ゴーシィ、カマを掛ける〜異世界生活百日目②〜
今話はいつもより少し長めになります。
※後書きに設定に関わるお話がございますので、良ければそちらも合わせてお読み下さい。
ハルピュイアの報告を受けてから一時間程経ち、唯でさえ暗い森の中は更なる闇に包まれました。
僕はヒト族が通るであろう場所に立って相手を待ち構え、二人はそれより村の方角にそれぞれ別の形で潜んでいます。
レリールさんは木の上に登り、ゾンテさんは体格的な問題で生い茂る藪の中。
今回の作戦は至ってシンプル。
先ずは僕が敵軍の矢面に立ち、相手の目的を探ります。
クラリス殿下が僕とフィズさんを探しているならば話を聞いてくれるでしょう。
逆にボルドー殿下の手の者なら躊躇無く僕を亡き者にしようとする筈。
二人は危険だと言ってくれましたが、いきなり攻撃してもし敵意が無ければ夢見が悪いし、それによって此方が敵認定されたらたまったもんじゃありません。
無理矢理その形を押し通し、今に至ります。
レリールさんはエルフ族特有の視力の良さを持ち、僕をお家柄暗闇には慣れています。
ゴルゾフさんは…………まぁヒト族より見えますよ、うん。
それに火魔法で照らされればヒト族よりも優れた視力で見えるでしょうし。
ふと作戦を練っている最中に「火を森の中で使うのは如何なものか?」と尋ねましたが、「この辺りの草木は微量の魔力と豊富な水分を含んでるから熱に強い」だそう。
だからサバイバルしていた時に火を熾すのめちゃくちゃ大変だったのかと思い出したのは良い思い出。
そんな思い出に耽っていると、遠くに僕の視力でもぼんやりと確認出来る光が現れました。
レリールさんなら確実に、ゾンテさんも光源さえあれば僕よりもハッキリ見えていると思われます。
僕は見えるのでは無く、慣れているだけですから。
二人の潜伏場所はもしもの時に備えて僕には伏せてもらい、知らされていませんので詳しくは分かりませんが、少なくともレリールさんから僕が見える位置なのでしょう。
お、ぼんやりとしていた光がハッキリと見え始めました。
やはりハルピュイアの言っていた通りかなりの人数なのでしょう、光源が幾つもあります。
さて、そろそろ敵か味方かを確かめますか。
僕は大きく息を吸い込み、まだ相手が此方を発見出来ているか否かの距離で声を掛けます。
「ヒト族の方々、其処で止まって下さい!」
静かな森に響いたその声に相手は慌てているのが伝わってきます。
「これより先、この森の中でもより危険な場所となります!何の用があって此処にいらしたのでしょうか!?」
騒然としていた敵軍ですが、一部が僕を見付けたのか少しずつ落ち着きを取り戻しつつありました。
そして相手を纏める立場の者なのか分かりませんが、一人の騎士が此方に問い掛けます。
「貴殿は異世界より来たタケシ=オオタ様で間違い無いでしょうか!?」
思ったより丁寧な返答が返ってきました。
それに問答無用で矢を射ってきたり……はしないみたいですね。
「はい、僕がタケシ=オオタです。そちらはローゼン国騎士隊の方で間違いありませんか?」
「そうです!私は第五騎士隊に所属しているノリスです!蟻の巣ではタケシ様に助けていただきました!姿をお見せいただけないでしょうか?」
第五騎士隊所属って事はオーガスト副騎士長のところの人ですか。
流石に全員の名前は覚えていませんが顔は……あぁ、見た事ありますね。
一応面識がある人が先頭にいるので、警戒の姿勢は崩さず相手からも見える距離迄近付きました。
「お久し振りです……で良いですかね?すみません、顔は拝見した記憶があるのですがお話した事があるかも分からず……」
「いえいえ、命の恩人であるタケシ様に顔を覚えて頂いているだけでも光栄ですから」
「それなら良かったです。それよりも……」
「はい、我々が此方に参った理由ですよね?」
正直、話が早くて助かります。
ノリスと名乗った方以外は僕に対して無関心を装っていますが、敵意がひしひしと伝わってきているので早くこの場から離れたいのが本音です。
「我々はボルドー殿下とクラリス殿下からの命を受け、タケシ様とその従者の方の捜索に参りました。まだ生存しているのであれば救出を、もし死亡しているのであればせめてその亡骸を国で埋葬する為に」
「あぁ……そう来ましたか…………」
「何か?」
「いえ、此方の話ですのでお気になさらず」
ボルドー殿下かクラリス殿下の指示だと考えていましたが、まさかの合同だとは……。
「ところで後ろの皆様は?」
「はい、彼等は―――」
「我々は誇り高き第二騎士隊!そして我はその副隊長、カルチャイ=ノーベバンである!」
「…………です」
「ははは…………」
これはまた中々キャラが濃い人が来ましたね……。
それよりも第二騎士隊と言えば王都の守護を任されていると聞いていました。
そんな人達がわざわざこの森に出張ってくるなんておかしい。
もしやこの人達がボルドー殿下に指示を受けた人達なんでしょうか?
「ところでタケシ様、従者の方はどちらに?」
「フィズさんですか?それでしたら安全な所にいますよ。今、この森は危ないので」
「そうですよね。でしたら一緒に迎えに行きましょう。大人数の方が彼女も安心出来るでしょうし」
「早く案内しろ、二人を連れて帰るのが我々の仕事だ。手を煩わせるな!」
ふむ……。
ノリスさんの言っている事は本心ですね。
本気で「女性一人でこの森は危険だ」と考えていそうです。
ですが、このノーベバンって人はきっと違う。
何処と明言していない筈のフィズさんがいる村へ……先程言った安全な場所へと迷い無く進もうとしています。
僕が立っていたのは道無き道、獣道すら無い場所。
普通なら僕が現れた場所から真っ直ぐ進もうとする筈なのに、彼は全く違う方角……そう、村への最短距離である方角に歩き出そうとした。
この人、確実に村の存在を知っていますね。
そうなると先日村の近くで見付かった騎士達は一部だったんでしょう。
そしてその目的はもう分かったも同然。
「…………申し訳ありませんが、僕達はもうローゼンに戻るつもりはありません」
僕の発言を聞き、既に村へ向かって歩き出していたノーベバン副騎士長が「何を言っているんだ」と言わんばかりの表情で此方を振り返りました。
「ちょ……ちょっと、本気ですか!?こんな危険な森に住むつもりですか?それとも―――」
「貴様、他国へ向かおうとしているのではあるまいな?それはローゼン国に対しての謀反となるぞ?」
「謀反?そんなつもりありませんよ。そもそも僕はローゼンの生まれでも何でもありませんから」
「戯言を!それ以上馬鹿げた事を言うのであれば無理矢理にでもその女の場所を吐いてもらうぞ!?」
自分が優位だと考えているのでしょう、直ぐに此方の挑発に乗ってきましたね。
「戯言?馬鹿げた事を言うな?それはそっちでしょう?どうせ僕達を生かして国に返す気も無いのに」
「た、タケシ様!?違います!我々はクラリス殿下から受けて御二人の身の安全を確保する様に命じられております」
「第五騎士隊の方々はそうなんでしょう。ですがノーベバン副騎士長、貴方は違いますよね?」
「そうなんですか?ノーベバン様」
「いや、そんな事は―――」
「いえ、きっとボルドー殿下からこう言われたんでしょう?」
僕は敢えて言葉を切りました。
ノリスさん含む第五騎士隊の面々は息を呑んで、第二騎士隊の面々は敵意を通り越して殺気を此方に向けながら、僕の次の言葉を待っています。
「「必ず連れて帰れ。勿論、死体にしてな」とでもね」
それを聞いたノーベバン副騎士長は口角三日月の様にに吊り上げて、此方を見て笑っていました。
【作者からのお詫び】
以前、ローゼン所属の騎士は六つの隊に分けられると書いた時に一緒にそれぞれの役割を書く予定でしたが流れ的に書けず、後に記載しようと思ったのですが、この小説(他の物も)の設定等を細かく書いていた某メッセージアプリのメモが消えてしまい、消失してしまいました。
その為内容が違う場合がございますが、覚えている限り此処に記載しようと思います。
また、年末連続投稿の一環として登場人物紹介②を投稿しますのでそちらを合わせてお読み下さい。
【ローゼン国所属騎士隊】
第一騎士隊…王族(主に王を)を守る近衛部隊の役割を担っている。騎士隊の中でも特に実力者や権力者が多い。第一王子と第一王女の後継者争い関係無く王と王族以外を蔑ろにする傾向が見られる。
第二騎士隊…王族では無く、王都そのものとその周辺の守護を担っている。自分達は王城や貴族街周辺を警護しているだけで、それ以外の全ての場所を兵士や衛兵等に丸投げしており、指示を出すだけになっているのが現状。第一王子の派閥の者が殆ど。
第三騎士隊…隣国との国境の警備を担っており、報告役が王都に駐留している程度。国境の警備という国の生命線を任されているだけあり、実力だけで言えば第一騎士隊に匹敵するが、身分問わず採用するので、多少品格に問題有。後継者争いに関しては無関心で「そんな事より敵国へ意識を向けてくれ」と常々思っている。
第四騎士隊…騎士と名が付いているが、救助や治療・補給等の後方支援を主とする部隊。戦いが増えてな者や比較的穏やかな者が多く、平時は身分問わずに接する事から民衆の支持は厚く、逆に他の騎士隊や貴族からは白い目で見られている。後継者争いはどちらにも付く事無く、あくまで中立を貫いている。
第五騎士隊…冒険者の等では対応しきれない魔獣や魔物の処理を専門とする。主人公が蟻の巣に向かうきっかけになった隊でもある。どちらかと言えば第一王女派閥。
第六騎士隊…新人騎士達が最初に配属される新人育成の騎士隊…………と一般的に思われているが(実際に育成もしている)、それは表の顔。裏では国内のみならず、他国に潜入調査をする所謂「影」の部隊。現王含む歴代の王より「国に害すると判断すれば王や王族であっても処断して構わない」と密命を受けている。勿論、後継者争いは国に害が無い限り関わるつもりは無いが、もしやり過ぎれば介入する可能性もある。
余談ではあるが、仮に主人公が騎士隊に入隊する世界線があれば確実に第六騎士隊に入っていた。
と、ここ迄が考えていた設定です。
多分合ってると思います…………。
有終の美は中々には飾れない…………。




