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挿入話① 雪の泥涙

 ―――その日は雨がふっていた。


 なのに、傘もささないで一人歩く。

 つめたい雨。

 くらい空。

 ぐちゃ。

 ぐしゃ。

 ぐちゃ、ぐちゃぐしゃ…ぐちゃ。

 歩く。歩く…歩く。 

 おかあさんが、待ってるから。

 歩く。歩く…歩く。


 ―――こわい。


 外のでんきをたどって、歩く。

 なみだにぬれた顔を、びしょびしょのそででぬぐう。


 ―――さみしい。


 はじめての道だった。

 ずぼずぼと音を立てる長ぐつ。


 ―――さむい。


 立ち止まるごとに、真っ白ないきをはいて。

 雪んこが雨にとけて、ぐちゃぐちゃになってて。


 ―――どれくらい、歩いたかな。


 わからない。

 まわりの景色といっしょ。何も、わからない。

 だけど、信じて歩く。

 言ってた。

 「信じれば、願いは叶うんだから」

 だから、がんばる。

 僕、がんばるよ。


 ―――むかえに、行くから。


 場所はわからないけど。

 …なんとか、なりそうな気がする。

「ケホッ、ケホッ…お、おかぁさん…」

 頭が…ぼぉっとする。足も、ふるえて、いつものように動いてくれない。

 だれも、いない。

 ふらりと、かべに手をついた。

 つめたい。

 さむい。

 くらい。

 さみ…しい。

 なみだと何かのせいで、セカイが、ゆらゆらしてみえる。

「おがぁさん…っ、おがぁぁざぁあん…」

 耳のおくで、きーんと音がする。

 かきごおりをたべたときみたい…でも、なみだがでてくるくらい、いたい。

 ひざが、ぐしゃりと、じめんについた。

 頭がおもくて、たおれる。

 つめたい。

 ほっぺたに、どろどろな雪んこがつく。

 さむい。

 あたためて、ほしい。

 きすして、ほしい。

 ぼぉっとする。

 へへ…きついや。

 おかあさん、信じるって、むずかしいことなんだね…。


 ―――おとうさんは、どこかに行ってた。


 いっしょに行こうとおもった。

「ぇぐっ…ぇぐっ…っ、おねがいだがらぁぁっ……!」

 どうして、これだけあるいても。

「ケホッ、ゲホッっ、ぐっ、ゲホゲホッ…ぇぐっえぐっ…お、ねがい、だからぁ……!」

 みえて……こないんだろ。

 きょう、おでんわがあった。

 いつもおかあさんといってたびょういんから。

 おかあさんは、すとれすってびょうきだった。

 僕は、どういうびょうきかは、よくわからなかったけど。

 とにかく。それがおとうさんのせいだということは、何となくわかった。

 だから、おとうさんもくるべきなんだ。 

 いたら、たたかれてでもつれて行くつもりだった。

 だけど、いない。

 僕、ひとりだけ。

 ふらふら…する。

 何だかきもちいいかもしれない。

 ちからいっぱい走ったときみたいな……そんな……か、ん、じ。

「ぉ、かぁ、さ………」

 つめたい。

 さむい。 

 だれもとおらない。

 クリスマスはみんな、家族といっしょに家のなか。


 ―――プレゼントがほしいなんて、いわない。

 ―――おいしそうなケーキも、いらない。

 ―――あったかい服も、いらないよ。


「………ん」

 ねむ、たい。

 顔がつめたいから、ごろりとあおむけになる。

 雨が顔にふってくる。

 でも…気にならない。

 のどが、かわいてたのかも。

 ぁ、あぁ…僕。

 だめだな。こんなところで寝ちゃ、いけないのに。

 からだ……うごかない。


 ―――ただ、家族と、笑っていたいだけなのに。


 なみだが、あふれてくる。

 どうしようもなく、あふれてくる。

 まるで、あふれることしか知らないみたいに。

 うごかないからだのかわりに、何かを、うったえてる。


 ―――サンタさん。

 僕はかしこいから、あなたがいないことはしってます。 

 でも…今だけ、信じるから。

 もう僕の願いごとはいいから、せめて、おかあさんを助けてあげて。

 信じる。信じるから…さ。




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