇ……。
僕が原因とか野暮な事は言いっこ無しですよ?
【作者より年末のご挨拶】
皆様、今年の6月から掲載を開始したこの作品を読んでいただき、誠にありがとうございます。
二日に一回更新なので、あっという間に百話を超えてしまいましたが、本人的には楽しく書いています。
主人公の物語はまだまだ続きますのでこれからも応援宜しくお願い致します。
明日にはまた続きを掲載しますが、良い年末をお過ごし下さい。
来年も皆様にとって良い年になりますように。




