剛士、好奇心に連敗する〜異世界生活七日目②〜
初のボス戦!
分かれ道を奥へと進んでいる間、何匹かのゴブリンと遭遇。
三匹同時に遭遇した時は少し焦りましたが、小柄なせいか非力だったので鍔迫り合いも無く、一匹を手斧で強引に叩き斬り、それを見て怯んだ隙に残りの二匹も討伐して事無きを得ました。
ところでゴブリンっての助数詞って匹?人?体?
匹だと動物みたいだから◯体が良いのかな?
次からは◯体で数える事にしましょう。
そんな訳で、装備が少し整いました。
三体同時に現れたゴブリンの内、最後に倒した個体は他のより少し体が大きく、武器も錆びたナイフでは無く短めの両刃剣でした。
これはショートソードで良いんですかね?
しかも割と綺麗だったので、少し狭いダンジョンでのメイン武器には丁度良さそうです。
「ただ雑に扱ってるせいか、斬れ味が少し気になりますね……」
ゴブリンが手入れをしてないせいなのか、元々其処までなのかは分かりませんが、状態が良くありません。
とりあえず、ゴブリンの腰布(何処に触れていたのかは気にしない様にしながら)で全体を磨きます。
少しはマシになりましたが、あと一歩ありません。
その時にふとダンジョンの壁が目に入りました。
いや、元々視界には入っていましたが。
「もしかしてここで研げば……」
刃を当てやすそうな曲がり角の、なるべく平らそうな部分を使い、ゆっくりと剣を動かしてみました。
数回研いだ後、親指の爪に軽く刃を立ててみると―――
「お、案外いけるもんですね。流石に鍛冶師でも無いし、砥石でも無いからあれですが、しないよりマシです」
上手くいったので、そのまま刀身の上半分を研いでいき、逆側の刃を同様に。
因みに、敢えて下半分を研がなかったのは、両刃である性質上、全部研ぐと当たり前ですが、片刃と違い相手に当たれば斬れてしまいます。
その為、片刃で言う峰打ち(もどき)が出来る様に斬れ味が悪いまま使おうと考えたからです。
それに、相手の武器を受ける際にも、刃が立ちすぎていると、すぐに刃こぼれをしてしまうので、それを防ぐ役割もあります。
出来れば回避したいところですが。
そんな訳で初のまともな鉄製武器が手に入りました。
ナイフは刃こぼれと錆で本当に無いよりマシ。程度でしたからね。
それに加えて他のゴブリンが持っていたメイスも加え、中々の品揃えになったのでは無いでしょうか?
こう考えると、手斧で力任せに叩き切ってしまったゴブリンの皮の帽子も取っておけば良かった…………。
いや、残ってはいるんですが、なんかもう内側が色々と大変な事になっているので。
それにサイズが合わない可能性もありましたし。
うん、そういう事にしましょう、サイズが合わなかったんです。
ははは…………はぁ。
「過ぎた事を言っても仕方ありません。次です、次」
片手にショートソード、逆側にはメイス、腰にはナイフが二本に背中に短槍と手斧。と完全にバーサーカーのソレですが、人目がある訳でも無いので、気にせず奥へと進む事にしました。
「う〜ん…………。これ、定番のボス部屋ってやつですかね?」
一時間程ダンジョン内を彷徨って結果、僕は大きな扉の前へと辿り着きました。
「材質は鉄……かな?硬い金属ですね。中から音は……聞こえない。何も居ないとか?それか開けたらスポーンするタイプのボスなんですかね?開けるべきか引き返すべきか…………悩みますね」
あれから一時間、敵を倒しながら歩き回った僕の装備は意外にも整っていました。
ショートソードをドロップ(残して消えた)した大きめの個体が数匹現れ、その度にそいつ等はそこそこ良い装備だったので、有り難く拝借、今の装備はRPG序盤の冒険者装備になりました。
防具詳細は上から、
・皮の帽子
・皮の胸当て
・皮の篭手
・皮の脛当て
です。
武器は
・ショートソード
・鉄のメイス
・鉄のナイフ(錆びてない良い品)
・鉄の短槍
・石の手斧
になりました。
石の短槍は途中ゴブリンの攻撃を防いだ際に折れてしまい、そのまま投擲して汚れたので放棄。
今までありがとう、石の短槍。
そんな感じで、多分ある程度の敵なら戦えるのですが、如何せん情報が無さ過ぎて不安しかありません。
少し開けて覗いたら吸い込まれるとか、一度入ったら出られない場合、どうしようもありませんから。
それに…………。
「はい、好奇心に勝てませんでした。いつか好奇心に殺されますね、僕。やっぱり一度入るとボスを倒すまで開かないタイプの扉ですね、これ」
ボス部屋?の中にいたのは一体の巨大な人の様な魔物と先程まで武器を献上してくれていた少し大きめのゴブリン。
あ、もしかしてあれがホブゴブリンってやつですかね?
「それにしてもまぁ、戦闘の方は殺意が凄いですね」
一際大きいその個体の見た目は殆ど人間。
しかし、背は3mはあり、筋骨隆々。
ゴブリンと同じくすんだ緑色をしており、ゴブリンと違って頭に角は無く、尖った耳と猪の様な潰れた鼻。
あれ、もしかしてオークですか?
「なんかイメージと違う…………」
オークってもっとこう、ブヨブヨの太った体に、如何にも豚ですよみたいな頭を想像するじゃないですか?
「それに、棍棒とかじゃなくて大きい剣…………」
僕の身長より少し短い、大体140cm前後ある刀身の幅が広い巨大な剣。
正に敵を重さで叩き斬る為の形をしている。
ファンタジーではグレートソードとか呼ばれている大剣だ。
「多勢に無勢……どころじゃありませんね。一対多数、圧倒的不利。さて……どうしましょうか…………」
多少装備が整ったとは言え、数の暴力と圧倒的フィジカル差で人間一人なんて簡単に蹂躙されてしまうでしょう。
「…………はぁ。しょうがないですね。使いたくなかったですが、アレを使うしかありませんね……」
この状況を打破する方法が一つありました。
ただ、デメリットも大きいので、出来れば使いたくありませんでしたが、四の五の言っている場合では無さそうです。
僕は左手の人差し指をこめかみに持っていき、一つ息を吐いて、こう告げる。
「《傀儡遊戯》」
その言葉と同時にこめかみをトンと一度だけ叩いた。
そして、その瞬間、ホブゴブリンだった者達は既に居なくなっていた。
次話で剛士が何をしたかの解説をします。
因みに剛志は魔法は使っていません。




