ゴーシィ、普通に叱られる〜異世界生活九十六日目〜
クリスマス・イヴに怒られている主人公は確実に非リア……と、思ったけど一周回ってこれだけ心配されるのであればリア充では…………?
ふと目を覚ますと、其処は僕とフィズさんがこの村に来てからずっと暮らしているベッドの上でした。
隣に暖かさを感じそちらを見ると、僕の腕を枕代わりに腕の中に収まる様にして眠っているフィズさんがいました。
「可愛い寝顔だなぁ」と見詰めていると、その大きな瞳がパチリと開き、目が合いました。
「タケシ様っ!目が覚めたんですね!良かったぁ〜……」
一度ガバっと身体を起こしたかと思ったら僕の胸にそのままダイブしてきました。
この様子だと僕はあの魔力の訓練で倒れてしまったんでしょう。
かなり心配を掛けてしまったみたいですね。
僕の胸の上にいるフィズさんの体を優しく抱き締めて、頭を撫でました。
「心配を掛けてすみません。もう大丈夫ですから」
「ほんとに?本当にですか?」
「はい、本当です。身体に違和感もありません」
「それは良かったです。でもまだ念の為横になっていて下さい。タケシ様、ご飯食べられそうですか?」
「はい、腹ペコみたいです」
「では何かお作りしていますので絶っっっ対!休んでいて下さいね!」
「はい、約束します」
その言葉に満足したのか、軽い足取りで部屋を出ていくフィズさん。
そう言えば二人の時は「ゴーシィ」では無く、「タケシ」も呼んでくれるんですよね。
何でも、「この村でタケシ様と呼ぶのは私だけ。それって何か……良くないですか?」との事。
個人的にも本来の名前で呼ばれるのは信頼されてる気がして嬉しいので二人の時限定でそうする事にしました。
まぁ外でそう呼ばれても問題無さそうですが、読み間違えたゴルゾフさんの面目丸潰れになるのも理由の一つですが些細な事。
言いつけ通りベッドで横になっていると、扉の外からフィズさんのでは無い複数の足音。
何か凄く嫌な予感…………。
ノックも無しに壊れんばかりの勢いで扉が開けられ、そこにいるのは見る者全てを魅了せんばかりの笑顔を浮かべるエルクリアさんと物凄く申し訳無さそうな表情を浮かべるマリアンさんがいました。
そう、笑顔なんです。
笑顔は本来攻撃的なものだった事をこれ程体現出来るのかと思うくらいめちゃくちゃ笑顔が怖い。
寧ろに鬼どころか魔神かなんかが見えそうな程怒っているオーラが全開でした。
「さて、ゴーシィ?私たちが来た理由分かっているわよね?」
「……分かりません……と言ったら?」
「この村より大きい岩を貴方の頭上から降らせるのと山より高い樹の上から突き落とされるのとどっちが良い?」
「ごめんなさい、僕が調子に乗ったからです。本当に反省しています」
二択の筈なのに行き着く先は死以外無い選択肢を提示され、僕はこの世界に来て一番速かったと自負出来る速度と流れる様な動作で土下座をしました。
「そう、分かってるじゃない。分かっているのにあんな事をしたのね…………?」
あ、これ、謝っても結局駄目なパターンのやつだ。
僕は恐怖で頭を上げられず、次に降ってくる言葉なのか物理的攻撃に身を縮こまらせていました。
しかし、エルクリアさんの口から発せられたのは予想と全く違うものでした。
「魔術の修得。その為に魔力操作を覚えるは必要な事だし、私やマリアンに師事をする判断は間違っていないわ。でも、それでもそれは危険を伴う事なの……」
「エルクリアさん…………」
悲しむような、心配する様な優しい声色に思わず頭を上げて彼女の顔を見上げました。
先程とは違い、それは涙を堪える様な表情でした。
「ゴーシィ、村を守る為に力を付けようとしてくれる事はこの村を治める長の一人として嬉しいわ。でも無理をするのは友人としてしてほしくないの。分かってくれる?」
「はい……。本当にすみません…………」
友人として……ですか。
向こうの世界でもこうやって間違った事をした時に叱ってくれる友人はいませんでした。
心配を掛けた身でこう言うのもなんですが、何だか嬉しく思ってしまいます。
「ありがとう。じゃあ分かってくれた訳だし、これで許してあげるわ」
「…………エルクリアさん?それは一体?」
「ん?ゴーシィの無茶を諌めなかったマリアンにも喰らったやつだから大丈夫よ、死にはしないわ。私の筋力そんなに強く無いから」
「少し痛いですがゴーシィ様ならきっと耐えられると信じております」
エルクリアさんの右手には石で出来た拳がありました。
マリアンさんが喰らったとか死にはしないとか信じてるとな色々とツッコミたいところが盛り沢山。
…………なのですが、自分がやった事への罰なので甘んじて受け入れようと思います。
「さぁ、一思いにお願いします!」
「え……?何?貴方、そういう性癖なの……?女性に叩かれて興奮するってやつ…………?」
「あらあら……」
「いや、違いますからっ!何処の誰ですか!?そんな辺な事教えたのはっ!?」
「「前にいた異世界人(の御方)よ(です)」」
僕の前にここにいたやつ、本当にロクでもねぇな!?
諺と言い、性癖と言い、おかしな事ばかり教えやがって!
以前の同郷の者に恨み節を呟きつつ、スローモーションで見えた迫りくるエルクリアさんの鉄拳ならぬ石拳により、僕は昨日と同様、暗闇の奥深くに沈んでいく事になりました。
どうか、目が覚めますように…………。
二話連続の主人公の気絶!




