ゴーシィ、判断する〜異世界生活百日目〜
エルクリアさんによる石拳制裁から早五日。
数え間違いでなければこの世界に来て百日目となりました。
いや〜それにしても大変でした。
マリアンさんに聞いたところによると、僕が制裁を喰らった直後に入ってきたフィズさんが半狂乱気味にエルクリアさんに掴み掛かり、更に丸一日どころか丸二日目を覚まさなかった僕を見て「エルクリア様を殺して私も死ぬ!」とか言い出したフィズさんを必死に抑え付けたらしい。
流石にエルクリアさんも気不味かったのかマリアンさんに頼み込んで僕に対しての治癒をお願いしてやっと僕は目を覚ました程。
起きたら起きたでフィズさんは僕から離れないし、近付いてくるエルクリアさん達をずっと威嚇してるし……。
それにしても二日間も昏睡する勢いで殴るエルクリアさんもだけど、それを「少し痛い」で済ませるマリアンさんも大概でしょ…………。
まぁ、どれもこれも自分が撒いた種なので文句を言うに言えませんが…………。
そして、そんなフィズさんは一日経った頃に漸く落ち着いたので、僕は改めてマリアンの指導の元、身体強化魔術の訓練をしました。
何でも僕が訓練初日に気を失った原因こそが身体強化魔術だったらしく、既に出来ていたらしいのです。
ただ流し込む魔力量が多過ぎたのと、完全に馴染んでいない魔力が全身を駆け巡った事による一時的なショック状態に陥ってしまい、気を失った様でした。
しかし、一度やり方が分かれば後はその加減を身に着けるだけだったので何と訓練開始から四日、実質的な訓練は二日に満たない期間で無事修得出来ました。
マリアンさんやエルクリアさんからしてみてもそれは異常な早さらしく「やっぱり元々魔術使っていた」と断言されました。
僕があちらの世界にいる頃から使っていたあの身体操作って本当に魔術だったんですかね?
結局真相は闇の中。
そして百日目の今日。
特にこれと言った用事もトラブルも無く、朝食前後に身体強化魔術の反復訓練をして、現在はエルフとドワーフの人達共に森の巡回をしています。
勿論フィズさんは家にお留守番。
「ふむ、特にこの辺りも変化は無いようだね」
「やっぱり怖くなって逃げ出したんじゃねぇのか?」
爽やかにそう告げるイケメンのエルフはレリールさん。
対してゴルゾフさん宜しくのぶっきらぼうさで応えるのはドワーフのゾンテさん。
僕が巡回の際に組む事に決まった二人です。
とは言え、まともな巡回はこれが初めてなんですよね、僕。
顔合わせの日以降、三日間気を失って、一日フィズさんに拘束されていましたから……。
事情を話したら呆れながらも笑って許してくれたけど、本当にごめんなさい、二人共。
そんな適度な緊張感を保ちつつ、森を見回り、日は既に傾き始めています。
この日の巡回も何事も無く終わりに差し掛かっていました。
しかし、そんな穏やかな空気は一瞬にして崩れてしまいました。
「ヒト族がいるの!ヒト族がいるの!」
僕達三人の下に一人のハルピュイアがやってきました。
ヒト族を見付けたと、最悪の報告を持って。
「何処に!?」
「ここから南東に少し飛んだ所なの!」
「数は!?」
「木が邪魔でハッキリとは分からないけど、かなり多いの!木の隙間から長い列が見えたの!」
「くっ!」
上空から見て長い列と言われる程ならば百を超えるのは確実。
ハルピュイアの「少し飛んだ」がどれ程の距離か分からないですが、そこ迄遠くも無いでしょう。
少なくともこちらの索敵範囲に入ってる時点で相当に近いでしょう。
「疲れてるところすみません。ハルピュイアの―――」
「ポーラなの!村に報せに行くの!」
「お願いします。それとフィズさんにも伝えて下さい。もしかすれば彼女が知っている者がいるかもしれません」
「分かったの!行ってくるの!」
そう答えてハルピュイアはまた飛び立ちました。
村へと一直線で向かってくれるでしょうが、それ迄どうするか……?
「我々はどうする?」
「他の見回りと合流するか?他の所にもハルピュイアの奴等が報せてるだろう?」
二人もどうするか決めあぐねているみたいでした。
ここで僕に振るか……。
出来れば年長二人に決めてほしいが、話を聞くところによれば二人共対人戦の経験は皆無、精々模擬戦程度。
勿論、魔獣や魔物に遅れを取る程弱くはありませんが、経験不足がここでどう響くか……。
「……二人共、魔法は使えますか?」
「すまない、私は使えない。だが、弓は得意だ。魔術で補助して百発百中と自負している」
「俺は火の魔法を少しだな。だが、精々頭と同じ大きさなの火の玉を出せる位だ。寧ろコイツでぶん殴る方が早ぇ」
メインは百発百中の弓と熊すら一撃で葬れそうな大鎚。
ゾンテさんの魔法は精々牽制か威嚇程度……ですか。
方角的に接敵するのは僕達が最初でしょう。
息を潜めて動きを探るか……。
それとも少しでも数を減らすか……。
「レリールさん、ゾンテさん。どれくらいの距離だったら敵を捕捉出来ますか?」
「ん?そうだな、村の端から逆側にいる住人の顔を識別出来る程度だ。弓の射程はそれの半分」
「俺の目はそこ迄良くないな。とは言え、其奴の弓の射程迄は見えるぞ。火の玉も見えたさえいればそこ迄は届く」
なんか思ったより凄っげぇ能力持ってるのをサラッと言いやがりましたよ、こ達人。
だけど好都合。
「二人共、今から僕が考えた作戦を伝えたいと思います。それともう幾つかの質問を―――」
こうして僕は二人の話を聞き、これからの行動を決めていきました。
これが後悔する事になると知らずに―――
前半ほのぼの、後半シリアス展開。
諸事情により、前半も後半を別日に書いている関係なのか感情ジェットコースターみたいになってしまいましたが悔いは無いっ!
勿論、行き当たりばったりとかでは無いですよ?(遠い目)




